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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
42/56

結果

なかなか更新出来なくて、遅くなりすみません。


「それにしても、驚いたよ。湊君と如月さん、付き合ってたんだな……」


 柊哉の隣を歩く、炎が複雑な表情で力なく言った。


「………………」


 あの状態で柊哉の言葉を鵜呑みにした炎の言葉に、誰もが一瞬呆気にとられた。

 これが和人だったら、エミリが「バカじゃないのぉ」と真っ先に突っ込みを入れているのだろうが、今は炎の発言なので何も言わない。

 人の目を避ける為、下校時間をずらしたので寮への道程もすっかり静かだ。


「違うっすよ」


 いつもは真っ先に口を挟むエミリが沈黙に徹しているので、仕方なく和人が訂正を入れた。


「でも、そう言ってたし……」


「言ってませんよ。そんなこと」


 間髪入れずに、柊哉が隣でキッパリ否定した。


「えっ! でも……?」


「思い出して下さい。僕は将来を約束した――と言っただけです」


 炎は眉間に皺を寄せ、思い出す素振りをする。

 柊哉は、言葉のニュアンスと行動で、皆に思い込ませただけなのだ。そうする事で、美優に逃げ道を残した。


(少々、不自然になってしまいましたが、仕方がありませんね)


 柊哉を良く知る者なら、彼の行動に違和感を覚えたはずだ――――普通なら。

 当然、仲の良い三人はすぐに気が付いた。


「…………如月さんの為か?」


 思い出したのだろうか、顔を上げポツリと炎は尋ねる。

 冷静に考えれば、すぐに分かる事だ。

 柊哉は、ゆっくりと頷いた。他にそんな事をする理由などない。


(わざわざ、皆の前で交際宣言など……)


 柊哉の耳が僅かに赤く染まるが、誰も気付かない。

 柊哉にだって羞恥心はあるのだ。


「これで、風当たりが弱まるな」


「そうだといいのですが……」


「大丈夫よっ!! 女性は身分違いの恋とか大好きだから……特に、絶対に実らないって分かっている恋はね」


 クルリと後ろを振り返り、二人の会話に割り込むように、エミリは自信満々に柊哉を指差して断言した。

 勢い良く回った為、ポニーテールに結ばれた髪が綺麗な弧を描く。


 美優はエミリの言葉に反応したかのように、ビクリと小さな肩を大きく揺らし暗い顔で俯いた。


「エ、エミリちゃんっ!!」


真生が慌てた様子で、肘でエミリをこづいている。


「そうですね、きっと野田さんの言う通りです。必ず上手くいきます。美優、心配ありませんよ」


 俯いたままの美優に優しく声を掛けた。


(上手くいかなければ、次の手を考えればいい)



「なーに、駄目なら、また君を守るまでさ」


 他の女生徒なら、失神間違いなしの殺し文句だが、今の美優には殆んど効き目がない。


「……えぇ」


 美優は、聞いているのかいないのかよく分からないが、浮かない顔で頷いてみせる。


 エミリは指差していた腕を、誰にも悟られないようにそっと下ろしたが、真生は横目で、しっかりとそれを確認していた。






 トゥルルル……


 ベッドにテーブル、それに本棚だけの質素な部屋にスマホの着信音が鳴り響く。

 物が少ないせいか、余計反響して、聞こえる気がする。

 濡れた髪をタオルで拭きながら、柊哉は鳴り続ける携帯を手に取った。

 久しぶりに何も考えずに、先程までのんびりとシャワーを浴びていたのだ。


(美優から…………何かあったのでしょうか?)


 頭にタオルをかけたまま、直ぐ様電話に出た。


「はい」


「もしもし」


 美優の覇気のない声が、聞こえて来る。柊哉は、心配になり尋ねた。


「何かありましたか?」


「…………」


 美優は何も答えずに黙り込んでいる。仕方なく、もう一度尋ねた。


「どうしました?」


 二度目の問い掛けに思い詰めた声で、答えが返ってきた。


「あの、謝ろうと思って……」


「謝る?」


「約束破ってしまったから、柊哉さん怒ってるかと思って……」


(約束??)


「学校を休むように言われていたのに」


「あぁ! その事ですか……」


「はい、私が勝手に登校してしまったから、迷惑を掛けてしまったんじゃないかと」


「迷惑どころか、助かりましたよ。美優がいたおかげで上手くいったのですから」


「……怒ってない?」


「怒ってませんよ。おかげで葉月さんをも騙せる迫真の演技が出来ました」


 柊哉は電話口でクスリと笑った。

 電話の向こうで安心したような美優の吐息が聞こえて来る。どうやら、そんな事で気に病んでいたようだ。


「明日になれば結果が出るはずです」


 努めて明るい声で言う。エミリの言う通り十中八九大丈夫だろう。


「その事なんですが……もう出てます」


「えっ?」


「先程から、寮生の方々が謝罪と激励に来てくれて……」


(随分と早いな)


「色々とアドバイスしてくれました」


「アドバイス?」


「はい、慶くんを味方に付けた方がいいから、一緒に説得してくれるとか――良い人達ばかりですね」


(そう言う事か――)


