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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
20/56

マンション

遅くなりましてすみません。十九話訂正済みです。まだ、読み直していない方は前話からお願いします。

ご迷惑おかけしました。

「はぁー」


 ソファーの真ん中で、美優は大きなため息を一つ吐く。


(この部屋から、出る事も禁じられるなんて)


 本来だったら、特に人と会うのが苦手で、部屋から出たいとは思わないのだろうが、ダメと言われると益々出たくなるのが人の心情というものだ。

 これでは、引きこもりの生活をしていた頃とあんまり変わらないのでは?と思う程だ。


「はぁー」


 美優は、二度目の深いため息を吐いた。

 今のままでは、学校内で直接慶に母の事を聞く事すら出来ない。


(とりあえず、電話してみようかなぁ)


 テーブルの上に置かれたスマホを手に取る。雪だるまのストラップが揺れた。

 ディスプレイを眺め、慶の電話番号を選び出す。


 トゥルルル


 相手を呼び出す電話音が耳の奥に響く。ワンコール鳴っただけで、すぐに慶は電話に出た。


「美優、何かあったのか?」


 飛びつくような慶の声に、美優は逆に驚き戸惑いを覚える。


「いえ、何も……?」


 自分の早とちりに気付いたのか、少し照れくさそうに謝る。


「すまない、驚かせて。さっき、職員室で湊君に会って、先に帰ったって聞いたから心配していたんだ」


(柊哉さんと……柊哉さん、何の為に職員室に行ったのかしら?)


 ボンヤリと考え込む美優の耳にガヤガヤと騒がしい話し声が遠くに聞こえる。どうやら、まだ学校にいるようだ。

 電話の向こうで「会長これどうしますか?」と話しかける男子生徒の声「机の上に置いておいてくれ」と慶が短く答え、電話の無効で二、三会話をしている声が聞こえる。


(何だか、忙しそう)


 美優はその間おとなしく待っていた。


 暫くするとガラリと扉を開き、締める音--そして、電話の向こうは静かになった。

 どうやら、場所を移動していようだ。


「すまない。それで、用件は?」


 忙しそうな慶の様子に美優は躊躇ながら、遠慮がちに口を開く。


「あの、聞きたい事があって……でも、慶くん忙しそうなので、また後にします」


「いや、大丈夫だ。なんだい?」


「二人だけでお話ししたいのですが……学校で時間取れますか? 慶くんが迎えに来てくれれば、葉月さんも行かせてくれると思うんだけど」


「電話じゃダメなのか?」


「出来れば会って話したいです」


 電話の向こうで、困ったように黙り込む慶。


「駄目ですか?」


「いや、そうではないんだが…校内は、出来れば避けたい……分かった、今日はもう帰るから家で話そう。美優、校門まで誰かに送ってもらえるか? 迎えに行ってやりたいが、俺が一緒だと何を言われるか……」


「近いし一人で大丈夫です」


「駄目だ。一人では。君を危険に晒す訳にはいかない」


「危険って……わかりました。誰かに頼んでみます」


 慶の言動は、少々大袈裟だと思いつつも承諾する。

 少しでも、早く母の事を確認したい。


「では、待ってる」





 電話を切った後、すぐに美優は考えを巡らせる。

 恐らく、柊哉達はまだ戻っていないだろう。


(和人くんに頼むしかないわよね)


