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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
21/56

招かれざる客

明けましておめでとうございます。今年こそ、早く更新しようと思っていたのに、もう10日以上過ぎてしまった。皆様にとって良い年になりますように…


 ガチャリと鍵が空き、慶の部屋のドアが開き、一人の少女が姿を現した。


「あっ、電気点いてる」


 ポツリと呟き、嬉しそうな表情を浮かべる。

 真っ直ぐな黒髪を肩上で揺らし、靴を脱ぎ捨てながら声をかける。


「慶、いるのー? 生徒会室に行ったら、急用で帰ったって聞いたから、私も心配になって帰って来ちゃった」


 リビングへと続く扉のガラスに人影が映り、そして開け放たれる。

 ヒョッコリと現した少女の姿は………如月雪乃……だった。


(あっ……)


 思いもよらぬ登場人物に、三人がそれぞれの思いを胸に数秒硬直する。

 ――そして、最初に動いたのは慶だ――


「此処には来るなと言っただろう」


 感情のこもらない声で、冷たく言い放つ。

 ほんの一瞬、何故此処に居るのだと言わんばかりの形相で、雪乃に睨まれた気がして、ビクリと美優は肩を縮めた。だが、次の瞬間には雪乃は笑顔を浮かべていた。


「あら、慶が急に帰ったって聞いたから、心配して来たのよ。何の為にキー預かってると思ってるのよ。ねぇ、美優ちゃん?」


 同意を求めるように、キーホルダーをつまみ、美優に見せびらかすように持ち上げた。プラプラとシルバーのキーが振子のように揺れている。


「えっ、えぇ……」


 ゴクリと唾を飲み、様子を伺いながら緊迫して答える。この前の事もあり、今度は何を言われるのかと思わず身構えてしまう。


「やだ、そんなに警戒しないで。慶も美優ちゃんが来るなら行ってくれれば良かったのに……でも丁度良かった。この前の事、謝りたいと思ってたの」


 申し訳なさそうに、雪乃が申し出た。


「えっ!」


 予期せぬ発言に美優は目を丸くする。


(先程、睨まれた気がしたのは気のせいだったのかしら?)


 あまりの変わりように直ぐには信じられなかった。


「この前は、ごめんなさい。慶に、あの後怒られちゃった。従姉である私達が本来守ってあげないといけないんだって。本当にそうよね、私、何であんな事言っちゃったのかしら」


 その瞳は、涙で潤んでいるのが見て取れる。本当に後悔しているようだ。


「気にしないで下さい。雪乃さんのおかげで、私は沢山の事を知る事が出来ましたから」


 雪乃が居なかったら、如月家について何一つ知る事が出来なかった。そして、母親の事もその中の一つである。


「優しいのね、美優ちゃん。美優ちゃんさえ、嫌じゃなければ仲良くしてもらえるかしら?」


 目じりをそっと白いシルクのハンカチで拭う雪乃。慶は、その様子を黙って見つめている。

 美優は優しく微笑んだ。


「勿論です」


「ありがとう」


 雪乃も優しく微笑み返し、右手を差し出す。美優はそっとその手を握る。外から来たせいか、ヒンヤリと彼女の手は冷たかった。




「用が済んだのなら、サッサッと帰ってもらえないか?」


 まるで雪乃の言葉を信用していないような疑いの眼差しを向け言い捨てた。


(どうして、慶くんは雪乃さんに冷たいのかしら? 全然、雪乃さんの言葉信じていないみたい。とても、嘘を言っているようには見えないのに)


 怪訝そうに慶を見るが、その表情からは、何も読み取れない。


「慶くん、私、雪乃さんともっと話がしたいです。一緒に食事はダメでしょうか? 沢山の人が居たほうが食事は楽しいですし……」


(雪乃さんが、もしかしたら、何か知っているかもしれない)


 淡い期待を胸に慶にお願いする。

 チラリと雪乃を一瞥し美優に視線を移す。キラキラと期待に満ちた瞳を美優は無意識に慶に向けていた。

 そんな瞳でみられたら、ただでさえ美優に甘い慶は断る事は出来ないだろう。


「……分かった。もう一人分用意させよう」


 案の定、諦めたように席を立ち、黒いスマホを片手に奥の部屋へと引っ込んだ。






「美優ちゃん、この前はごめんね。私、美優ちゃんに嫉妬して、ついあんな事を……」


 慶の姿が見えなくなると、声のトーンを落として話し掛けてくる。後ろではCDが穏やかな音色を奏でている。


(嫉妬……?!)