 美優を仲間に付けて、慶に取り入ろうという魂胆が見え見え。浅はかな目論見だ。


「……良かったですね」


 とりあえず柊哉はそう告げた。わざわざ、余計な事を伝える必要もあるまい。どうせ、そのアドバイスは必要とされる事はないのだから。


「はい」


 美優は柊哉の考えに微塵も気付かず、嬉しそうに応えた。久しぶりに元気そうな美優の声に、柊哉の心も晴れる。



 ピンポーン――


 その時、誰かが部屋のチャイムを鳴らす音が聞こえた。チャイム音に反応して、柊哉が視線を玄関へと走らせる。

 柊哉の部屋に来るだろう人間は今の所一人しか思い当たらない。


「誰か来たみたいです」


「えっ!! そうですか……」


 話し足りないのであろう、美優が残念そうに言った。


「すみません」


「いえ、柊哉さん、今日はありがとうございました。では、また明日」


「はい、明日」



 電話を切ると直ぐに眼鏡を掛け、玄関へと向かう。

 すると痺れを切らした和人が、ドアを叩きながら叫ぶ声が聞こえて来た。 


「柊哉いないのかぁ?」


 このままだと隣にうるさいと怒られそうだ。

 柊哉は肩をすくめ、慌て返事を返し、ドアを開ける。

 黒のTシャツにジーンズ姿の和人が立っていた。

 地味な姿が、その髪色を際立たさせている。


「風呂入ってたのか、悪かったかな」


 柊哉の濡れ髪に気付いた和人が言った。


「いえ、ちょうど出たところですから。それより、どうしたんですか?」


「ちょっと心配になってな」


「心配?」


「今は女子が騒いでいるんで、表だってはいないけど、美優ちゃんの隠れファン多いみたいだ。今度は、柊哉が嫌がらせを受けるんじゃないかと思ってさ」


「――その事ですか。それは問題ないと思いますよ」


 柊哉は何でもないという顔で答える。


「でも――」


 和人が口を開きかけた時、通路を歩く二人組の生徒の声が遠くから聞こえてきた。徐々にその声も大きくなる。此方に向かって歩いて来ているようだ。


「驚きだよな、如月家のお嬢様が一般の男と出来てたって……」


「あぁ、家庭教師だろ。結局の所、今まで引きこもっていたから、近くにいた若い男が、そいつだけって事で、勘違いしてるんだろう」


「じゃあ、俺達にもチャンスあるんじゃ……」


(……! そうゆう事ですか……)


 何故優作がこの作戦に直ぐにOKを出したのか、柊哉は、この時に気が付いた。


(如月家以外の人間にも、美優と付き合うチャンスがあるという事を周知させられるからか)


 それは、より可能性を広げられるはずだ。

 柊哉は考え込むようにじっと見つめる。

 この二人組みは、まんまとそれに乗せられている。十二名家以外にもチャンスがあると。


(まぁ、あの方が望んでいるのは間違いなく彼等ではないでしょうが)


「そうだな。顔も並で、魔力も弱い。そんな貧乏学生に負ける要素が見つから……あっ!!」


 彼等は、顔にシマッタという言葉を書き示したような表情で、慌てて口をつぐんだ。

 いつの間にか、すぐ脇にまで来ていた。

 どうやら、柊哉の存在に気付いたようだ。

 二人はほんの一瞬立ち止まり、柊哉と視線が合う。


「…………っ!!」


 何の合図もなしに、同時に逃げるように駆け出した。

 まるで、鬼にでも会ったかのように、顔を恐怖で引きつらせて――

 二人の足音が通路に響く。


 柊哉は、その二人の背を目で追いながら言った。


「ほら、心配ないでしょう?」


「えっ、何で?  何でっ?」


 和人が目を点にしている。和人は知らない。目が合った一瞬にリンクを使って畏怖の念を植え付けた事を――

 魔力を操るのとは違って、こちらは安易な物だ。特に未熟な若者は簡単に左右される。




 その時、何の前触れもなく、軽快な音楽が鳴った。どこかのアイドルグループの曲だろう。耳にした事はあるのだが、それが誰の曲かはアイドルに興味のない柊哉には分からなかった。

 和人がビクリとその音に反応する。

 どうやら、和人の着メロのようだ。ジーンズのポケットをまさぐり、すかさずスマホを取り出したが、何故かディスプレイを確認すると、そのままポケットへと戻した。


「出ないのですか?」


 和人は片眉をピクリと動かした。

 ポケットの中で、スマホは物悲しく鳴り続けている。


「あ、あぁ……戻ったら掛けなおす」


(聞かれたくない内容……という事ですね)


 一向に切れる様子のないスマホに、急用性を感じ取る。


「急ぎの用みたいですね。戻って出てあげて下さい」


「悪いな」


 和人は一言だけ言い残し、一目散に部屋へと向かう。


(多分、電話相手は、あの人だろう。すぐに請求書を廻しておいて良かった)


 柊哉は、その後ろ姿を鋭い視線で見送った。


読んで頂き有難うございました。

評価等頂けるようになれるよう頑張ります。


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