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魔法使いの娘  作者: 彩華
第三章 委員会
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偶然?

お久しぶりです。現在、資格取得のため勉強中の為、更新に時間がかかります。すみません。

 柊哉が借りる専門書の類いは、あんまり読む人がいないため一番奥にある。

 美優は今回も当然ミステリー小説を借りるつもりだ。途中、柊哉と別れ推理小説が並ぶ本棚へと一目散に向かう。

 蛍光灯の光に照らされた、本の背表紙を、スカートの裾が床に付かないように気を付けながら腰を下ろし、棚の下段から順番に眺めて行く。

 一人で好きな本を選ぶ、この時間も美優の好きな時間だ。

 シンと静まり返ったこの空間が心地良い。


(この本は読んだし、これは家にある)


 じっと背表紙と睨めっこだ。時折、気になった本を手に取り、本を開いてカバーに書かれているあらすじを読む。どれも面白そうでなかなか決められない。

 いつもと違い、今日はエミリと真生がいるので、長い時間は掛けられない。

 下の方の棚は確認したので、とりあえず立ち上がる。さて、どうしたものかと思った時に、不意に前回借りに来た時に、どちらを借りようか迷った本があったことを思い出した。

 学園物のミステリー小説。高校生探偵が学園で起こった殺人事件に挑む、そんなあらすじだった。


 新たな本を決めるより、探し出す方が幾分か楽だ。


「確かあの本は……」


 小声で呟き、思い出すようにこめかみを人差し指でコンコン叩く。


 赤い表紙の本だった気がする。

 目立つ色なので、すぐに見つけられるだろう。

 棚に並ぶ本の背表紙を順番に眺めて行く。

 上方の棚にいった時、美優の視線がピタリと止まる。


(あっ!! あった)


 見覚えのある背表紙、間違いなくあの本だ。前回は、あんな上の方になかった。誰か借りたのだろう。

 本棚へと近づき手を伸ばすが届かない。

 一度姿勢を正し、再度挑戦する。今度は本棚を支えに背伸びをして、目一杯手を伸ばす。


(もう少し……もう少しなのに…………)


 プルプルと指が震えるのが分かる。

 その時、真後ろから手が伸びてきて、美優が取ろうとしていた本を誰かが手にした。


(誰?)


 そう思った時、柊哉の声が上から降ってきた。


「これですか?」


 その声に後ろを振り返り、瞬間美優の顔が一気に真っ赤に染まる。

 思いっきり背伸びをしていたので、思っていたより柊哉との顔が近かったのだ。


「ご、ごめんなさい」


 慌てて前へと視線を戻す。


「いえ、こちらこそ」


 美優につられたように、柊哉も僅かに顔を赤く染め慌てて体を離した。

 

 「………………」


 その瞬間、バサリと何かが落ちる音が近くでなった。

 その場の空気が一瞬にして破られる。

 反射的に二人はそちらへと視線を送った。

 見ると少し離れた床に、一冊の本だけが転がっている。人の姿はない。


「何故、本が?」


 美優が不思議そうに首を傾げた。


 (本を取ろうと背伸びした時に、本棚に体重をかけたせいだろうか? それにしても、先程見た時には、しっかりと本棚におさまっていた。そんな簡単に落ちるものだろうか?)


 柊哉は美優に取ってあげた本を手渡し、落ちている本に近付き、ヒョイと拾い上げた。

 そして、すぐ近くの本棚に視線をやる。


「どうやら、本棚から落ちたようですね」


 美優も柊哉の横に立ち、本棚を眺める。

 丁度一冊分隙間が空いていた。

 拾い上げた本の表紙のほこりを軽く手で払い、隙間に戻す。


「きちんと収まっていなかったのかもしれない」


 美優を安心させるように、柊哉は言い、通路の奥へと視線を走らせた。








「あっ、二人ともこんなとこにいた」


 甲高い声とともに金髪をなびかせ、紙束を抱えたエミリが本棚の切れ目からヒョッコリと顔を出した。


「エミリちゃん、少し声を落として……」


 すぐ後を追いかけるように、エミリを諫めながら真生が顔を出す。

 もしかしたら、ずっとこの調子だったのかもしれない。エミリの頬が蒸気して、興奮しているのが分かる。

 お目当ての本を無事見つけることが出来たのだろう。


「その様子だと、無事見つかったみたいですね」


「もちろんよ」


 柊哉の言葉に、紙の束を両手で抱き締め、満足そうにニッコリ笑った。


「私も次に貸してもらう予定です」


 そう言って、真生もエミリの横で嬉しそうに笑う。紛れもなく真生も紅蓮の騎士のファンなのだと実感する。


「そういえば、柊哉さんは見つからなかったんですか?」


 柊哉が手ぶらなことに、今更ながらに気付き美優は尋ねた。専門書は止めて、ミステリー小説でも借りようと、美優の元に訪れたのだろうか?