「雪乃さんは、慶くんの事好きなんですか?」


 その言葉で、雪乃はポッと頬一気に赤らめる。


「内緒にしてね」


 戻って来ないかと、慶が入って行った部屋を気にしつつ、そっと細い人差し指を唇に充てる。


「勿論です」


「慶、いつも私にはあんな調子なの。私、嫌われているみたい」


 憂いを含んだ言葉と寂しい微笑みを美優に向ける。


(本当に慶くんの事好きなんだ……)


 真一文字に閉ざしたピンクの唇をゆっくりと開いた。


「そんな事ないと思います」


 何を言ってあげれば元気付けられるのか分からなく、摂り合えず否定する。

 雪乃は美優をじっと見つめ、戸惑いがちに口を開いた。


「……あのね、美優ちゃん……こんなこと頼める筋合いじゃないんだけど、美優ちゃんが迷惑じゃなければ協力してくれないかなぁ?」


「えっ!!」


 思いもよらない雪乃の言葉に思わず大声を上げ、目をパチクリさせた。


(あっ!)


 刹那、自分が大声を上げた事に気付き、手で口を覆い、隣の部屋に消えた慶の様子を窺う。だが、特に変化はみられない。どうやら聞こえていないようだ。

 美優が胸を撫で下ろすのと同時に、雪乃が探るように尋ねてきた。


「それとも、美優ちゃん、慶のこと好きなの?」


 怖いくらい真剣な顔で、美優をジィィーっと覗き込む。


(うっ…………慶の事は好きだが、それは決して恋愛感情ではない)


「ち、違います」


 慌てて、ブンブンと顔の前で両手を振って否定する。


「そう、良かった」


 大きく息を吐き出し、安堵する。

 そして、にっこり微笑むと雪乃は「じゃあ、お願いね」と半ば強引に了承を取り付けた。



 それから十分後、食事は再開していた。直ぐに、エプロンを付けた年配の女性が現れ、テキパキと雪乃の分の食事が用意された。急な来客に文句一つ言わずに対応出来るなんて、さすが慶の家の使用人だ。よく教育されている。



「美優ちゃん、何か困った事とかあったら、言ってね。私も力になるから」


 ナイフとフォークを使う手を止めて、目配せする。


 何となく納得はいかないが、願ってもないチャンスだ。母親の事を聞いてみようと食事を摂る手を止め、口を開きかけたが…………


「美優」


 慶が呼び止め、黙ってかぶりを振る。美優の考えなど慶にお見通しなのだ。

 先程、ほんの一瞬で気のせいかもしれないが、睨まれた事を思い出す。慶が止めるなら、まだ聞かない方がいいのだろう。


(雪乃さんには悪いが、まだ完全に信用出来ない)


 黙り込んだ美優を促すように、再度声を掛けてくる。

「どうしたの? 私に出来る事なら力になるから、何でも言って……」


「その必要はない」


 美優の変わりに慶がピシャリと答えた。


「私の事信用してないんだ?」


「当たり前だろう」


「そんな事ないです」


 二人の全く正反対の言葉が重なる。勿論、前者が慶で後者が美優だ。


「私が悪いから、仕方ないわね」


 慶の言葉を受け止め、カチャリと持っていたナイフとフォークを皿に置き、悲しそうに視線を落とす。美優は何も言ってあげる事が出来なかった。

 その後、重苦しい雰囲気が食事の間中ずっと漂っていた。音楽だけが場を和ませるように流れ続けていた。








「おかえり。随分、遅かったんだな」


 柊哉が寮に戻ると、まるで待っていたかのように、和人がすぐさま談話室から顔を出す。ざわざわと雑談する生徒達の声が開けられた扉から、洩れ聞こえて来る。


「色々、所用がありまして……」


 理由を言うことが出来なくて、曖昧な返事を返していた。


 ――あれから防犯カメラの映像が無いかと校長室に忍び込み、探してみたのだが見当たらなかった。校長の姿も無いので、多分、鑑定に持って行ったのだろう。

 時折、廊下を人が通るが、柊哉は全く気にする様子がない。この部屋には、魔法が掛けられているのだ。主人不在の際に勝手に他人が入り込めないようにと……その主人は今、学校に居ないのだから、見つかる心配がない。だから、ここに入れる者は、この建物にリンクし、建物の一部として入り込める自分しか居ないのだ。

