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1. 黒髪の客人
ある屋敷の地下層の廊下を2人の男が歩いている。
「いやぁ旦那いい時に来ましたよ。奴隷なんてどこにでもいるようで、上玉なんてぇのは意外と手に入らないもんだからねぇ」
猫背にシミの浮かんだ禿げ頭、下卑た笑みを浮かべる老人は奴隷商人。
「…フム。…そうか」
この国(ヴォルナット王国)には珍しい黒髪、少し癖のついたそれを後ろに撫で付けた、紅く鋭い眼の青年は、どうやらこの奴隷商人の客人らしい。
2人が薄暗い通路を進むと、重苦しい雰囲気をまとった観音開きの大きな扉がそれを迎える。そこの先の部屋こそが、奴隷を収容する牢獄である。
奴隷商人がするよりもよりも早く、そして勢いよくその扉を開けたのは、黒髪の客人アルベル・デュランドその人である。
重い扉を勢いよくあけると、そこを中心に円周上に牢屋が並んでおり、その中に年端もいかない少女が10人ほど“陳列”されていた。それらを一望した後、アルベルは高々に声を上げた。
「この中に、俺に付いていきたい者はいるか、いるならば手を挙げよ。そこの奴隷商人からこの場で買い取ってやる」