 ふとそんな考えが頭を過ぎるが、すぐに否定された。


「どれも面白そうで、短時間で決められそうにありませんので、また後で、じっくり選ぶことにします」


「柊哉さんでも、そんなことあるんですか?」


 驚いたように美優は目を丸くする。

 何でも直結で最善の方法を決めてくれる、そんな印象だったのだが――


「えぇ、知らなかったですか? 意外と自分のことには優柔不断なんですよ」


 眉根を寄せ、肩を竦めながら困ったように笑みを浮かべる。



「美優ちゃんは……決まったんだよね……?」


 美優の手に一冊の赤い表紙の本が握られているのを見て、真生が尋ねる。


「あっ、はい」


 にっこりと微笑み、真生達に表紙が見えるように本を掲げた。赤い表紙に黒の文字で書かれた《名探偵は高校生》という題名を見たエミリが苦笑する。


「また、ミステリー小説?」


「はい」


 しばらくは、ミステリーで攻める予定だ。


「もしかして、またあの人が借りてたりするかもしれないですね」


 冗談のように、真生が口にする。

 あの人とは、美優の前に本を借りていた“大根久良”のことだろう。


「いくら何でも、それはないと思います」


 そう言って、推理小説が並ぶ本棚を柊哉は目を細め一瞥する。向かい合って置かれている本棚二つ分の全てが推理小説なのだ。


「これだけ沢山の本があるのですから、続けざまに美優と同じ本を借りるとは思えません。美優がどのような本を借りるのか、ずっと見てましたが、見事に作者もバラバラでしたし……」


「なーんか、今の発言ストーカーっぽい」


 からかうように、エミリが口を挟むと柊哉も軽く返す。


「それは心外ですね。仮にも美優の恋人ですから」


(恋人……)


 美優は一人、柊哉の言葉にドキマギさせられる。冗談のやり取りだと分かってはいるのだが、何度も頭の中でその言葉をリピートさせ、噛み締める。

 今は演技だが、いつか本当にそうなれればどんなに幸せだろうか。


「美優、とにかく本を見せて」


 差し出された手に、自分が持つ本を言われるがままに手渡した。赤表紙の本は、美優の手からエミリの手へと移る。


 赤い表紙の本をヒラヒラと振り「いるかいないかは、この本を見れば答えが出る」とエミリが言った。

 皆の視線を受けながら、本を裏返し裏表紙をめくる。

 皆、気になるのか一斉に本を覗き込む。


「あった……」


 思わず四人は、同時に呟いた。まさか本当に借りているとは、誰も思ってもいなかったのだ。

 言い出したエミリでさえ、驚いてる。


「片っ端から推理小説を借りた……とか?」


「でも、一年生みたいですよ。入学してから、一カ月ちょっとしか経っていないのに、物理的に無理です」


 真生がエミリの言葉をすぐさま否定する。確かにクラスを書く欄には一年E組と書かれていたことを思い出す。特殊クラスの生徒である。


「大谷さんの言う通りですね。他の本は借りていないようだ」


 推理小説の棚から、数冊ランダムに選び、柊哉がカードを確認していくが、“大根久良”という名は見当たらない。


「ってことは……本当に偶然? もしかして、本当に赤い糸で繋がっているとか」


「赤い糸かどうか分かりませんが、本の好みが一緒なようですね」


 柊哉は確認のために持っていた本を、三人に見えるように開いて見せた。そこには、如月美優……そして、その下には大根久良の名がある。

 どおりで見た事があると思ったら、以前美優が借りた本だ。

 前後が逆だが、これでまた同じ本を借りていることになる。


「柊哉さん、恋人の座危うし。趣味が同じなのは結構大きいのよ。ね、美優」


(エミリちゃん、絶対面白がってる)


 恨めしそうにエミリを見ると、その目は笑っている。絶対、美優の反応を見て楽しんでいるに違いない。


「どんな人なのかしら? 今度見に行ってみようか? 気にならない?」


 気にならないと言えば嘘だが、さすがに見に行くのはと思い、何となく答え倦ねいていると、真生が助け船を出してくれた。


「そろそろ戻らないと」


 真生の言葉に三人同時に壁時計を見た。

 

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