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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
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適材適所

「女って、おっかねぇ」


 沈黙を破るように、一人の男子生徒が独り言のように呟いた。


「何ですって」


 近くの女生徒の耳に入ったらしい。

 凄い剣幕で、睨み付ける。


「うっ……」


 一瞬、迫力に呑まれそうになりながらも、直ぐ様、続ける。


「だ、だって、そうだろ。あんなか弱そうな子に、あそこまで言う事ないだろう」


「そうだ、そうだ」


 周りの男子生徒も同意する。

 そんな男子を小馬鹿にしたように、女生徒達は、白い目を送る。


「馬鹿じゃないの、あんた達。そんなの計算に決まってる」


「そうよ、そうよ」


 今度は、女生徒が賛同する。


「如月さんに、そんな事出来る訳ないだろ!!」


「騙されてるのよ。それがあの子の武器よ。男って、ちょっとかわいいと、直ぐ騙されるんだから……」


(泣いては、駄目だ……)


 美優は、ギュッと唇を噛み締めた。こうしないと、涙が零れてしまいそうだった。


 その様子に気が付いたエミリが、男子と女子の間に割り込む。


「ちょっと、あんた達、本人目の前にして、いい加減にしなさいよ」


「あっ……」


 流石に本人目の前にして、悪口を言って罰が悪かったのか口籠もる。

 皆の視線が美優に注がれる。


(駄目だ)


 美優は、スカートを翻し、逃げるように教室を飛び出した。

 今にも泣いてしまいそうだったからだ。

 白い用紙がヒラヒラと蝶のように宙を舞い、静かに床に着地する。

 それは、先程のメールをプリントアウトしたものだった。


 一瞬の事で、誰も動けず入口から、出て行く美優を黙って見送る。


「すみません、美優の事、お願いします」


 いち早く、柊哉が隣のエミリと真生に声を掛ける。

 その言葉に、すぐ我に返り、慌てて二人は後を追った。



 スカートの裾が捲れあがり、太股がチラチラ覗く。美優は、全速力で走った。廊下は、休み時間の為、結構な人がいる。美優は、器用にそれを避ける。

 走りながらも、沢山の人の視線を感じていた。

 息が苦しい。

 でも、立ち止まる事はしなかった。一刻も早く誰も居ない所に行きたかったのだ。



 気が付くと辺りに人がいなくなっていた。長い廊下は、静まり返っている。何処をどう走ったのか、覚えていないが、どうやら、教室から離れたらしい。


 美優の足は次第に速度を緩めていく。走ったせいで、胸が痛い……否、それ以外の理由か……

 視界が……ぼやける。

 美優の瞳からポロリと涙が零れた。



 ガラッ――


 音とともに自分の横の扉が開く。


(あっ……?!)