 美優は、少しだけホッとしていた。本当だったら、柊哉に頼むのが筋なのだが、出来れば、母親の事を小さな子供のように、今だに気にしていることを知られたくなかった。

 いないなら、和人にも頼みやすい。

 美優は、すぐに行動に出た。





 十分後、二人は校門までの道程を歩いていた。

 途中、柊哉達に会ったらとドキドキしていたが、どうやらその心配も無用に終わりそうだ。学校を通りすぎ、どっしり構えた校門が遠くに見える。


「和人くん、すみませんでした。また、ご迷惑をおかけして」


「いや、こんな事くらいおやすい御用だよ。おかげで美優ちゃんの私服姿見れたし」


「えっ!!」


 和人の冗談まじりの言葉に返答をつまらす。どう、返していいのやら戸惑ってしまう。

 自分の洋服を上から下へ眺めた。黄色のアンサンブルにフレアースカートと春らしい出で立ちをしていた。


「迎えが来るってこれからどこか行くの?」


 何気ない様子で頭の後ろで両手をくみながら和人が尋ねる。


「えっ、えぇ。お父様と慶くんの三人で食事に……」


 美優は咄嗟に嘘を吐く。

 いくら従兄とはいえ、ころから暗くなるのに家に行くのは聞こえの良いものではない。


「へぇ〜、お父さんこっちに来てるの?」


「あっ、はい、仕事で」


 嘘を吐くのになれていないせいか、心臓がバクバクいう。和人は、そんな美優の心境に気付かず能天気な声を上げていた。


(早く着かないかしら……)


 嘘を吐くのが心苦しい。出来れば、これ以上突っ込まないで欲しいと心の中で祈る。その願いが届いたのか、それ以上、和人は質問して来なかった。



「あっ、あれじゃねぇ」


 校門前に横付けされている高そうなベンツを和人が指差す。綺麗に磨きあげられたベンツの中に慶の姿を美優は見つける。


「そうみたいです。和人くん、ここで大丈夫です」


「そうか」


 数メートル離れた場所で足を止める。空は大分日が傾いていた。和人のピアスに赤みがかった夕日が反射している。


「ありがとうございました」


「じゃあ、帰りも電話して」


 右手を軽くあげ、和人は美優に背を向け、足早に立ち去っていた。その背中を暫く眺めた後、美優はスカートの裾を揺らしながら、車に掛けよった。




 後部座席から、慶が姿を現し、眩しそうに一瞬目を細め美優を見る。


「慶くん……」


「話は、後で。とりあえず乗って」


 辺りに気を配りながら、ドアを開け紳士的にエスコートしてくれる。洗練された、その動きはスムーズで、やりなれているように感じた。



 フカフカのシートに二人が腰を下ろすと、車はすぐに発進した。


「送って来たのは、別の男だったな」


「別……あぁ、柊哉さんは、多分まだ学校から戻ってないと思います」


 もとから頼む気のない美優は、特に確認をしなかった。


「そうか……三十分位前に職員室であったが、まだ、戻ってないのか?」


(三十分……あの騒ぎのすぐ後くらい……担任に報告でもしに行ったのかしら??)


「掃除当番なので……職員室で何をしてたんですか?」


 興味深そうに尋ねる美優に慶はチラリと一瞥する。


「さぁな? 担任と話をしているみたいだったな」


 短く興味なさそうに答えた。本当は、知っているのにそ知らぬ顔で答える。美優には、それを見抜く力はない。



 車は人気の少ない道を走り抜ける。車窓から流れるように去る緑の木々に視線を向けた。

 時折、白や黄色の鮮やかな色も目に入る。車が早すぎてハッキリ見えないが、多分花を咲かせているのだろう。


 久し振りに会ったせいか、美優は緊張していた。

 慶も黙ったまま口を開かず、車内には車のエンジン音だけが響いていた。

 沈黙に居心地の悪さを感じ、堪らず美優は口を開く。


「慶くん家、ここから近いの?」


「車で一時間くらいかなぁ。美優、もしかして緊張してる?」


 思わず、裏返ってしまった声に慶が美優の緊張を読み取り、クスリと笑いながら慶がからかう。


「してません」


 拗ねたように頬を膨らませた。

 慶からバックミラーに視線を移すと、運転手が惚けた顔で慶を見ていた。どうやら、こんなに楽しそうに笑い、ましてや冗談を言う慶に驚いているようだ。美優とミラー越しに視線がぶつかると慌てたように、前へと戻す。

