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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
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策略

お待たせ致しました。是非読んでみて下さい。

「どうしたの?  ニヤニヤしちゃって?」


 右手にはめられた、柊哉に貰った指輪を眺めながら、つい頬を緩ませてしまっていた。それを隣の席のエミリに気付かれたのである。

 エミリ、否、他の誰にも柊哉に指輪を貰った事は話していない。


 覗き込むエミリの青い瞳を避けるように、恥ずかしそうに俯き、口籠もる。


「何でもない……です」


 明らかに動揺を見せる美優に、エミリは更に詮索の手を伸ばす。


「隠し事?  私の目を誤魔化せると思ってるの?」


(うっ!!)


 まるで探偵のように詰め寄り鋭い視線を投げ掛ける。


(怖い……)


 小さく身震いを一つする。それでも、美優は口を割る事はしない。

 二人だけの秘密にしたかったのだ。




「何、美優ちゃん脅かしてるんだよ」


 ブレザーのボタンをだらしなく外し、ポケットに片手を突っ込みながら、いつの間に来たのか和人が机の前に立っていた。キラキラと光るピアスがよく似合う。

 相変わらず、美優びいきの和人だ。それとも単にエミリの気を引きたいだけなのか?


 休み時間の為、教室内は騒々しい。皆、新しく出来た友達と交流を深めるのに忙しいのだ。特に和人は、あの一件以来クラスの人気者で、引っ張りだこになっている。さっきまで他の友達の所で話をしていたのだが、美優の様子がおかしい事に気付き此方に来てくれたようだ。



「脅かしてなんかないわよ。追求してるのよっ。失礼な奴」


 ふてくされて柔らかそうな頬を膨らまし、フイッと和人から顔を逸らせ、ブツブツと文句を言う。

 エミリの思考回路はすでに美優から和人へと移っていた。

 余計な詮索をされずにすみそうだ。美優は胸を撫で下ろす。


(和人くんにまた助けられちゃった)


 それを意図してやっているのだろうか?

 美優はそっと和人を盗み見る。外見からは、とてもそこまで考えてやっているとは想像出来ないのだが。


「まぁ、いいわ!! その代わり、今日美優送っててくれない?」


 あたかも和人が悪いような言い方である。


「代わりって……いいけど、何でさ?」


「柊哉さんは、担任に呼ばれてて、炎さんは今日は部活抜けられないらしいの。真生は家の都合で放課後出掛けるらしいし、私もさっき、教頭に呼ばれちゃって――」


「教頭??  何で教頭?」


 キョトンとした顔でエミリを見る和人。美優もつられるようにエミリを見る。


「い、いいじゃない、なんだって」


 二人の注目を浴び、明らかに動揺しているのが美優にでも読み取れる。何か悪い事でもしたのだろうか?


「とっ、とにかくお願いねっ」


 二人の視線から逃げるように捨てゼリフを残し、金色の髪をなびかせ教室を飛び出して行く。

 余程、聞かれたくない事のようだ。

 すれ違うように教室に入って来た柊哉がエミリの異様な様子に気付き振り返りながら、二人の元へやってくる。


「野田さん、どうしたんですか?」


 二人は顔を見合せ、外人のように両手を広げて同時に首を傾げた。


「さぁ?」




「では、和人お願いします」


「あぁ、任せとけって」


 親指を立て力強く頷く和人を確認すると、すぐに柊哉達三人は教室を後にする。バラバラとそれぞれの目的の場所に向けて散って行く。

 ホームルームが終わったばかりで教室内にはまだ沢山の生徒達が残っている。

 楽しそうにこれからの寄り道先を話しながら帰り支度を整える。


「じゃあ、和人君。また明日」


 香がニコニコと満面の笑みで可愛らしく胸の前で手を振りながら、女子数名と出ていく。その後に続くようにクラスメイト達が続々と和人に挨拶をしながら教室を去る。どうやら、男子生徒にも人気があるようだ。

 和人も一人一人右手を挙げ、返事を返していた。


(いいなぁ、和人くん。沢山お友達出来て)


