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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
41/56

任命式

いつも読んでいただき有難うございます。

もっと早く更新が出来ればいいのですが、なかなか書けなくてすみません。

 いよいよ任命式当日がやって来た。

 全ての準備は整えてある。

 美優はあれから今日まで、学校を休んでいる。寮内でも、ほとんど自室から出る事もせず、閉じこもっている。

 皆にこれ以上、迷惑をかけられないと思っているのかもしれない。

 だが、それももうすぐ終わるはずだ。

 騒ぎが少しおさまるのを待って、復帰すればいい。遅くてもゴールデンウィーク明けには出来るだろう。




(それにしても、随分すんなりとOKを出しましたね)


 長期戦で説得する覚悟をしていたのだが、即答で了承を得られた。


(何か他に思惑でもあるのか?)


「では、クラス委員の方は、席に着いてお待ち下さい」


 生徒会の女性の声で、柊哉は、はたと顔を上げる。

 青の制服なので、慶と同じ二年生だ。

(確か、長月響ながつきひびきさんでしたね)

 十二名家の一つ、長月家の分家の娘だ。入学前に優作から、何かの役に立つだろうと、魔法学校に通う十二名家の人間を教わっていた。


 任命式を始めるにあたって、今は壇上の横でスタンバイ中である。

 クラスから一人ずつ、と言っても一年から三年までなので、結構な人数だ。

 毎年同じような人物が選任されるので、一年生はともかく、二、三年は他のクラス委員とお喋りに花を咲かせている。

 響も負けじと声を張り上げ、壇上に横一列に並ばれた椅子へと誘導する。


(何にせよ、了承はもらったのだ。身近な問題から片付けなくては)


 柊哉は響の指示の元、壇上の席へと腰掛ける。


 まだ、生徒は来ていない為、空席で、かなり見晴らしが良い。ぐるりと広い講堂を見渡す。


(何度か来ていますが、こんなに広かったのですね)


 入学式を行った場所と同じだというのに、人がいないというだけで、とても広く感じ、ガランとした講堂は寂しい。


「クラス委員の方には生徒会の補佐をやってもらう事になりますので、会長のお話しの後、一人一人簡単な自己紹介をしてもらいます」


 熱心に手順を説明していく。一年生から、順番に挨拶をしていくようだ。


「……では、そろそろ時間になりますので、このまましばらくお待ち下さい」

 そう言って響は壇上の片隅へと移動する。どうやら、彼女が司会も務めるようだ。生徒会は全部で九人のメンバーで構成されている。各学年ごとに二人ずつ、それと副会長と会長の八名は、生徒の投票によって決められるのだが、残り一名だけはスムーズに業務を遂行する為に気のおける人物を、会長補佐として会長自身が任命する事ができるのだ。

 一年の生徒会はまだいないので、実質七名で今は運営している状態だ。一年が生徒会に入れるのは、二学期からである。


(せっかく準備をしてもらったところ、申し訳ないが、多分台無しにしてしまうだろう)


 司会席で開会を待つ響の横顔を眺める。

 とにかく真面目そうな人だ。


(責任を感じなければ、良いのですが……まぁ、如月さんが後でフォローをいれてくれるでしょう)


 雑踏と伴に講堂の扉が開かれる。見ると生徒達が講堂へと入ってくる姿が確認出来た。壇上ここからなら、全て良く見える。

 柊哉は唇が渇くのを感じた。


(どうやら、緊張しているようですね)


 らしくない感情だ。


 今まで目立つ事を避けて来たのだ。大学でもわざと答えを間違えて、平凡な学生を装って来た。

 流石に魔法学校に魔力の弱い自分が入学するには、そうはいかないと判断し、全力投球させてもらった。

 優作に迷惑をかけられない。

 大勢の前で話すことへの緊張か、作戦の失敗を気にしての緊張か、はたまたその両方か柊哉自身も分からなかった。

 だけど、このドキドキ感が心地よくもあり、思わず口元を綻ばした。


 いよいよ始まる。

 柊哉は姿勢を正して、気を引き締めた。




 次々と入ってくる生徒の群れ。その中に見知った顔を発見する。

 ――和人達だ。

 同じ服装の群れの中にいても、その風貌は群を抜いて目立っていた。

 エミリの金髪に、和人の茶髪……

 確認するように順に目で追っていく。


(えっ?!)


 柊哉は目を見開き、思わず立ち上がった。

 隣のクラスの委員が強張った顔で、こちらを睨み付ける。驚かせてしまったみたいだ。


「すみません」


 柊哉は軽く頭を下げ、静かに腰を降ろす。


(何故、彼女が……)


 それは、ここにいるはずのない人間――――如月美優。

 その姿を眼鏡越しに、じっと見つめる。間違いなく、柊哉がここに来るまでは学校に来ていなかった。

 視線を感じたのか、美優が此方へ顔を向け、柊哉と美優の目が合う。

 美優は、ぎこちない笑顔を浮かべる。


(分かっているのですね)


瞬時にその気持ちを汲み取った。


(これから、僕の挨拶の後、好奇の目に晒される事を……それでも、貴女は……少しでも強くなろうと、精一杯努力をしているのですね)


