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奴隷飼いの大豪商  作者: 小虎
第1章 青年と奴隷少女達
5/9

5.虎視眈々

 屋敷の廊下を、二人の男女が歩いている。


 「…サリア、例の調査は上がっているか?」

 

 「はい。いつでも会議に移れます。」


 主人の問いに銀髪の眼鏡をかけたメイドが答える。


 「…そうか。なら明日は工場に顔を出す。お前も来い」 


 「かしこまりました。」


 ひとしきり会話を終えると、前を歩いていた黒髪の主人は思い出したように振り返る。


 「…そういえば、新人どもは頑張っているか?」


 はじまったなと、内心ほほえましく思いながらサリアは答える。


 「はい。みんなそれぞれの持ち場で頑張っていますよ。気になりますか?」


 「奴らにはそれなりにコストがかかっている。そう簡単に脱落してもらっては困る」


 いつもの主人らしい、ひねくれた物言いに自然と笑みがこぼれる。


「フフ、素直じゃありませんね」


「フン。言っていろ。」


二人の間には、古い付き合いゆえの気安い空気が流れている。屋敷の夜はかくもゆっくりと更けていく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「えーっと、今日買うのは…石鹸かぁ。」


 翌日の昼、私は屋敷の日用雑貨を補充するために市場に向かっていました。石鹸を買うために雑貨屋さんにいきます。

 

 「へいらっしゃい!!! お、アイリスちゃんじゃないかぁ。何をお探しで?」

 カウンターを挟んで男の方と話していた、燦然と輝くスキンヘッド、筋骨隆々の大男、ここの店主ブラウンさんです。

 

 「こんにちはブラウンさん! 石鹸を買いに来ました!」


 「おお、石鹸かい? それなら…」


 ブラウンさんが動こうとしたところ、先ほどまで彼とカウンター越しに話していた男の方がズイッと前に出てきます。


 「御嬢さん石鹸をお探しで!? それはちょうどいいところにいらっしゃいました!!!」


 「え…え?」


 膨らんだおなかに刈り上げ頭のこの男性、石鹸製造会社の販売員だそうです。


 ヴォルナット王国を含めた世界各国の小売店舗では、現代日本のように商品を自分で選ぶセルフサービス方式が普及しているわけではない。店主が、客に応じた商品を、その場で値段をつけて販売する対面販売方式が主流であった。そのため、販売員というのは珍しい存在といえる。ちなみに、石鹸は量売りとなる。


 「今日は御嬢さんに是非見ていただきたい商品があるのですよ!!それがこのサボナです!!」


 販売員の方は背後からヌッとくすんだ乳白色をした固形物を取り出しました。


 「このサボナ、とにもかくにも安い!! 今出回っている石鹸が100グラムに対し300ゴールドなのに、サボナは100グラムに対し100ゴールドでご提供できます!! さらにさらに!!! サボナを300グラムお買い上げいただいたお客様には、同じだけの量を無料でプレゼントするキャンペーン中なのです!!! 」


 「え!?…は、はい…」


 私は販売員の方の勢いに圧倒されてしまいます。それに味を占めたのか、さらに彼の営業トークは続きました。


 「見たところ、御嬢さんはさぞ名のある方のもとに仕えていることでしょう!!! そうなると、きっとそこには多くの従業員が働いていますね!!?? 従って石鹸の消費量も多く、すぐに切れてしまうでしょう!!! 従者たるもの、身だしなみは気を付けなければ、主人の顔に泥を塗ってしまいますからなぁ!!! いかにサボナといえども、その汚れは落とせませんぞ? ぐぅふふふ!! そうなる前に、このサボナ!!! 御嬢さんのお家にぴったりだと思いますので、お買い上げでよろしいですね?」


 「は…はい…」


 「アイリスちゃんも大変だねぇ…」


 自分の店なのにとうとう出番のなかったブラウンさんも、あきれたような疲れたような顔をして同情してくれました。


 「い…いえ! でもおかげで、いつもの量の石鹸が6分の1の値段で買えました! 大収穫です! 」


 「そうか? まぁそういってもらえるなら、こいつも本望だろうよ。 じゃ、毎度ありぃ!!!」


 重たい石鹸を抱え、私は店を後にしました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 市場を少し見回ってみると、先ほどのサボナがいたるところで宣伝されていました。販売員の方たちが所狭しと散らばり、サボナの利点である 「安さ」を喧伝しているのです。


 「さぁさぁ!! 見て行ってくださいな! この市場で一番安い石鹸のサボナだよー!!! 今なら特別なキャンペーンもあってさらにお得だよー!お求めはお近くの雑貨屋までぇ!! 」 


 その光景に私は思わず感嘆の声を上げました。


 「わぁ…なんだかすごいなぁ…」


 少し遠巻きに見てみると、胡散臭い目で販売員を眺める老人、もっと安くしろとすごむ主婦、珍しいものに目を輝かせる子供。実に様々な人がこの市場を訪れていることがわかります。今日も、いつもの平和な1日のワンシーンです。


 こうして街を眺めていると、奴隷になる前のことを思い出します。特別なことは何もなかった。ゆっくりとしたときの中で、優しい父や母、故郷の人々に囲まれ、いつかは結婚し、明るい家庭を築いていく、そういう人生を送るものだと思っていました。あの日が来るまでは。


 おそらく、私が故郷に戻れるのは当分先の話だろうし、場合によってはもう二度と戻れないかもしれない。もう二度と父や母に会えないかもしれない。そう思うと、震えは止まらなくなります。