 美優は、その様子を羨ましそうに眺める。

 今だに美優は他のクラスメイトには馴染めていない。避けられている訳ではないが、挨拶以外は特に話した事がない。何を話したら良いのか分からない。

 十二名家という事もありクラスメイト達も話ずらいようだ。実際、師走冬子も執事の十二田以外の者と一緒にいるのを見ない。



「美優ちゃん、行こうか?」


 鞄を小脇に抱え和人が軽やかに椅子から立ち上がる。美優も後に続こうと椅子から腰を浮かせかけた。


「良かった。美優ちゃん、まだいた」


 開け放たれている教室のドアに手を掛けながら、雪乃がホッとしながら現れる。どうやら、走って来たようで息が荒い。


「何か用っすか?」


 警戒の色を顕に和人が美優を背に庇うように二人の間に割って入った。


「あらっ、貴方だけ?」


「そうだけど」


 和人は睨み付けながら答えるが、全然動じる気配がない。

 二人に視線を走らせ、笑みを浮かべる。


「そう……そんなに警戒しないで。もう誤解は解けて仲直りしたんだから。ねっ、美優ちゃん?」


 だが、和人は尚も疑いの眼差しを向けている。


「そんな簡単には信用出来ませんねぇ」


 チャライ格好とは不釣り合いな程、厳しい口調。雪乃が困ったように和人の身体の横からヒョコリと顔を出し美優に助け船を求めた。


「美優ちゃん、何とか言って」


 和人の態度に戸惑いながらも助け船を出す。皆に疑われてばかりで可哀想だ。


「本当です、和人くん」


 真剣な眼差しで和人を見つめる。困ったように和人は左手で髪をガシガシと掻いた。


「分かったよ」


 和人は、ゆっくりと二人の間から身を引き、自分の席へ戻る。椅子を後ろ向きに馬に跨るようにどっかりと座り、柊哉の机に右手で頬杖を突いた。

 黙って美優は、それを見送り、和人が座るのを確認すると口を開いた。


「雪乃さん、何かあったんですか?」


(わざわざ会いに来るなんて)


「実は慶に伝言頼まれて」


 監視するような和人の視線を平然と浴びながら雪乃は語る。


「慶くんに?」


「えぇ。美優ちゃんに大切な話があるらしいの。人に聞かれたくないから、裏庭にって」


(大切な話――まさか、お母様の件で何か分かったのかも!!)


 美優の心臓がドキリと跳ね上がる。人に聞かれたくないのもそれなら納得がいく。


「何故、自分で来ないんだよ?」


 和人が疑惑の眼差しを向けるが、余裕ありげに唇の端を上げた。


「そんなの当然じゃない、慶が直接会いに来たら、また騒ぎになるからよ」


「話って何だよ?」


「私は知らない。それは美優ちゃんが一番良く分かってるんじゃないかしら?」


 意味ありげな表情で雪乃は美優をじっと見つめた。和人は悔しそうに顔を歪める。やはり、柊哉のようにはいかない。雪乃の方が一枚上手だ。


「私、行って来ます」


 真剣な面持ちで和人にはっきりと告げる。


(お母様の事ならどんな些細な事でも知りたい)


 美優は首元のネックレスに優しく握り締める。堅い感触が手の内に感じ取れる。気が付くと教室内には三人しかいなくなっていた。余計な事に巻き込まれるのはごめんと言わんばかりに皆姿を消していた。


「美優ちゃん!!」


 心配そうな和人の声だけが教室内に響く。誰もいない教室とはこんなに静かなものなのか。


「大丈夫です」


 安心させるように大きく頷いて見せる。それでも和人は納得出来ない。


「でも……」


「そんなに信用出来ないなら、貴方も来れば?」


 雪乃は一瞬、目の奥をキラリと光らせるが和人はそれに気付かない。


「言われなくても、そうするよ」


 雪乃はニヤリとほくそ笑んだ。






「それで、如月さんはどこにいるんです?」


 和人はキョロキョロと辺りを見回す。

 小さな倉庫とその脇に木が一本生えているだけで、人の姿はない。遠くで部活動にせいを出す生徒達の声が聞こえてる。


「人目につかないようにあそこにいるのよ。彼、貴方と違って人気者だから」


 真っ直ぐに倉庫を指差した。思わぬ雪乃の攻撃に和人はムッとして眉を潜めていた。


(和人くんも十分人気者だと思うけど)