 柊哉は誰も居ない校長室に佇み一人思案していた。

 ダメ元でこの学校に思念として、少女の映像が残っていないか探ってみたのだが、やはりそれも残されていない。


(まぁ、ほんの数分の事なので、期待はしていませんでしたが……)


 それでも、一縷の望みが潰えた為に短くため息をついた。

 やはり、あの力を使うしかなさそうだ。だが、優秀な先生達に使うとなると、それなりのリスクを伴う。あの能力がばれる可能性もあるのだ。


(仕方がありませんね)


 柊哉は、決断した。

 人気がないのを確認しながら、校長室を抜け出し、ある場所へと向かった――




「……所用って?」


 キョトンとした顔で質問する和人に、柊哉は誤魔化すように質問で返す。


「それより、何かあったんですか?待っていたみたいですが……」


「ああ、そうだった!」


 第三者に話を聞かれないように談話室の扉をパタリと閉める。室内の声が聞こえなくなり、廊下は静かになった。辺りを見回し人気がないのを確認する。これで誰かに聞かれる事はないだろうと安心して話しだす。


「美優ちゃんが、夕方アイツと出掛けて行ったんだ。頼まれて校門まで送って来たんだけど」


「アイツ?」


「如月慶だよ」


「そうですか。何か問題でも?」


 和人が何を心配しているのか、柊哉には分からず問い返す。


「問題だろ? もう、夜だぜ」


「彼女も子供でないのですから、少しくらい遅くても……」


「だから、心配なんだろ」


 落ち着き払った柊哉の態度に、苛々と不機嫌そうに言葉を遮る。和人が何の心配をしているのか、柊哉は察してクスリと笑う。


「彼は従兄ですよ。彼の性格を考えても無茶をするタイプではない。心配ありません」


 焦ったように早口でまくし立てる。


「美優ちゃん、父親と三人で食事に行くって言ってたんだ。だけど、さっき確認したら、そんな約束してないって……」


「確認って?」


 キラリと鋭く瞳を光らせた柊哉の問いに、不味いと顔を曇らせ和人はシドロモドロ。


「それは……その……と、と、とにかく、美優ちゃんアイツに騙されて付いていったんだよ、多分」


 どうやら、誰に聞いたかは、秘密にしたいらしい。まぁ、そちらはすぐに見当がつくが……如月慶の事も、その相手から色々と聞かされているのだろう。だから、必要以上に心配しているのだ。

 黙り込んだ柊哉を和人が心配そうに覗き込む。


「大丈夫ですよ。彼は美優に嫌われる事は決してしません。念の為、帰りは僕が迎えに行きます。連絡があったら教えて下さい」


「でも、俺が迎えに行くって約束しちまった」


(外見と違って以外に律儀な男だ)


 柊哉は頬が自然と緩むのを感じていた。


「大丈夫です。体調がすぐれないとでも伝えておきます。あっ、それから僕が迎えに行く事は秘密にして下さいね」


 そして、子供がイタズラを思い付いたような笑顔を浮かべた。






「そろそろ、帰らないと」


 時計の針は九時半になろうとしている。食後のコーヒーを頂いた後に、美優が言いづらそうに切り出した。先程から、雪乃は美優の知らない話ばかりしていた。雪乃と接点がないので仕方がないのだろうが、美優は二人の会話についていけずに、居心地の悪さをずっと感じていたので、内心ホッとしていた。