 「ダメだダメだ!! 考えちゃダメ! 」


 アルベル様の庇護下にあるとはいえ、いつ放逐されるかもわからない。そうならないために、そうなってしまった時のために、一人で生きていく力をつけなければなりません。


 「それに、辛いことがあったのだって私だけじゃないし、悩む必要もない。大丈夫、まだ頑張れる!」


 そう自分を激励すると、教会の鐘がきこえました。


 「あ、夕飯の準備しなきゃ!!」


 自分の仕事を思い出した私は、ちょっと遅れ気味の帰路に就きました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アイリスは屋敷に向かって歩いていた。しかし、さすがに荷物が重かったらしく、少しヨロヨロとしている。すると背後から馬の蹄が地面をける音が聞こえてくる。馬車が近づいているようだ。


 「あら?」


 アイリスは邪魔にならないよう端によるも、その馬車はアイリスの目の前で止まった。御者台から降りてきたのは、眼鏡をかけた銀髪のメイドだった。


 「フフ。お疲れ様、アイリス。ずいぶん重そうね? 」


 現れた人物に驚くアイリス。


 「サリアさん!! どうされたんですか? 今日はアルベル様と出かけられたんじゃ?」


 「ええ、その帰りなの。アイリスはお使いの帰りかしら? ずいぶん荷物が重たそうね?」


 いえ、そんなことないです、とアイリスが答えようとしたとき、馬車の中から声がかけられた。


 「おい。いつまで井戸端会議をしている。早く出せ」


 主人の声を聞いて、茶目っ気のある笑みを浮かべながらサリアは返事をする。


 「あら。はーい、ただいま! 怒られちゃったわね、フフ。アイリスも乗りなさい」


 「え!? いいんですか!?」

 

 「いいのよ。なんていったって、そのためにご主人様(あの人)が止めさせたんですもの」


 「そうだったんですか、ではお言葉に甘えますね。」


 馬車に乗り込むアイリス。中には仏頂面をした主人が座っていた。


 「…早く座れ」


 「は…はい…」


 主人との同席に緊張してしまうアイリス。するとアルベルが再び口を開く。

 

 「…何を買ってきたんだ?」

 

 主人からの問いにあわてて答える。

 

 「は、はい!! 今日は石鹸を買いに行きました! サボナという石鹸が新発売したらしくて、安く調達できました!! 」

 

 アイリスの返答に目を鋭く細めるアルベル。


 「…ほう。サボナか…。アイリス、買った石鹸はしまうのではなく、サリアに直接渡せ。いいな…? 」


 主人からの不思議な指示に、アイリスも違和感を覚えながらも返事をする。


 「は、はい。わかりました。」


 基本的に石鹸などの日用品は、倉庫にしまうか、足りないところへ補充するかをしなければならないのだが、今回の指示は「サリアへ直接渡すこと」だ。


 (一体どういうことなんだろう…)


 アイリスの疑問は深まるばかりである。


 そうこうしているうちに、屋敷に着く。馬車を降りて、指示通りにサリアに石鹸を渡すアイリス。


 夕飯の準備に向かうと、サンドラとマリーナが夕飯の準備をしていた。


 「遅くなりました!! 手伝います!」


 その声に、手を止めず返事をする二人。


 「おう、おかえり」


 「お疲れ様~アイリス~!」


 夕飯の準備を手伝っている間に、今日の一連のことを話す。


 「へ~、そんな安い石鹸が出たのね~」


 「ご主人の指示もなんか気になるな。きっと何かあるぞ?」


 「やっぱりそう思います?」


 アイリスが感じた違和感と同種のものに、サンドラも感づく。


 「うーん…考えられるのは、自分で何かに使うか、もしくは私たちに使わせたくなかったってところかしらねぇ~…?」


 「何に使うんでしょうかね?」


 「さぁ~、さすがにそこは本人か、工場部の人たちしかわからないんじゃないかしら~」


 さすがに先輩二人でも、アルベルの考えていることはよくわからないらしい。


 「謎は深まるばかりだな。で、代わりの石鹸は?」


 「あ」


 「アイリスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!! 」


 「す、すみませんでした!! 」


 「まぁまぁ、しょうがないじゃない。買うタイミングなんて無かったでしょう~?」


 おしゃべりの話をしながらも、各人の料理の手は止まっていない。かくして、今日もアルベル邸のテーブルには、温かくて美味しい料理が並ぶのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「ぎょほほほほ。売れとる売れとるで~! お金ガッポガッポや~!」


夜、アルベル邸とは別の屋敷にて。大きな腹回りに葉巻、いわゆる「成金」のイメージをこれでもかと正確にトレースしたような風貌のこの男。サボナの製造元である「ロースカンパニー」の社長、ロース・ラドミーである。


 「おいグライド…グライド!! おらんのか~!?」


 「はい、ここに」


 茶色のふわっとした髪にブラウンのスーツを着こなす、さわやかな笑みを浮かべた青年。ロースの秘書兼執事のグライドである。


 「いかがなさいましたか? ロース様」


 「おうグライド!! サボナは結局どのくらいのシェアを獲得しとるんや? 」


 「まだ調査の結果が出ていませんのでわかりませんが、販売量でいえば、62トンほど捌けました」

 

 グライドの言葉に、顎を撫でながら唸るロース。

 

 「ほーん…。まぁ出だしにしちゃ上出来やろな。この国の人口は5000万人ほどやから、まだ伸びるで~! 」


 「今回はある程度人口のいる都市部と、その周辺しか販売しておりませんから、まだまだいけますね」


 「そやろそやろ~!? ぎょおぉぉぉぉぉほほほほほほほほほ!!!! 」


夜の屋敷には、彼の高笑いがこだましていた。




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