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魔法使いの娘  作者: 彩華
第三章 委員会
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なくし物

魔法使いの娘、再開致します。不定期投稿となりますが、ぜひお付き合い下さい。

ご評価頂けると嬉しいです。

 初めて、彼女を見たとき衝撃が走った。

 とても綺麗で、純粋で、彼女の周りの空間までもが透き通って見えた。

 そして、この時僕は一目惚れと言う言葉を初めて知った。


 彼女に出会って一ヶ月。

 ただ遠くから見ているだけで、幸せだった。

 彼女が誰の者にもならないならそれでいいと。

 僕には高嶺の花なのだから。


 なのに――

 なのに、あの男――

 せめて、彼女が選んだのが十二名家なら、まだ諦められたかもしれない。

 あんな普通の男のどこがいいんだ。

 あんな冴えない男のどこが……

 僕の方がとれだけ彼女を知っているか。

 僕の方がどれだけ彼女を思っているか。

 僕の方がどれだけ彼女に相応しいのか。


 そこで、僕ははたと気付き自然と笑みが漏れる。


 ――あぁ、そうか

 彼女は、気付いていないのか。


 それなら、教えてあげる。

 あんな男より、僕がどれだけ彼女を愛しているのかを――






「あれっ?! 私のハンカチ知りませんか? ここに今置いたはずなんですけど」


 そう言って美優は自分が座っているテーブルの横を指差し声をあげる。

 今は昼食の時間で、食事のために五人で食堂に来ていたのだ。

 柊哉の告白で、めっきり嫌がらせも減っている。もう、教室でコソコソ食べる必要はない。

 なので、葉月炎にも一時護衛を休止してもらっている。炎的には納得いっていないようだったが、恋人の柊哉がいるのに他の男が護衛するのはおかしいと、無理矢理辞退してもらったのだ。

 エミリは炎に会えなくなり、かなりガッカリしていたようだが、我慢してもらうより仕方がない。

 これで、当面は炎のファンに嫌がらせを受ける事もないだろう。


「美優、最近なくし物多いよね? 恋人が出来て、たるんでるんじゃないのぉ?」


 エミリが、食後のデザートのバニラアイスをスプーンで突きながら、からかうようにニヤニヤと笑う。



「ち、違いますよ」


 美優が頬を赤くし否定する。

 嬉しさ半分、悲しさ半分である。

 ただの恋人のフリなのだから……


「そーいえば、先週はペンをなくしたって言ってましたよね」


 真生が思い出したように、ゆっくりと口を開く。真生の言う通り、先週はペンをなくしたのだ。お気に入りのペンだったので、どこかに転がっていないかと、教室の床の上を探し回ってみたのだが、結局見付からなかった。

 寮に置き忘れたかもと、寮も探したのだが出て来ることはなかった。


(間違いなくハンカチはさっき横に置いた。新手の嫌がらせ? でも、こんなすぐ横に合って誰にも気付かれずに取るなんて不可能よね? 私の勘違い?)


 ハンカチがあった場所をじっと見つめ考える。なんだか頭が混乱する。


(柊哉さんに相談してみようかな?)


 チラリと柊哉の顔を盗み見ると、視線に気付いたのか、食後のコーヒーを手に持ったまま、こちらを向いた。


「どうしました?」


 優しい笑顔で迎えられ、思わず美優は大きく頭を振った。


「何でもありません。多分、私の勘違いです。ペンも寮にありましたから」


(柊哉さんに、これ以上迷惑はかけたくない。たいした物をなくしている訳ではないのだから)


「あっ、そうなんだ。美優ちゃんも意外とドジだなぁ。まぁ、そこがかわいいんだけどね」


 単純な和人は、美優の言葉をすぐに信じた。伝統ある魔法学校なので、品行方正の者が多いなか、茶髪にピアスという装いは、この食堂でかなり目立っている。

 それを言ったら、金髪のエミリも同様なのだが。まぁ、こちらは地毛なので仕方がない。


「何かあったら、何でも言って下さい。相談にのりますから」


 眼鏡の奥の瞳を細め優しく微笑む。

 美優の大好きな笑顔だ。この笑顔に何度心が救われたか。


「相談っていえば、最近の柊哉はクラスでは人気者だな」


「柊哉さんは、適切なアドバイスをくれるって評判みたいです」


 そうなのだ。

 最近、教室にいる間は他のクラスメイトと話していることの方が多い。

 そんな柊哉が羨ましくもあった。相変わらず美優は、エミリ達意外とはあまり話しをしていない。Aクラスとは違いDクラスの一般ピープルのクラスメイト達では、如月家のお嬢様と何を話して良いのか分からないのも仕方がない話しである。

