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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
30/56

行方

メール投稿の為、腱鞘炎で手が痛く、更新遅くなりました。

短くてすみません。


「ダメか――」


 額に汗を浮かべ十何度目の魔法を杖から繰り出し、倉庫の壁に打ち付ける。青白い光が弧を描き真っ直ぐ壁に向かって飛んでいくが、無残にも弾かれ小さな粒子となって散っていく。薄い鉄板の壁はびくともしない。まるで厚い壁に覆われているようだ。

 美優はそっと壁に指を這わす。


(冷たいっ!!)


 余りの冷たさに驚いて指を引っ込めた。ピリピリとした痛みが肌を刺す。まるで氷に触れた時みたいだ。

 美優は食い入るように指先をじっと見据えた。

 掛けられたのは結界魔法。中の音や気配を外に漏らさない魔法――勿論、二人のオーラも外からは感じ取る事が出来ない。鍵は外に付いているので中から壊す事も不可能。この魔法を解ければ脱出の路も開けるのだが。


「やっぱり駄目か……十二名家の魔法は俺には破れないっ……」


 和人は肩で息をしながら、悔しそうに唇を噛んだ。全力で魔法を繰り出し続け、精神、体力伴に尽きている事がその表情から伺える。


「ごめんなさい、私が魔法を使えたら……」


 申し訳なく思い頭を下げる。


(何もかも私のせいだ)


 暁色の夕焼けは既に通り過ぎ、辺りが暗い闇に包まれている事が小さな明り窓から伺えた。どんよりとした雲に覆われて、今宵は月すら顔を出していない。

 和人が魔法で出した小さな青白光の球だけが頼りだが、それも魔力を使い過ぎたせいか、心元なくユラユラと揺らぎながら、なんとか光明を保っている。

 マットや平均台、網の籠に入れられたボールなどの運動道具が所狭しと置かれているのがボンヤリと見える。


「美優ちゃんが気に病む事じゃないさっ」


 頭の後ろで腕を組み、敢えて明るい声で言う。多分、それは美優に不安を抱かせないためだろう。


(和人くんにまた迷惑を……)


 そう思うと何だか落ち込む。

 沈んだ顔をけどられたくなくて視線を下に落とすが、それは無用な心配だった。表情を読み取れる程、倉庫内は明るくない。


「夕食の時間になれば俺達がいない事に柊哉が気付く。そしたら、きっと捜し出してくれるさっ」


 積まれたマットの上にドサリと腰を据える。十二名家の魔法、それを破るのがどんなに難しい事か、和人にだって分かっている。だが、和人には、柊哉が捜し出してくれると何故だかそう信じられる。

 それ位、柊哉かれ美優かのじょを大切に思っている。


「はい」


 美優はその言葉に素直に頷き、近くの平均台へスカートが汚れるのも気にせずに腰を下ろした。


(柊哉さんがきっと来てくれる)


 美優も和人と同じ事を思う。但し、それは和人の考えとは違っていた。柊哉の隠された能力を知っていたからだ。






「……おかしい」


 スマホを耳に充てたまま柊哉は呟いた。抑揚のない女性のアナウンスが一方的に流れる。

 何度電話をかけても繋がらないのだ――美優に。先程、和人の部屋に美優の事を聞きに行ったのだが出て来なかった。エミリに頼んで美優の部屋にも、一応行ってもらったのだが、此方も同様。

 美優の姿が見えない事をエミリ達も心配していたが、とにかく今は捜し出す事が先決だ。適当に誤魔化しエミリとの話を早々に切り上げ電話を切った。



 もうすぐ夕食の時間も終わりだ。スマホを持つ手を力なくダラリと下げ、だだっ広い生活感のない部屋の真ん中に立ち考える。


(また、内緒でどこか出掛けたのでしょうか?  それにしても電話が繋がらないのはおかしい)


 物思いに耽ながら、ふと窓の外へと視線を反らすと窓に水玉模様が浮かび上がっていた。いつの間にか雨が降っていたようだ。窓を濡らした雨粒が水滴となり、一筋の路を作りながら、下方へ滑り落ちていく。そんな雫に急かされるように、柊哉は再度スマホを耳に充てた。