 慶のおかげで、美優の緊張がいつの間にか解けていた。それを見越して、わざとからかったのかも知れない。


「こうしてると、何だか昔に戻ったみたいだ」


 慶が懐かしそうに呟いた。


「慶くん、すっかり大人っぽくなって……」


「美優は、相変わらずだなぁ」


「えっ!!」


「冗談だよ」


 優しく微笑んだ後、急に真顔になり美優をジッと見つめる。


「綺麗になったな、美優」


 ―ボッッッ―


 リンゴのように美優は一気に赤く染め上がった。




 その後、恥ずかしさと照れで何を話したのかよく覚えていない。いつの間にか慶の住むマンションに着いていた。五階建てのシンプルなマンション。

 美優は車から降りて、下から上へと眺める。


「ここ?」


 意外な程、それは小さい。

 思わず美優は振り返り尋ねた。

 いつの間にか車と運転手はいなくなり、慶がその場に一人残っていた。


「意外?」


「えぇ、もっと広くて大きい場所かと……」


「他人がいるのが苦手でね」


「えっ?」


「このマンション、全て家で買い取った。一、二、三階は使用人が住んでいるが、四、五階は俺の空間だ。気兼ねはいらないよ」


 そう言って屈託のない笑みを浮かべた。






 外の音も届かず、マンション内は、とても静かだった。エレベーターの機械音が狭い庫内に響き、時折ガタガタと揺れる。

 五階を押していたので、慶の部屋は五階なのだろう。


(慶くん、よく一人で住んでられるなぁ。私には無理だ、淋し過ぎる)


 美優は慶のすぐ横に並び、階数表示をじっと見据え、そんな事を考えていた。


「美優が魔法学校ここに来るって聞いた時、叔父さんに、寮よりこちらに住むよう勧めたんだけど、断られてね」


 階数表示に視線を置いたまま慶はふいに話しだした。


「えっ、そうなんですか?」


 驚いて視線を慶にパッと移した。寝耳に水とは、こんな感じなのだろう。


「今からでもここに来る? セキュリティは万全だし、部屋も余っている。ここなら安心だろ?」


(確かに安心かもしれない。でも……)


「いえ、大丈夫です。友達も出来ましたし……」


(それに何より、柊哉さんがいる)


 自分の思いを隠すように言葉を濁す。 


「そうか」


 慶は、少し寂しそうに頷き口を閉ざした。




 フワッとした感覚を一瞬身体に感じ、エレベーターが動きを止める。階数表示が五階を示していた。どうやら、到着したようだ。

 ウィーンとありきたりの音を立て扉が開いた。

 慶が端によけて、美優を先に降ろす。さすが名家という所か、きちんとレディーファーストのエチケットを教え込まれているのだろう。その動作を自然にこなしていた。


 明るく照らされる通路に降り立った美優は、改めて誰もいないという事を肌で実感した。ヒンヤリとした空気が、益々、静寂を醸し出す。

 慶が降りるとエレベーターは、下の階へと機械音を立てながら下りて行った。


 コツコツと靴音を立て、慶が先導するように前を歩く。美優は、キョロキョロと辺りを見回しながらついて行く。隅々まで床は磨かれ、塵一つ落ちていない。窓ガラスに至っても、曇り一つなく、まるでガラスが入っていないようだ。慶の使用人が毎日かかさず掃除を行っているのだろう。


 真ん中辺りの部屋で慶は足を止めた。


「ここだ。夕食の準備をさせてある。食べながらゆっくり話を聞くよ」


「はい」


 そこはシンプルな部屋だった。そこにある物は、どれを取っても高級品なのたが、モノトーンで統一されているせいか、部屋全体をみてもまとまりがあり、華美ていない。


(慶くんらしい部屋)


 親戚なのに今まで一度も慶の部屋に行ったことがない、イヤ、部屋以前に慶の家にすら行った事がない美優はそう思った。他人の家になど、一度も入った事がないのだ。

 室内を失礼にならない程度に見回すと、美味しそうな料理がテーブルの上へ並べられ、温かそうな湯気を上げていた。


「着替えてくるから、掛けて待っていてくれ」


 椅子に座るよう促し、慶は奥へと消えて行く。


(どう、切り出そうかしら)  


 誰も居ない室内で思案する。

 勢いでここまで来てしまった為、何も考えていなかった。

 テーブルに並ぶ美味しそうな料理に視線を向けたまま、ぼんやりと考えていたら、ワイシャツとスラックスに着替えた慶がいつの間にか戻って来ていた。


「お腹空いた?」


「い、いえ、違います」


 自分が料理を凝視していた事に気付き、恥ずかしそうに俯き否定する。


(別にお腹が空いていた訳ではない……いや、空いてはいるか……)