 少し前の美優には考えられない行動だった。何だか、そんな彼女が愛しくさえ思えた。






「これから、任命式を始めます」


 マイクを通し堂々とした響の声が講堂内に反響する。任命式が始まったのだ。

 凛とした声は、聞いている此方も自然と背筋が伸びる思いだ。

 流石、司会に選ばれるだけの事はある。

 何も知らない響は、校長・生徒会長の挨拶とそつなく進行していく。

 会長の挨拶になるとさっきまで興味なさそうにしていた女生徒達が、一気に慶へと視線を集中させる。


(へぇ、壇上からだと、よく見えるものなのですね)


 ここまで、よく見えると校長の立つ瀬がないのでは、と思い視線を送るが、校長は気分を害した風もない。

 慶も女生徒の視線を全く気にせず、臆する事無く挨拶を行った。基より緊張とは、無縁なのかもしれない。


「ありがとうございました。では、クラス委員に選任された方は、自己紹介をお願い致します」

 響はマイクを手に取り、委員が並ぶ席の端へと歩み寄り、そっとマイクを手渡した。一のAから順に並んでいるので柊哉は四番目だ。直ぐに順番が回ってくるだろう。

 一のAの委員長が立ち上がり、自己紹介を始める。

 流石は優等生――少々早口ながらも堂々と挨拶をこなす。女生徒達も第二の如月慶を探し出そうと、目を皿のようにして、一年の委員長を値踏みしているのが分かる。

 彼女達は、自分の浅ましい姿が壇上から、よく見える事は知らないのだろう。


 挨拶を終えると隣にマイクを回す。繰り返す事、三回目、次は柊哉の番だ。

 自己紹介をして、一礼する少年。明らかに緊張から解き放され穏やかな顔でマイクを差し出した。


(いよいよ僕の番ですね)


 差し出されたマイクを掴み、立ち上がる。隣の少年から柊哉へと視線が移ると、講堂が騒めいた。

 いつも美優の隣にいる青年の名前はともかく、顔を知らない者はいない。

 それがどこにでもいる平凡な顔でも――

 認識していなかったが、いつの間にか柊哉自身も有名人になっていたようだ。


「静かにして下さい!!」


 響が観覧席を見渡しながら一喝すると、水を打ったように静まり返った。

 柊哉は、それを待っていたかのようにマイクを口元へと運んだ。


「一のСの湊柊哉です。クラス委員なんていう大任、自分には責務が重いと本当は断るつもりでした……」


 マイクを片手に自信なさそうに喋り出す。生徒達の興味も最初の一瞬だけで、スター性の無い柊哉に、すぐに興味がなくなったようだ。殆んどの者が耳を素通りさせているだけのように思えたが、柊哉は構わずに続ける。


「しかし、今のままの自分ではいけないと気付いたのです。少しでも力を手に入れないと……」


 柊哉は無意識に視線を美優に移しながら、まるで一人言のように思わず呟いていた。


「将来を約束したあの人の為に……」


 その小さな呟きを柊哉が手に持つマイクが拾う。


「………………」


 ぼんやりと聞いていた生徒達は、すぐに反応する事が出来なかった。

 だが、数秒後蜂の巣をつついたような騒ぎになる。中には話を聞いていなかった子もいるようだ。


「…………えっ、何、何っ?! 今、何て言ったの?」


「あの、二人出来てるってこと?」


 口々に囃し立て、美優と柊哉に好奇の目が注がれる。美優は、恥ずかしそうに俯いた。


「あっ……」


 柊哉は、青ざめ狼狽える。マイクを持つ手が微かに震えている。


 ――勿論、美優はともかく、柊哉は全て演技である。


 二人のそんな様子に、生徒達はヒートアップし、口々に声を上げる。


「そう言えば、入学式一緒だったよね?」


「そうだ! 彼女運んだのって、あの人だったみたい」


 入学式での行動が、更に真実味を感じさせていた。




「静かに、静かにして下さい」


 響が必死に制するが、今度はそれすら効き目がなかった。

 それは、そうだろう、あってはならない事だ。十二名家の人間が同族以外の人間と恋仲になる、しかも本家の人間が…………絶対に許されるべき事ではない。


「おい、早く黙らせないかっ!!」


 真っ赤な顔で教頭が指示を出すと、茫然としていた教師達が慌てて動き出した。戸惑いながら阿相も、その中に混じる。

 柊哉をよく知る阿相なら、その様子がおかしな事に気付いているはずだ。


「静かにしなさいっ!!」


 これは表に出してはならない事だ。先生達も顔色を変え、怒鳴るが、それも意味がない。


 しばらく、黙って傍観していた慶だが、収拾のつかない事態に、響からマイクを奪い壇上へと駆け上がる。ほんの一瞬、柊哉と目が合うが、すぐに客席へと逸らした。


「静かにっ!!」


 慶の怒鳴り声が講堂へと響き渡った。

 海の水が引くように一瞬にして静まる。

 生徒も生徒会も、そして教師達までもが、驚きの眼差しで壇上の慶を見つめている。

 感情を顕にする姿は、それ程珍しいのだ。




「次の方、お願いします」


 何事もなかったように、冷たい声で一言告げ、慶はマイクを響に返し、静かに壇上を降りる。


 ――その後、誰も騒ぐものはいなかった。

 正に鶴の一声である――


読んでいただき有難うございました。

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