「そうだな。確か寮の門限は十一時だったな……」


 壁の時計をみながら、美優に確認する。真っ白な壁に掛けられた黒い掛け時計が静かに時を刻んでいる。


「はい」


「えっ、美優ちゃんもう帰るの?」


 残念そうな声を上げる雪乃だが、その顔はどこか嬉しそうだ。


「雪乃、お前も帰るんだ」


「どうして?」



「彼女を送らなくてはならない」


「待ってるからいいわよ。いつもそうしてるんだし……」


 “いつも”という部分をわざとらしく強調する、雪乃の言葉を珍しく苛々したように慶が遮る。


「駄目だ、帰れ。そして、二度とここへは来るな。キーも返してもらう」


 慶はテーブルへと右手を伸ばす。テーブルの上にキーを置いていたのだ。一瞬、早く雪乃が掴み取り、握り締めた。キーホルダーの部分が雪乃の手からはみ出て揺れている。


「嫌よ。そんな事、慶の叔母さまが許さないわ」


 強い眼差しで慶をじっと見据え訴える。


「勿論、母は了承済みさ。嘘だと思うなら確認してみると良い。状況が変わったんだ」


 慶の言葉にはっと息を飲むが、すぐに駄々をこねる子供のように首を大きく横に振った。


「返さないわ、絶対に!!」


 キーを握り締める手がプルプルと小刻みに震えているのが見てとれる。

 美優は、何も言えずにオロオロしていた。


「……分かった、好きにすればいい。だが、新しいキーに交換させてもらう」


「……」


 怒りを含んだ慶の声に何も言えず、悔しそうに奥歯をギリギリと噛み締めた。


「美優、行こう」


 促すように声を掛け慶が立ち上がり、玄関へ先に向かう。あまりの事に美優はその場から動けずにいた。


「で、でも……」


「門限に間に合わなくなるぞ」


 玄関先から強い口調で掛けられた言葉に、反射的に時計を見ると既に四十五分、時間ギリギリだ。


「ごめんなさい、雪乃さん。失礼します」


 慌てて直立しペコリと一つ頭を下げ、後ろ髪引かれる思いで慶の後に続く。その後ろ姿を、憎しみに満ちた目で雪乃が睨んでいた事に美優は気付いていなかった。






 外灯の少ない暗い路地を車は走り抜ける。町といっても小さな町なので、やはり夜は人が少ない。フカフカの座席にもたれ、美優は流れる家の明かりを車窓から眺めていた。


「さっきは悪かったな」


 慶も外を眺めながら、ボソリと小さな声で謝った。


「あんな言い方、雪乃さんが可哀想です。しかも私の前で」


 責めるように美優が言った。


「そうだな……美優の前であんな事言うつもりは無かったのだが、雪乃あいつが余計な事ばかり言うから、つい……」


「余計な事?」


 美優が不思議そうに、慶を振り返る。

 その時、車が静かに止まった。前を見ると信号が赤へと変わっていた。車一台通らない十字路、運転手は黙って信号を見つめている。


「いや、何でもない。気にするな。あんな事で動揺するなんて、まだまだ修行が足りないな」


 自嘲ぎみに一人呟く慶に、美優は意味が分からずに首を傾げた。


「とにかく、嫌な思いをさせてすまなかった」


 謝る慶にむくれる美優。


「私より雪乃さんに謝って下さい」


「……」


 沈黙する慶をじっと揺るぎない瞳で見据え静かに返答を待つ。


「……分かったよ」


 暫くして、根負けしたようにため息混じりに、慶は頷いた。


「美優に嫌われたくないからな」


「分かればよろしい」


 冗談めかして、偉そうに言う。二人は視線を絡め同時に笑った。張り詰めていた空気が一気に和む。


「そうだったな。お前は昔から強情な所があったんだな……忘れていた」


 懐かしむような遠い目をする。


「強情って酷いです」


「悪い、冗談だよ」


 唇を尖らせる美優に笑いながら慶は謝った。

 いつの間にか、信号が青に変わり滑るように車が発進する。


「十時半には着きそうか?」


 ふと慶は思い出したように、前を向き運転手に尋ねる。


「急げば間に合いますが」


 バックミラー越しに視線を慶に走らせながら運転手が答える。出来ればそうしたくない。そんな思いを感じさせる。大事な主人を乗せているのだから、安全運転が第一なのだろう。


