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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
22/56

待ち伏せ

携帯投稿、意外と大変。メールの打ちすぎなのか(?)、最近手首が痛い…

少々、更新のペースダウンですみません。

 寮長の山上の無言の圧力を受けながら、時間ギリギリで何とか寮内に滑り込んだ。二人が入ると同時に出入口が施錠される。これで、このドアは、魔法が掛けられている為、山上以外に開ける事が出来ない。山上の魔力に反応するように設定されているのだ。

 相変わらずの真っ黒い衣裳を身に纏い、背筋をぴんと伸ばしている。ここに来て何日か経っているが、これ以外の服を見た事がない。

 厳格な表情で早く寝るようにと一言だけ告げ、サッサと寮長室に撤収する。

 今は、特に目立たない方が良いので、間に合った事に取り敢えずホッとするが、走ったせいで、美優の心臓がバクバクといっている。うっすらと額に汗を滲ませた美優は、心臓を宥める為に、胸元に手を触れる。ドキドキとはっきり波打つ心音がその手に伝わって来た。

 若いとはいえ、屋敷にこもりっぱなしだった美優は、体力がない。


「大丈夫ですか?」


 息も絶え絶えな美優に心配した柊哉が尋ねた。


「はい」


 荒い呼吸を整えながら、なんとか答える。柊哉は平然としていた。これくらいでは息も上がらないらしい。

 廊下は、暖色系の小さな明かりを灯しているだけなので薄暗い。出掛ける前は、食堂や談話室が騒がしかったが、今は誰もいないらしく真っ暗になっていた。時間も遅いから、皆、部屋に戻っているのだろう。




「今日はもう遅い。部屋に戻りましょう」


 柊哉は特に何も聞こうとはしなかった。

 美優は足を止めたまま、その場から動こうとはしない。


「和人くん、大丈夫でしょうか?」


 歩き掛けた柊哉の後ろ姿に尋ねる。


(私のせいで風邪を引かせてしまったら申し訳ない)


 男子寮に行く事の出来ない美優は柊哉に様子を聞く事しか出来ないのだ。電話をしてもいいが、もう時間も遅い。具合が悪いのなら、もう寝ているかもしれない。

 柊哉は美優に背を向けたまま苦笑し、そして、振り返る。


「大丈夫。たいした事無いみたいだ。僕が大事をとって代打を申し出たんだ。酷くなったら、美優が気にすると思ってね」


「それなら、いいんですが」


 安堵の溜息を漏らした。


「とにかく部屋に戻ろう。山上さんに怒られたくないしね」


 寮長室を気にしながら、眉をひそめて小声で呟いた。

 先程の山上の厳格な顔を、美優は思い出し小さく身震いをした。


「そうですね」


 二人は揃って歩きだす。廊下の突き当たりで「おやすみなさい」と声を掛け合い、女子寮のある右の階段と男子寮のある左の階段へと別れた。





 柊哉が誰も居ない廊下を通り自室まで来ると、ドアの前に派手な紫のジャージ姿の茶髪の男が膝を抱え、その膝に顔を埋めて座り込んでいた。

 顔を見なくても分かる――和人だ。


「何してるんですか? こんな所で」


 部屋は防音になっているとはいえ、時間も時間なので小さな声で話しかけた。

 柊哉の言葉でピクリと肩を揺らし、ゆっくりと顔を上げる。


「美優ちゃん、大丈夫だった?」


 大声をあげながら飛び付く程の勢いで立ち上がり、柊哉の両腕をがっちり掴む。袖に皺が寄るほど力強く掴まれ、痛みで眉をしかめた。柊哉が小声で話している理由すら考える余裕がなさそうだ。


「心配ありません」


「そうか、良かった……あっ、悪い」


 柊哉の表情から、腕を強く掴み過ぎていた事に気付き慌て手を離し、ばつが悪そうに頭を掻いていた。


「いえ」


 そう答えながらも掴まれた腕が痛く、さりげなくそっと擦る。


「あぁ、そうだ!!美優には和人の具合は大した事ないって言ってありますので」


「ヘッ?」


 言われた言葉の真意が分からずに、間の抜けた声を上げる。


「こんな所で、座り込んでると風邪引きます。寝込まれると美優が心配しますから」


「あっ!!あぁ、そうか、そうだな」


 納得したように首を縦に二、三度振る。相変わらず、大きな声だ。


「仕方がない。今日の所はおとなしく部屋に戻るか」


 残念そうに頭の後ろで手を組んだ。


(おとなしく??)


