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その18

 夏別荘前の広場に作られたピザ石窯の煙突から煙が立ちのぼる。

 薄焼きクリスピーのピザ生地にしっかりとトマトの風味するソース。

 トッピングしたコーン&たまご、じっくり熟成させた絶品ベーコンの焼ける香ばしい匂いと三種チーズにマヨネーズが絡みあう。

 カナは焼きあがったピザをナイフで八等分に切り分けて紙皿に乗せ、みんなに配り始めた。


「ピザはチーズがすごく熱々だから気をつけて、サンドイッチみたいに手で持って食べるの」


 そしてカナは紙皿に乗せたピザを直接かじると、とろけたチーズが糸を引く。

 ゴクリ、誰かが唾を飲む音が聞こえ、隣にいたルーファス王子はさっそくカナを真似てピザを食べ始めた。


「ぱくっ、はふはふっ、熱っ。

 オヤカタ、トマトソースの薄焼きパンとカリカリしたベーコン、一緒に食べたらとても美味しいぞ!!」

「王子様、そのような食べ方は行儀が悪いです……でも美味しそう。

 私も一口、ぱくり、あら、このパンはサクッと焼けて香ばしくて、白いマヨネーズが濃厚な味を出していますね」


 別荘からテーブルを外に運び出したが、ルーファス王子や護衛の者たちは石窯の周りに集まり、焼けたピザを石窯から取り出した側から食べてしまう。

 優雅なパーティとはほど遠い状態になってしまったが、皆が喜んでピザを食べる姿にカナは満足する。

 しかし、何かが足りない。なんだろう。


「アレレ、肝心なモノを忘れているような気がする?

 ピザの味にパンチが足りない。あっ、思い出した、タバスコがない!!

 タバスコ抜きのピザなんて、タコのないタコ焼のようなもの。

 コンおじさんの雑貨店に売ってるハズだから、急いで買ってこよう」


 忘れ物に慌てたカナがその場を離れようとすると、ピザを食べてお腹が落ち着いた王子は、自分も一緒について行くという。


「王子、森の外に出ては危険です!!

 ウィルス隊長、王子の付き添いをお願いします」

「なんだアシュ、俺を呼んだか?

 もぐもぐ、分厚く切ったベーコン&エビのピザが焼きあがったばかりなんだ」


 巨漢で大食漢の彼らは、焼きあがった大きなピザ一枚を丸ごとひとりで食べる。この調子ではタバスコを買って来るまでに、すべてのピザが食べ尽くされてしまいそうだ。


「ちょっと待って、私が戻るまでピザは焼かないでちょうだい。

 急いでタバスコを買いに行かなくちゃ。王子は後から付いてきて」

「はい、では私が王子の護衛に付きますので、カナさまは先に行かれて下さい」


 ルーファス王子はカナが白い自転車に乗って白い石畳の道を走る後ろ姿を見た。

 その自転車はまるで宙を駆けるようで、黄金色のまばゆいオーラを放っている。

 王子はふと夏別荘を振り返ると、館の開け放たれた子供部屋の窓からいつも身を乗り出して外を眺めている高位の魔獣【黄金獅子】の姿が見えない。


「アイツめ、知恵を働かせたな。

 白い自転車に憑依すれば、いつでもオヤカタと一緒に居ることができる。

 異界の魔獣の分際で、勝手に僕のオヤカタに近づくな!!」


 やきもちを焼いた王子はカナを追いかけて一生懸命自転車をこぐが、片方の補助輪を外した自転車はバランスを崩す。

 二人の差はどんどん開いてゆき、先を行くカナの姿が見えなくなると、王子は自転車ごと派手に転び泣き出しそうになる。

 付き添いのアシュは王子をなだめると、自転車の後ろを押して白い石畳の道を進んだ。



 ***



「忙しくて忘れていたけど、コンおじさんもピザパーティに誘いたいなぁ」


 妖精森の道向かいの雑貨店に到着したカナは、店の扉に『配達中』の札がかかっているのを見た。

 仕方がないので勝手に店の中に入り、タバスコと一緒に売られていたハバネロを取ると代金をショーケースの上に置いた。

 カナが買い物をしている間、店の番犬が足下にまとわりつき普段以上にじゃれつく。


「オジサンが居ないからお前も退屈しているのね。

 そういえば王子にケルベロスを見せると約束していたし、おじさんのかわりにお前をピザパーティに連れて行ってあげる」


 ケルベロスというダークな名前の小さな可愛い柴犬は、艶やかな黒い毛並みで足先が白、まるで靴下をはいているように見える。

 しっぽがクルリと巻いて耳がピンと立ち、大きな赤い目をしていた。

 カナが犬を抱いて店の外に出ると、ケルベロスはその腕をすり抜けて妖精森の中へ駆けだしてしまう。


「えっ、ケルベロスどうしたの。猫でも見つけた?」


 妖精森の入り口で小さな柴犬がワンワンと激しく吠え、カナに何かを知らせようとしていた。

 この場所は……前にも二回あった。カナは胸騒ぎを感じながら白い自転車を押して、犬が吠える場所に向かう。

 予感的中。最初ルーファス王子が倒れていて、次は隊長を自転車で曳いた森の入り口の同じ場所に、痩せて手足が泥だらけの少年がうつぶせに倒れていた。


「君、一体どうしたの、大丈夫!!

 晴れているのに雨が降ったみたいに全身濡れて泥だらけ。

 それに、この子の髪の色に顔立ちは地元の人じゃない、外人さんだ。

 いやだ、首に縄が巻かれて繋がれてる。誰がこんなヒドいことを……」


 カナは倒れた少年をのぞき込むと、何回か声をかけて体を揺さぶるが、苦しげにうわごとを呟く少年はなかなか意識を取り戻さない。

 

「もう少しで気が付きそうなんだけど、私の声が聞こえないの?