「頼む」


「了解しました」


 そう低い声で答えると同時に車がスピードを上げるのを美優は身体に感じ、流れる景色が速度を増した。




 車が学校に着くと暗闇の中に佇む一人の男性。ヘッドライトに照らされ、その姿を浮かび上がらせる。


「柊哉さん!!」


 思いもよらない人物の登場に、目を見開き驚きの声を上げていた。

 帰りの車中で和人に連絡してあったのだが、まさか柊哉が来るとは思っていなかったのだ。和人も特に何も言っていなかった。

 黙って出て来た為に、なんだかばつが悪い。

 慶にドアを開けてもらい、重い足取りで車を降りたった。


(悪い事は何もしていないのに……)


 柊哉の目を真っ直ぐに見る事が出来なかった。


「湊くん悪いね、わざわざ迎えに来てもらって」


「いえ、貴方が来ると大騒ぎになりますから」


 車のヘッドライトの明かりを頼りに、二人がお互いの様子を探り合う。

 緊迫した空気が流れる中、美優が申し訳なさそうに声をかける。


「あの〜、門限に間に合わなくなります」


「そうだったね」


 二人はフッと息を吐く。緊迫した空気が一気に掻き消えた。

 遠くで犬の遠吠えらしき鳴き声。この辺に人家はない、林に住み着いた野良犬だろう。


「慶くん今日は有難うございました。それから、運転手さんも有難うございました」


 車の横に立つ白い手袋をはめた運転手にまで、身を乗り出して礼を告げる。


(私のせいで本来しなくてもよい仕事をさせてしまった)


「いえ……」


 瞬間驚きで表情を崩すがすぐにポーカーフェイスに戻す。ライトに照らされたその頬が少し赤いのは、普段言われないお礼を言われ照れているのだろう。


「慶くん、コックさんにもお料理美味しかったです。有難うございましたって伝えてくれる?」


 雪乃の事があったせいで、お礼も言わず飛び出して来た事を思い出したのだ。


「分かった。伝えておくよ。もう、行った方がいい遅刻するぞ」


「はい、おやすみなさい」


「おやすみ」


 見送る慶に手を振り、寮へと戻る。柊哉もお辞儀をして、その後にそっと続いた。


 美優は、暗い道を先立って歩く。後ろで車のドアが閉まる音が聞こえたが、振り返る事はしなかった。

 後ろを歩く柊哉の顔を見る事が出来なかったのだ。


「美優」


 柊哉に名を呼ばれ、ビクリと美優は肩を震わす。


「どうして、柊哉さんが迎えに?」


 柊哉に言葉を紡がせないように、前を向いたまま早口で先に質問する。


「和人が具合を悪くして代打を頼まれたんだ」


「和人くんが??」


 思わずクルリと振り返る。


(あっ……)


 柊哉と思いっきり視線がぶつかり慌てて目を反らした。わざとらしくずらした視線に柊哉は勘違いしたようだ。


「何か美優を怒らす事したかな……」


 悲しそうに尋ねる柊哉に慌てたように答える。


「いえ、違います。その逆です」


「逆?」


「勝手に出掛けたので、柊哉さんを怒らせたかと……」


 消え入りそうな小さな声だ。


「怒ってないさ。美優にだって、色々付き合いがあるだろうし……籠の中の鳥の籠が変わっただけでは何も変わらない」


 苦笑混じりにそう言った。


(確かに、そうだ。でも、私が家を出たのは……)


 不安に満ちた瞳で、柊哉を見上げる。その瞳を勘違いしたのか柊哉は続ける。


「大丈夫です。美優がどこにいても、必ず見つけ出す。そして、何があっても僕が守ります」


 その時、突風が吹き、月明かりに照らされてピンクの花びらが宙を舞う。美優の髪も風にそよいだ。なびく髪を乱れぬように右手で押さえこむ。


「門限に間に合わなくなる急ぎましょう」


「はい」


思い付きで書いているので、色々矛盾が生じているような気がする今日この頃…その内、読み直してみようかなぁ

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