 美優はそっと自分のお腹に触れ空腹を確認する。ここの所、自分が作った料理を食べる事が多かったので、やはりコックが作った料理を見ていると必然的に食べたくなる。かなり美味しそうに盛り付けられているのだ。プロなのだから、当然なのだろうが……


「さぁ、料理が冷める前にいただこうか」


 美優に向かい合いように前の席へと着座する。



 カチャカチャとナイフとフォークがお皿に当たり音を立てる。CDを掛けているので、ゆったりとした曲がBGMとして流れている。

 なんだか、優雅な気分になって、ここに来た目的を忘れてしまいそうだ。


「で、話しって?」


 ずっと気になっていたのだろう。食事を始めて直ぐに慶は切り出した。

 美優は、ゴクリと喉をならし、口の中の物を飲み込んだ。


(どう、話を切り出そうかしら……)


 グラスを手に取り、一口、口に含む。冷たくさらりとした水が喉を潤す。オレンジがかった灯りに照らされ、水面が妖しく光る。

 美優は上手く切り出すのを諦め、単刀直入に質問した。そんな技量は美優にない。


「お母様の事を訊きたくて」


 慶はピクリと一瞬眉を動かすが、美優は気付いていない。素知らぬ顔で問い返す。


「母親の事?」 


「はい」


 慶の言葉にコックリと頷く美優。

 持っていたフォークとナイフを慶は静かに皿に置き、真剣な表情を向ける。これは、食事を摂りながら出来る話題ではない。


「何故、今更そんなことを?」


「聞いたんです。十二名家は、親族婚を行うと」


「誰に聞いたんだ、そんな事」


「柊哉さんです。この前のメール騒ぎの後に教えてもらいました。でも、それは誰もが知っている事ですよね。知らなかったのは、当事者の私くらいで……」


 自分自身を皮肉るように言い、唇の端を寂しく歪める。


「……乃のせいか……」


 思わず慶が小声を洩らしたが、美優はそれを聞き取れずに聞き返す。


「えっ?」


「いや、何でもない。すまない美優、残念ながら君の母親の事は何も知らない。前に何度か父と母に聞いた事があるんだが、教えてもらえなかった。その後、親戚にもそれとなく聞いたんだが、皆知らないの一点張りで……どうやら、親戚こっちは、本当に知らないようだ」


「知らない?!」


(そんな事が果たしてあるのだろうか? 頭首になりえる男の結婚相手を知らないなどという事が……)


 疑いの眼差しで、慶を見る。慶は臆する事無く話を続けた。


「嘘ではない。聞いた話に依ると、前頭首はその頃、次期頭首を誰にするか迷っていた。俺の母は、勿論論外だろうが、長男の雪乃の父親と君の父親のどちらかにするかを。二番目に強い魔力を持つ野心家で傲慢な長男、一番魔力が強いが平和主義で温厚な次男。そのせいで仲違いが絶えなかった。まぁ、一方的に雪乃の父親が敵視していただけらしいが……しかし、ある日突然フラりと君の父親は姿を隠した。一族内では、争いを好まぬ次男が頭首争いから逃げたのだと噂されていた。すぐに戻ると思っていた頭首、だが、彼は戻らず。いつしか次期頭首は長男で決まりだと一族は思うようになっていた。それから5年の月日が経たったある日、君の父親が戻ってきた。とてつもない魔力を持つ小さな女の子を連れてね……戻って来た時には、まるで人が変わっていた。あれ程嫌がっていた頭首になると宣言し、頭角を現した。前頭首は、君の魔力と人が変わったような君のお父さんを見て即座に現頭首に決め、その何年後かに即位したと……俺が知っているのはこんな所だ。役に立てなくてすまない」


「いえ、ありがとうございました。さぁいただきましょうか、せっかく作っていただいた料理が冷めてしまいます」


 深々と頭を下げるその姿に、美優は慶が気にしないように微笑みかけた。


サブタイトルがいまいちしっくりきません。後で変更するかもしれません。

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