 ちょっと刺激が強いかもしれないけど、この方法で目を覚ますかな」


 そういうとカナは手に持っていたタバスコを指先につけ、口を半開きにした少年の舌にたらす。

 苦しげにうめいていた少年は一瞬押し黙ると、その味を確認するように口を閉じモゴモゴ動かしたあと、突然跳ね起きた。


「うぐぅ、うわぁーああ、大魔女の呪いがぁ、舌が地獄の業火で焼かれるぅ!!

 大魔女さま、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」

「あっ、目を覚ました。ねぇ君、大丈夫?」


 ここはどこだ……大魔女の住む呪われた妖精森の中?

 さっきまで凍えるほど寒い泥の中にいたのに、今は汗ばむほど暑い。

 体を起こし顔を上げた少年は、黒い大きな瞳で自分を心配そうに見つめる茶色い髪にレースのドレスを着た妖精を見た。

 

「良かった、意識を取り戻したのね。少し口の中が辛いけど、タバスコを舐めさせただけよ。

 ここに倒れたままでは熱射病になってしまう、起きて立てる?」

「あ、貴女は誰、人間ですか?

 僕は妖精森の大魔女に、呪いを解いてもらうために来ました。

 どうか大魔女と会わせて下さい」


 少年の言葉にカナは首を傾げた。

 前にも同じような会話をした。この男の子もルーファス王子と同じ事を聞いてくる。


「えっ、大叔母さんはココ妖精森にはいないのよ。

 南の島へバカンスに出かけているの」

「ええ、まさか大魔女がいないなんて、そんな!!」


 カナが「大叔母さんはいない」と返事をすると、少年は酷く落胆した声を上げる。

 この少年も王子たちの国のクーデターに巻き込まれ、大叔母さんを頼って逃げてきたのだろうか?

 そこへ、やっとカナに追いついた王子とアシュは、カナが泥まみれの少年を助けるところを見た。


「カナさま、その子供から離れて下さい!!

 お前は何者だ、どうやってあの強固な妖精森の結界を越えてきた」


 アシュはルーファス王子を後ろに庇い隠し持っていた短剣を構える。 

 少年の服装は、カナたち大魔女の世界のモノではなく自分たち国の平民服だ。

 大魔女の結界を破り妖精森へ侵入してきたという事は、例え子供でも油断ならない。



「ちょっとやめて、子供に刃物を向けるなんて、アシュさんどうしたの!!

 この子は今まで気を失っていたのよ」


 短剣を突きつけられた少年は声にならない悲鳴を上げ、カナはアシュを止めようと前に出る。

 その時、獰猛な獣のうなり声がして草むらから何かが飛び出してきた。

 小さな黒い犬が熱風のような膨大なオーラをまとい、鋭い牙をむき出しにした三首の巨大な猛犬に変化する。

 妖精族の祖先帰りの魔力を持つルーファス王子には、それが罪人の魂を引き裂く地獄の番犬ケルベロスだと分かった。

 ケルベロスは牙をむき出しにして、短剣を構えるアシュに襲いかかろう身構えている。


「アシュ剣を引け。ケルベロスの牙にかかり、魂を引き裂かれるぞ!!」


 制止の言葉にアシュが反射的に剣を下ろし後ろの王子を振り向いた瞬間、地獄の猛犬は大口を開けて女騎士に噛みつこうとした。

 そのケルベロスの首輪がいきなり引っ張られる。頭を鷲掴み後ろに放り投げて悲鳴をあげさせたのは、小柄な魔女だった。


「コラァ、ケルベロス。いきなり人に飛びかかるな。

 ごめんねアシュさん、そういえば護衛の人たちは犬嫌いだったよね」


 カナの目には、巨大な三首の地獄の番犬の姿は全く見えない。

 遊んでじゃれてきた犬に王子とアシュが酷く怯え、それで慌ててケルベロスの首を捕まえて放り投げたのだ。

 カナにしかられたケルベロスは、地獄の猛犬からただの黒い子犬の姿に変化をといていた。

 地面に座り込んだまま立ち上がれない少年に、ルーファス王子は近づいてくる。


「お前の腕に巻き付いている白蛇は、僕の使い魔だ。

 その精霊はどこで手に入れた?」

「白銀の髪に妖精族のお姿、貴方はルーファス王子さまですね。

 この白い蛇は、私の兄である領主に結界を越えるように命じられ、泥の中を歩いていた時に見つけたものです」


 少年の手首に巻きついていた小さな蛇は、王子が手を差し出すと身を震わせながら飛び移ってきた。

 

「そうか、オヤカタに蹴飛ばされて行方知らずになった僕の使い魔の白蛇を、お前は泥の中から助けてくれたのか」

「えっ、蛇はどこにいるの!!害虫駆除しなくちゃ」


 蛇という言葉に反応したカナに、王子は大慌てで使い魔の白蛇をポケットの中に押し込む。

 ルーファス王子の守護精霊を連れていたので、アシュも少年は敵ではないと納得して、歩けない少年を背負うと夏別荘に連れて行くことになった。


「お恥ずかしい話、兄はこの地の領主で、僕は腹違いの弟です。

 大魔女に呪われた兄の行為を詫びるため、弟である僕が来ました」

「この辺の地主がお兄さんで、君は義理の弟なのね。

 大叔母さんとお兄さんが喧嘩して、弟を謝りによこすなんてふざけた話だわ!!」 


 少年はカナより少し背が低いが、とてもやせ細って衰弱している。両親と死別し兄に虐待されお爺さんに育てられたという話だ。

 歩きながら少年の話を聞いたカナはプリプリ怒っていた。

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