 元より住む世界が違うのだから。


「皆さんより、年上で経験が豊富。それだけです」


「はい、はいっ。じゃあ、経験豊富な柊哉さんに相談していい?」


 黙って聞いていたエミリが突如勢いよく手を挙げる。

 近くで食事していた男子生徒達が、一瞬驚いて食事の手を止めエミリを見た。エミリは注目を受けても気にする様子もない。


「えっと、何ですか?」


 突然の行動に、柊哉はポリポリと頬を掻きながら苦笑いする。

 美優達も何ごとかと目をパチクリさせた。

 エミリは、少し恥ずかしそうに声のトーンを落とした。


「実はこの前、論文の宿題があったじゃない。で、先生に言われちゃったのよ。内容はともかく論文の書き方がなってないって」


 これは余程酷いのだろう。入学したばかりの生徒に言う言葉ではない。

 それにしても、皆のいる今言わなくてもいいのではと思わずにはいられない。後でこっそり相談という手もあるのに、思ったことはすぐに口にすという性格が、それを許さないのだろう。

 エミリ自身、自分の恥を晒したことに気付いたのか慌てて言い訳をする。


「ほら、私ハーフだし、海外暮らしが長かったから……文章が苦手で……今から少しずつ練習しないと卒論が大変だって」


(あれっ?! エミリちゃん、生まれてすぐ日本に来たって言ってたと思ったんだけど)


 初めて会った時に言っていたエミリの言葉を思い出す。多分、美優しか知らない事実だ。当の本人も美優に話したことすら覚えていないのだろう。だからこそ、あえて口を閉ざす。エミリの名誉のためだ。


「エミリちゃん、恥に思うことないです。それだけ流暢に日本語話せるのは凄いですから。ね、美優ちゃん」


「えっ、あっ、はい。凄いです」


 何も知らない真生に同意を求められ、嘘が苦手な美優は動揺露わに同意する。

 柊哉と和人が不思議そうにこちらを

 見たので誤魔化すように、ホットミルクティーを一口飲んだ。甘くまろやかな味が口一杯に広がる。


「内容に問題がないなら、簡単です。他の方の論文を読んで書き方を真似をすればいい。すぐには無理ですが、卒業までには上手くなりますよ」


「真似ってどうすれば? 他人の論文なんて読んだことないし……」


「おや、知らないんですか? そういった人達のために図書室には成績優秀者の学生の論文が置かれていますよ。無論、本人の許可が得られたものだけですがね。阿相先生もそのつもりで言ったんじゃないでしょうか? 聞いてないですか?」


「あぁ、そういえば、図書室がどうとか言ってたかも……でも、図書室ってなんか苦手なんだよね、あの雰囲気が……」


 どうやら図書室という名前が出た途端話を聞くのを止めたようだ。


「確か葉月さんのもあったような……」


『えっ!! 紅蓮の騎士の?!』


 エミリと真生が同時に食い付く。

 二人の反応に、柊哉が驚く。真生まで反応すると思わなかったのだろう。


(そうか、真生ちゃんも紅蓮の騎士のファンだったけ)


「早く図書室行きましょう」


 エミリは、スプーンを持ったまま席を立ちあがる。


「エミリちゃん、まだアイス残ってるよ」


「えっ、そうだった」


 美優の言葉に再度腰を下ろし、一気にアイスを口の中へ放り込む。そして、冷たさに頭痛を感じて、一人エミリが悶える。

 こめかみを押さえこらえる姿に、どれだけ炎のファンなのかが覗える。

アイスと格闘するエミリを不憫に思った柊哉が、トレイを片手にそっと席を立ちながら言った。


「図書室へ行くなら借りていた本を取ってきます。野田さん、ゆっくり食べていて下さい」


「あっ、柊哉さん、待って下さい。私も行きます」


美優も本を読み終わっていたのを思い出し、柊哉の後を追うように立ち上がる。

三人を残し二人は一旦教室へ帰ることにする。食堂に戻る頃には、エミリもデザートを食べ終えているはずだ。

返却口にトレイを返し、食事を終えた生徒達の後に連なるように食堂を出ようとしたのだが、何故か足を止め美優は後ろを振り返った。


「どうかしましたか?」


前を歩く柊哉は、美優が立ち止まったことに気付き声をかけた。


人の視線を感じた気がしたのだ。

お喋りに花を咲かせながら食事を楽しんでいる人達がいるだけで、誰もこちらを見ている者はいない。


(気のせいかしら?)


美優は僅かに首を傾げながら、横に首を振った。


「いえ、何でもありません」




“俺は、しがない盗賊だ”も宜しくお願いします。

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