 言葉には出さないものの教室での和人の様子を思い出していた。


「慶が待ってるわ」


「……あっ、はい」


 優しい力で背中を押され、倉庫へと歩を進め始める。きちんと整地されていないせいか、時折固い石ころを踏みつけてしまい足の裏が痛い。


「確認しなくていいのかしら?」


 いかにもそれが当然の事ように和人を促す。


「行くに決まってるだろう!!」


 不機嫌そうに大声をはり上げ、足早に美優の後を追う。すでに和人は雪乃の言葉に躍らされていた。

 倉庫の扉を開けようとステンレス製のドアに手を伸ばした時、美優に追い付いた和人もドアに手を伸ばしていた。


「あっ……」


 暖かく骨張った感触がその手に触れた。二人同時に慌ててその手を引っ込める。

 そして、顔を同時に赤く染める。照れてお互い視線を外す。


「ご、ごめんっ――――と、取り敢えず、中だけ確認するよ。後は二人で話して」


 和人は再度ドアに手を掛け、薄暗い中へと足を踏み入れる。


「誰もいない」


 和人の言葉に美優も中を覗き混む。小さな明り窓が一つ。ボールやマットなどの体育用品が綺麗に片付けられている。どうやら、体育倉庫らしい。魔法学校といえど体育の授業は普通にある。体力や柔軟性も魔法には必要不可欠なのだ。


「雪乃さん、誰も……」


 振り返りながら「いない」と続けようとしたその時、強い力で背中を押され、前へとよろめいた。


(えっ?)


 慌てたように和人が、その華奢な体を簡単に支えた。


 ―バタン―


 美優のすぐ後ろで音が鳴る。それと同時に倉庫内が暗くなった。


「あっ、おい!!」


 和人の焦る声が耳元で聞こえ、肩を支えていた手が放される。


 カチャリッ


 乾いた音が耳に届く。


(今の音って……)


 青ざめた顔で恐る恐る美優は後ろを振り返る。和人も美優と同じ事を考えたらしく入口に飛び付いた。

 ガタガタとドアを開けようと揺らす。だが、一向にドアは開かない。

 ――閉じ込められたのだ。

 ドンドンと激しくドアを叩き、外にいる雪乃に和人は声をかける。


「おいっ!! ふざけてないで開けろっ!!」


「雪乃さんっ、開けてっ!!」


 美優も駆け寄りドア越しに声を掛けるが返事がない。外の様子を伺おうとドアの外に神経を傾けた――その時、ドアの隙間よりまばゆい閃光が射し込める。

 あたかも光で縁取りをしたかのようにすら見える。


(何っ?)


 何が起きたのか美優には分からない。だが、和人には分かったようだ。


雪乃アイツ、魔法を掛けやがった」


 苦虫を噛み潰したようにいまいましそうに顔をしかめた。


「心配しなくてもいいわよ。明日の一時間目には出れるから。美優ちゃん、協力してくれるって言ったわよねぇ?」


「……協力?」


 美優は戸惑いの色を隠せない。


(これのどこが協力なのか?)


「他の男と一夜を過ごした人を慶の御家族は決して認めない。慶だってきっと目を覚ますわ」


 勝ち誇ったその声が心に突き刺さる。


(そんなに慶くんの事を……)


 ブレザーの裾がクシャクシャに成る程、強く握り締めた。

 誰かを傷つけても好きな人を奪う、自分の感情に素直な雪乃が羨ましく思えたのだ。


いつも読んでいただきありがとうございました。

評価等頂ければやる気もでますので是非お願いします。

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