「この電話番号は電波の届かない所にいるか、電源が入っておりません」


 先程から、何度も聞いているフレーズ。今度は和人に掛けてみたのだが、やはり同じだ。


(電源を切ったのか、圏外にいるのか――どちらにしても、偶然二人同時は有り得ない。これは、二人が一緒にいると思って間違いないですね)


 その考えにたどり着いた瞬間、次の行動へと動いていた。部屋の隅へと移動し白い壁に手をつける。

 何の変哲もないただの壁から、優しく温かい感覚が伝わって来る。まるで見守られているように――

 柊哉は目を閉じて意識を壁へと集中する。自分の神経を壁の奥へ奥へと向ける。真っ暗な闇が続く中、ゆっくりと、しかし迷わずに進んで行く。柊哉には、目的の場所が分かっている。否、感じているのだ。


(見つけた!! あれがこの建物の核)


 オレンジ色に光りを放つ、手の平サイズの球。暗闇の中にぽっかりと浮かび上がっている。とても温かみのある光だ。


 まるで触手を伸ばすように意識をゆっくりと絡みつける。それは一本の細い糸――柊哉の体から伸びている。徐々にその糸の数が増え、球を覆い尽くし、その姿はもはや見えない。オレンジ光が、その隙間から僅かに洩れ、微かにこぼれ落ちる。

 辺りが一気に薄暗くなる。

 人と違い意識を持たぬ建物にリンクするのは少々時間がかかる。此方から無理矢理意識を近付けるしかないのだから……

 核に意識を向けて集中する。そうする事、十分。温かい何かが柊哉に流れ込むのを感じた。建物の感情だ。長い年月が経つと物にも少なからず感情が生まれる。しかも、この寮には寮生を守るという意思を魔法によって、最初から与えられているのだ。


(捕えた!!)


 リンク完了。大きさが大きさだけに意外に手間取った。それともこの寮事態の魔力のせいか?

 徐々に神経を切り離す、一本また一本と――そして後に残るは茜色の糸が一本、繋がっているのみ。蜘蛛の糸のように細い。


(今はこれで十分)


 何か事を起こす訳でもない、ただ見るだけなのだから。

 再び意識をその糸に傾けると、シャツにジーンズという軽装で此方を見つめる自分自身の姿が写し出された。一瞬鏡を見ているのかと錯覚させられる。

 だが、直ぐに気が付く。これは、この寮事態が見ている風景だ。殺風景な室内が目の端に映る。

 意識を集中すると、また違う角度から自分の部屋が見える。こちらに背を向ける自分自身の姿。位置が移動したようだ。今度は場所を指定しながら、更に集中する。

 そう、和人の部屋へと――流石に女子みゆの部屋を勝手に覗く訳にはいかない。


 柊哉の部屋と違い室内はゴチャゴチャしていた。CDや雑誌がテーブルの上に広げられ、派手目な衣服が床に数枚脱ぎ散らかっている。今時の高校生、まさにそんな感じだ。

 勝手に室内物色する罪悪感を覚えたが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


(和人、すみません)


 心の中で一応謝罪の言葉を口にし、少しでも手掛かりを得ようと視点を移動させながら、くまなく観察する。部屋の片隅に何もかけられていないハンガーに目をやる。


(やはり、ありませんね)


 一通り室内を見渡し、納得する。

 本来あるべき物が無い。そう制服と鞄。どこかに片付けてしまえば分からないが、この部屋の様子からそれもないだろう。


 思った通り二人はまだ校内にいるのだ。

 確信を得た柊哉は一気に意識を自分の体へと向けた。その途端シュルシュルと自分の体へと引き戻されていく。クルクルと景色が回り、何だか目が回りそうだ。自分の体に戻った時には軽い車酔いを起こしたように気持ちが悪かった。

 目眩を覚え、眼鏡を外し、片膝を付きうずくまる。自分と寮のリンクが次第に薄れていくのを感じる。糸が徐々にオレンジ色の光を失い、最後にはただの細い細い糸となる。柊哉は、その糸を切らずにそのまま中断させた。

 いつでもリンク出来るように一時的に遮断したのだ。


(この先、また寮にリンクする必要があるかもしれない)


 実際の所、この寮に興味があった。こうしておけば、いつでも簡単にリンク出来る。


 目頭を押さえながら、ヨロリと立ち上がる。


(しっかりしなければ……)


 左手で持つ眼鏡をかけ、顔を引き締めた。


読んでいただき有難うございました。


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