 思わぬ和人の発言に閉口する。このまま柊哉の部屋に上がり込むつもりだったようだ。


「おやすみ〜」


 クルリと踵を返し、後ろ手に手を振り、三つ先の部屋へと姿を消して行く。

 狙った訳ではないのだが、取り敢えず追い返せた事に、安堵する。今日は色々と考えたい事があったのだ。



 一人取り残された柊哉は、キーを取出し、自室へと入ると電気を点けた。


 必要最低限の物しかない寂しい部屋だ。裕福ではない柊哉には、余計な物を買う余裕などない。如月家が援助バックアップを申し出てくれていたが、魔法学校に通わせて貰えるだけでも有難いのに、それ以上甘えるのは、気が引ける。

 眼鏡を机の上に置き、目頭を押さえる。神経を使い過ぎたのか、酷い疲労を感じていた。ドサリとベッドに腰を下ろすと、やわなせいかギシギシと軋んだ。




 校長室を後にして、柊哉が向かった先は警備会社だった。映像が手に入らない事を確信し、奥の手を使う事にしたのだ。使うなら少しでも早い方が良い――記憶が褪せる前に……


 警備会社の前で魔法学校の担当者を待ち伏せする。


(まずは魔法学校うちの担当者を探さないと……)


 すぐにシャツにジーンズの体格の良い男性が、出てきた。柊哉は、動かない。

 その後も二、三人大柄な男性が出ていくが、ただ黙ってやり過ごす。

 更に待つこと十分、今度は二十代後半位のけばい女性が出てきた。派手なスーツを身に纏っている。



 柊哉は、何食わぬ顔で近づき、声を掛ける。


「すみません、駅はどちらですか?」


 迷惑そうに顔を此方に向ける。フローラルのキツい香水の匂いが鼻につく。


「駅? 駅は、そっち……よ……」


 つっけんどんに言い掛け指を差すが、何かに気が付いたのか、上から下へと視線を奔らせる。


「あらっ……その制服魔法学校よねぇ?」


 明らかに声のトーンがさっきより高い。


「そうですが……?」


「こんな所でどうしたのかしら?」


 迷惑顔から一転、にこやかな笑顔だ。余りの変わり身の早さに辟易しながらも、彼女の視線を受け止める。


(今だ!!)


 柊哉は、リンクの力を発動する。此方を値踏みしている彼女の感情が一気に流れ込んでくる。彼女は何も気が付いていない。必要な情報を探しだす。


「友達の家へ行ってました。初めて来たので道に迷ってしまって」


(まだだ……まだ見つからない)


 照れくさそうに頭を掻きながら、出きるだけ時間を引き延ばす。


「私も駅に行くの。良かったら、一緒に行きましょう?」


 艶っぽい瞳で、じっと見つめ答えを待つ。


(……)


 どう答えようか迷ったその時――


(……見付けた)


