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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
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初恋

「あー、でも、残念よね」


 エミリが悔しそうに言った。

 部活動説明会が終わり、学校から寮への帰り道。

 美優・エミリ・真生の三人は帰路に着く。和人も寮生なのだが、遅れていた荷物が今日届くとの事で、それを取りに行き、柊哉は、担任から呼び出し。



「何が残念なのですか?」


 先程から悔しがるエミリに、美優は尋ねた。


「貴女達は、残念じゃないの?」


「だから、何がですか?」


 美優と真生には、エミリが何を残念に思っているのか理解できない。


「紅蓮の騎士、葉月炎が部活動説明会に出席してなかった事よ」


 二人が理解してくれないのが歯痒いのか、鞄をブンブン振り回しながら言った。


(あぁ、慶くんと同じ位の人気の……私も、ちょっと見てみたかったな)


「説明会に来ていたのは、ほんの数名。来てなくても、仕方ないんじゃないのかなぁ」


 真生がエミリを宥める。


「仕方なくない。だって、来るって言ってたもん」


 子供のように頬を膨らませむくれる。


「誰が?」


 美優と真生の声がハモる。


「…………」


 エミリは、口を真一文字に閉じ沈黙する。


「エミリちゃんって、学校の事、詳しいよね?」


 真生が不思議そうに問う。


「えっ、そ、そんな事ないない」


 持っていた鞄を地面に落とし、両手を横に振って全否定。一瞬だけ、地面に落ちた鞄が立ち、ドサリと音をたてて横に倒れる。


「イケメン好きだから、調べただけだよ。あはははは……」


 誤魔化すように笑った。余り触れられたくないようだ。




 トゥルルルル……トゥルルルル……


 大自然溢れる景色の中に、場違いのようにスマホが鳴り響く。その音に驚いて、細い枝に止まっていた、雀が二羽、青空に吸い込まれるように飛び立った。

 美優は、足を止めて、制服のポケットから、携帯を取り出した。他の二人もそれに習うように歩を止める。先程、住田に貰ったストラップが揺れている。


「慶くんです」


 ディスプレイを確認し、電話に出た。


「もしもし……」


「美優か?」


 確認するように、慶が言う。


(そういえば、慶くんと電話で、話した事なかったなぁ)


 お互い電話番号は、知っていたが、いつも慶は、電話より、直接遊びに来てくれていたからだ。

 慶の声を近くに感じ、何だか新鮮に思えた。


「はい、そうです」


「今日は、悪かったな」


「いえ……」


(積もるお話しのお誘い?)


 美優は、反射的に、そう思った。


「軽率な行動を取ってしまった。倒れたと聞いて、美優の事が心配で……つい……迷惑を掛けてしまうかもしれないな」


「迷惑……?」


「気を付けて」


 それだけ一方的に言い残して、電話は切れた。


「デートのお誘い?」


 からかうようにニヤニヤしながら、エミリが笑う。


「いえ……」


 美優は、首をかしげながら答えた。


「どうしたの?」


 そんな様子に、真生が尋ねる。


「“迷惑を掛けるかも、気を付けて”と言われました」


「迷惑? 何に気を付けるの?」


 エミリもキョトンとして問う。


「さぁ?」


 三人は顔を見合せた。

 これから大変な事態が待ち受けている事に、美優はこの時、知るよしもなかった。





「美優ちゃん、慶さんの事、どう思ってるの?」


「どうって??」


「好きなの?」


 美優の気持ちを知らない真生が質問した。


「違います」


 静かに、美優は、首を横に振り、ゆっくり歩き始めた。二人もそれに続く。


「慶くんは、私にとって、お兄様みたいなものです。いつも、一人家に閉じこもっていた私の所に、休みの度に会いに来てくれて、学校の話とか色々してくれました。ここ一年は、魔法学校ここに入学して、離れてしまったせいで、来ていませんでしたが……」


「お兄様か……複雑な所ね」


 エミリがポツリと洩らした。


「エミリちゃんは、どうして和人くんに、あんな冷たい態度をとるの?」


 今度は、エミリに質問する。


「そうです。あれでは、和人くんが可哀想です」


 美優も加勢する。


「うっ……」


 二人に責められ、エミリは口籠もり顔を伏せる。美優と真生は、黙ってエミリを見つめた。


「似てるのよ……」


 沈黙を破るように、口を開いた。


「似てる?」


 おうむ返しに、言葉を繋ぐ。


「私の初恋の相手に」


「エミリちゃんって、ああいうタイプが好きなんだ?」


「好きじゃない、好きだったよ」


 “だった”に力を入れて、真生の言葉を訂正する。


「でも、どうして好きな人に、あんな態度をとるのですか?」


「好きな人じゃなくて、好きだった人に似てる人」


 眉をしかめ、憮然とした態度で再び訂正。


「中1の時、私、クラスで浮いた存在だった。見た目、こんなだしさ……私も子供だから、意地張っちゃって自分から馴染もうともしなかった。でも、その時に話しかけてくれた男の子がいたの。アイツみたいに軽い感じでね。で、彼のおかげで、いつしか私もクラスに馴染めて、気が付いたら、いつの間にか彼を好きになってた。ある日、彼に告白されて、お付き合いして……毎日、ドキドキして……嬉しくて……」


 遠くを見つめて懐かしそうに話していたエミリ、ふと言葉を切る。そして、淋しそうに視線を落とし続けた。


「でも、違ったの。友達と話してるの聞いちゃった。外人と付き合うとはくが付くからって。失礼しちゃうわよね。第一、私、外人じゃないし」


「和人くんは、違います」


 美優は、強い口調で言い切った。


「和人くんは、優しい人です。自己紹介の時、私の事を助けてくれました」


 エミリは、目を瞠る。


「ふっ、そんなの偶々よ……でも、そうよね。和人は、彼じゃない……普通に接するよう心掛ける」


 そして、付け足すように


「でも、初恋は実らないって言うのは、本当だったて事なのよね」


 寂しそうにエミリは微笑した。


(初恋は、実らない)


 美優の心にエミリの言葉は、グサリと突き刺さる。

 柊哉は、美優にとって、間違いなく初恋の相手。


(実らないのだろうか、初恋は……)


 美優は、祈るように天を仰ぎ見た。


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