 思った時には、遅かった。黒い大きな人影と衝突する。

 美優は、ぶつかった衝撃でバランスを崩して転びそうになった。

 そんな美優の身体を強い腕が抱き留める。


「すみません、人がいると思わなくて……」


 抱き合うような形になり、美優の頭上から、低い男の人の声が降ってきた。


「いえ」


 美優は、顔を上げる。

 小麦色の肌、凛々しい眉の精悍な顔付きの男子生徒が、此方を心配そうに見ていた。

 が、その表情は戸惑いの表情に変わる。美優の涙に気が付いたのだ。


「もしかして、何処か痛めた? ごめん。力だけは、ありあまってるから」


 鋼のようにがっちりとした体躯。屈強な肉体が、どれだけ鍛えられているかを物語っていた。


「大丈夫です」


 美優は、涙を隠すように俯き拭い去る。


「でも……」


「これは、違うんです。あの、それより手を……」


「あっ、すまない」


 慌てたように、美優から、手を放す。ずっと、抱き留められたままだったのである。

 男子生徒は、頬を赤らめた。実際は、色黒でよく分からないのだが……


「いえ……」


 美優も男子生徒につられ、頬を染める。


「その涙は、メールのせい?」


 肩をビクッと震わす。


「如月さん……だよね……?」


「…………」


「メールのせいで、誰かに何か言われたか、された? 俺、これでも風紀委員の委員長だからさ」


 そう言って、自分が出てきた部屋を指差す。風紀委員室、そう書かれたプレートが下げられていた。

 そして、その前の部屋には、生徒会室のプレート。廊下の先は、委員会室となっている。まだ、放課後ではない為、委員会室に行く人は居ない。ここに来るのは、委員の人くらいだろう。どうりで、人が居ない筈だ。


「風紀委員?」


「そう、学校の風紀を乱す者を処罰する……魔法って怖い物で、誰かを簡単に傷付けられる。基本、構内は、授業中と部活動以外は、魔法は禁止なんだが、ちょっとした喧嘩で、カーッとなって、つい力を使ってしまう者がいる。高校生なんて、まだ心が未熟だから。そうなる前に、誰かが止めてやる必要がある。それが、俺達の仕事。その為に、生徒会と風紀委員は特別に魔法を使う事が許可されているんだ。今回の件もそう。揉め事の芽は、早めに対処した方が良い。何かあったら言ってくれ。力になる」


 正義感の強い真っ直ぐな瞳で、美優を見つめる。


(彼なら、誠実で頼りになりそうだ。でも……)


「本当に、大丈夫です」


 無理矢理笑顔を作り答えた。


(自分の従姉の事を告げ口する。そんな事、出来る訳がなかった)


 美優は、そっと目を伏せた。


「そうか。じゃあ、何かあったら必ず言うんだ。3のAの葉月炎はづきえんだ」


 何だか納得していないようだが、美優が断ったので、それ以上詮索するのを断念したようだった。


(葉月炎……なんだが、聞き覚えがある名前)


 美優は、ボンヤリ思った。




 エミリと真生は、柊哉の言葉で、教室を飛び出した。昼休みの廊下は、行き交う者が多い。

 キョロキョロと振り子のように首を動かす。

 そこに、美優の姿を見いだす事は出来なかった。


「美優ちゃん、どっちに行ったのかな?」


「二手に分かれて捜そうか?」


「そうだね」


 お互い顔を見合せて頷く。エミリが右へ、真生が左にというように、別々に捜し出した。





「柊哉さん、追わなくていいのか?」


 和人が柊哉に尋ねる。


「彼女達の方が適任です。それに、行かなくては、いけない所があるので」


 ヨイショっと腰を曲げ、美優が落とした用紙を、拾い上げながら答えた。


「何処へ?」


 和人が問う。

 柊哉は、その問には答えなかった。

 その代わりに別の頼み事を和人にする。


「二ノ宮君、悪いがこのクラスの雰囲気何とかしてくれないかな? これでは、美優が戻りずらい」


 柊哉の言うとおり、クラス内は、重苦しい雰囲気が漂っている。

 女生徒達も、流石に本人を目の前に悪口を言って後悔し、青ざめて立ち尽くしている。そして、そのきっかけを作った男子生徒達も同様だ。


「適材適所か……」


 頭の後ろに両腕を組ながら呟いた。

 なかなか、上手い采配である。


「……あっ、二ノ宮君じゃなくて和人で、いいから」


 柊哉は、微かに微笑む。


「なら、僕も柊哉と呼び捨てで、一応同級生なので」


「了解!!」


 柊哉に背を向けたまま、ヒラヒラと手を振る。

 ここは、心配ないから、早く行けとばかりに。

 柊哉は、そっと教室を抜け出す。

 教室からは、和人の能天気な明るい声が聞こえてきた。

 彼は、きっと上手くやるだろう。柊哉は、安心して、その場を去った。


更新遅くなり、すみません。本当は、もっと長く書こうと思ったのですが、遅くなりそうなので、短く区切る事にしました。次回は、もう少し早く更新出来るように頑張ります。


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