 探していた情報を見出だした。此れで、これ以上彼女に用は無い。


「あっ!! そーいえば、友達の所に財布忘れて来た……すみません、取りに戻ります」


「あら、そう……」


 残念そうな声を上げるが、すぐに良いことを思い付いたのか、親切顔で言ってくる。

「待ってましょうか? 帰り困るでしょ?」


 彼女も捕まえた獲物を逃がさないように必死だ。魔法学校の生徒とは、それだけ世間では将来を有望視されているのだ。


「大丈夫です。友達に遅らせますから。では失礼します」


 有無を言わせず、お礼を言いその場を立ち去る。彼女が指し示していた道と反対の方向へ。

 此方を無念そうに見つめる、彼女の視線を背中に感じていたが、それも直ぐに無くなる。未練が残る程のイケメンでは無い事が柊哉自身が一番良く分かっていた。


(思った通り、彼女は事務員だった。これで担当者の顔が分かった。後は、出てくるのを待つばかり。早く出て来てくれるとよいのですが……)

 

 柊哉の思いとは裏腹に担当者はなかなか姿を現さない。日も落ちて、辺りはスッカリ人の判別がつかない程暗くなっていたが、入口の辺りに外灯が合った為に、何とかなりそうだ。人の気配を感じる度に目を凝らして入り口の辺りを見るが、なかなかお目当ての人物は出て来ない。

 何をするでもなく立ち尽くす柊哉の姿は、十分人目には怪しく映るが、幸い暗闇が隠してくれていた。

 何度目かの人の気配に目を凝らす。

 でっぷりとした体格――

 とても強そうには見えないが――


(彼だ)


 柊哉はすぐに、彼へと向かう。




「あの、すみません」


 巨体を揺らし振り返る。その仕草は意外に俊敏だ。

 名門の魔法学校の担当になるだけの事はある。人は見た目で判断出来ない。


「すみません、駅はどちらですか?」


 今日、二度目の台詞を吐く。先程の女性と違い、すぐに気を引けた為、既にリンク済みだ。


「駅ですか。駅は……」


 身振り手振りを加え事細かに教えてくれる。何だか騙しているのが申し訳ないくらいだ。


(あった、これだ)


 柊哉は更に意識を集中させる。どんな些細な事も、見逃す事のないように。

 目の前で話す警備会社の人の野太い声が次第に小さくなり、そしていつしか聞こえなくなった。

 頭の中に流れ込む防犯カメラの映像は、まだ日が経っていない為、かなり鮮明に残っている。ほんの数秒映る腰に届く程長い赤い髪の少女。決してウィッグなどには見えない。カメラに気付いて此方を振り向く。一瞬だけ、その瞳が映される。柊哉はゴクリと息を飲む。


(間違いない、赤だ……)


 動いている為、映像がブレて顔の判別はつかない――だが、その瞳は禍々しい程の赤。

 そして、映像が乱れ、床が映る。どうやら、下に落とされたようだ。が、すぐにその映像も砂嵐に変わる。多分、少女に寄って壊されたのだろう。


 阿相の言う通りだった。

 あれはウィッグなどでは、あり得ない。そして、少女はこの映像を故意に残したのだ。存在を隠したいのなら、カメラを持ち去れば良い。それをしなかったのは自分の存在を誇示したかったのだ。おそらく十二名家に……


 そこまで考えた時だった。誰かに話し掛けられるのを感じた。


「……です……か?」


 巨体を縮こませ、柊哉の顔を覗き込む。目と目が合い、その瞬間柊哉は我に返った。


「あっ、はい、有難うございます」


「あの、どうかしましたか?」


 何となく焦点の定まらない柊哉に気が付いたのか、心配そうに尋ねた。


(しまった、のめり込み過ぎた)


 瞬時にリンクを切り離し、意識をはっきりさせる為に二、三度頭を振った。


「何でもないです。有難うございました」


 お礼を言い教えてもらった(?)駅への道へと足早に歩を進め、そのまま寮まで帰って来たのである。




 後ろに体重を掛け倒れるように横になる。映像を見て分かった事は二つだけ。

 彼女が本物の例の赤い髪の少女だと言う事、そして自分の存在を十二名家に知らしめようとしている事。


(思った程、成果は無かったか……いや、彼女の存在を確認出来た事は大きいか……)


 柊哉は、そっと目を閉じ考える。そして、いつしかそのまま眠りについていた。


読んで下さって有難うございました。

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