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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
19/56

赤い髪の少女

遅くなりすみませんが、訂正致しました。

再度呼んでいただければ幸いです。

これを機に他のシリーズも呼んでいただければ嬉しいです。

「失礼します。阿相先生、少し宜しいですか?」


 柊哉は職員室に来ていた。阿相は、机の上に書類を広げ、それに目を通していた。

 別に水を掛けられた件を報告に来た訳ではない。

 自分から、騒ぎを大きくする必要もない。


「何かありましたか?」


 慌てたように書類から、顔を上げ、柊哉の様子を探る。わざわざ職員室まで、来るのだから何かあったと思うのが当然だろう。


「防犯カメラの件で……」


 ビクリと身体を震わせる。

 キョロキョロと辺りの様子を伺い、誰も話を聞いていないのを確認すると小声で囁いた。

 何か不味い事でも、あるようだ。


「外で話しましょう」


 そう言って、廊下へと出る。




「何も写っていませんでした」


 廊下に出て、早々に阿相が言った。


(おかしい……)


 柊哉は、阿相が嘘を言っている事に直ぐに気が付いた。

 此方が聞く前に答える阿相。話を早く切り上げるつもりがバレバレ。おまけに心が痛むのか目も合わせない。真面目な人は嘘を付くのも下手らしい。


「写ってない。では、念のため映像を見せてもらっても宜しいですか?」


「えっ!!」


 顕らかに戸惑いの表情を見せる阿相。何もかもお見通しだと言わんばかりに黙って阿相を見つめる。


「やはり、ばれましたか? 君には、嘘は通用しませんね」


(十中八九、僕でなくてもバレると思うが)


 心の中でそう思ったのだが、声には出さなかった。


「話していただけますね?」


「すみません、話せません」


 申し訳なさそうに即答し、頭を下げた。生徒に頭を下げる、これは余程の事なのだろう。ならば、余計に聞き出さなくてはならない。

 柊哉は心の中で舌打ちをした。


(本当は、こんな事をしたくない。だが、仕方ないか……)


 誰もいない廊下は妙に静かだ。

 一呼吸置いて、柊哉は声のトーンを押さえ話し出す。それでも静かな廊下に二人の声は響いていた。


「そうですか、ならば他の先生方にも聞いてみます。そうなれば、阿相先生の立場が悪くなるかもしれませんが、それでも宜しいでしょうか?」


「立場……」


「そうです。本来、一生徒に防犯カメラに犯人が移っているかも知れないなど、話して良い訳がありませんよね。万が一、その映像が外部に洩れるような事があったら、この学校の名誉も地に落ちる」


「脅迫するつもりですか?」


 此方の真意を窺うように、じっと見据える。


「いえ、そんなつもり毛頭ありません。ただ、僕は彼女を守らなくてならない。他の先生に確認するにしても経緯を話さなければならないですから。その方が、どう受け取るかは、分かりませんので、あくまでも可能性の話をしたまでです」


 始めから脅迫するつもりで言ったのだが、そんな様子はおくびにも出さない。


「そうですか……それは困ります」


 考え込むように、阿相は視線を落とした。


「どうしますか? 教えていただけるのなら、決して他言は致しませんが」


「…………」


「分かりました。ダメ元で他の先生に聞いてみます」


 業を煮やしたふりをして、阿相にくるりと背を向けた。


「ま、待って下さい」


 慌てたように阿相が呼び止める。柊哉は背を向けたままニヤリとした。






「分からないのです。何故、校長が口止めをしたのか?」


 囁くような声で口を開いた第一声が、これだった。阿相も疑問に思っていたのかもしれない。思わぬ言葉に柊哉が驚く。


「生徒では無いのですか?」


 犯人が生徒の中にいたから、秘密にしようとしていると柊哉自身も踏んでいたのだが、返って来たのは別の答えだった。


「いえ、違います。確かにうちの制服を着ていましたが、うちの生徒ではありません」


 キッパリと言い切る阿相。


「先生も映像をご覧になったのですか?」


「はい」


「制服を着ていたのに、何故うちの生徒ではないと? 見間違えでは、ないのですか? 部外者が校内に入り込むのは難しいですよね」


「そうですね、でも、見間違えでは、ありません。もとより顔は写っていませんから……」


 意味不明な事を言う阿相、流石にこれでは説明不足と気がついたのか、続けて話しだす。


「写っていたのは、腰よりも長い赤い髪の少女の後ろ姿。うちにそんな生徒はいませんから」


「赤い髪……」


 柊哉は、ピタリと動きを止め、眉間にシワを寄せた。


(まさか……)


「どうしましたか?」


 突然、黙り考え込んでしまった柊哉に尋ねた。


「ウィッグとかでは、ないのですか?」


 阿相は首を横に振り、キッパリと言い切る。


「違います。あれは間違いなく本物の髪です。最近のカメラは、よく出来ている。間違いありません」


「顔は? 顔は映っていませんでしたか?」


 早口で詰め寄るように近づき尋ねる。


「ほ、ほんの一瞬だけ、横顔が映ってましたが、残念ながら、ぼやけて判別出来ません」


「目は? 目は何か気付きませんでしたか?」


「目ですか? 目がどうかしましたか? そーいえば、校長も同じような事を言っていました」


 噛み付かんばかりの柊哉の勢いに、首を傾げながら答える。


(校長先生も、あの事を知っている……?)


 それは、極一部の魔法使いにしか知られていない極秘事項。沢山の優秀な魔法使いを預かる身として、知っていても不思議ではない。


「その映像観る事は出来ますか」


「多分、無理です。校長が持って行きましたから。そして、この事は決して他言しないようにと。しかも、警備業者にまで必ず通達するようにと」


「そうですか……」


 映像を観られれば何か掴めるかもと思ったのだが、それは無理そうだ。然るべき場所で、映像は解析される事になるだろう。


(何か、他の手を考えないと)


「あのぉ、何か重要な事が映ってたのでしょうか?」


 見当も付かない阿相が、恐る恐る尋ねる。


「あぁ、犯人は外部の人間かもしれませんね。もしかしたら、警備に不備が見付かり、それが露見するのを畏れたのかもしれません。何としても、少女を見付けて口止めしたいのでしょう」


 もっともそうな、理由を着けて阿相を納得させる。余計な詮索をされ、後で面倒が起きるのだけは、避けたい。

 ガラリと職員室のドアが開き何名かの先生が出て来た。そろそろ部活の方へ行くようだ。廊下でコソコソ話す二人を不審そうに、横目で見ながら通り過ぎる。


「そろそろ、いいでしょうか? 仕事も残ってますので」


 視線を気にしつつ小声で囁いた。


「あっ、はい。ありがとうございます」


「いいですね。このことは、決して他言しないように」


「約束します」


 コクリと安心したように一つ頷く。イソイソと職員室に戻る阿相の背中がどこかスッキリしているのは、秘密を話せたからかもしれない。




「担任を脅迫とは、流石だな」


 突然、真後ろから冷めた声で話しかけられる。


「盗み聞きする、貴方の方が流石だと思いますが、如月さん」


 前を向いたまま、振り返りもせずに答える。ずっと、話を聞いていたようだ。


「盗み聞きとは、人聞きが悪い。偶々、耳に入っただけさ」


 柊哉が職員室に入った時、慶は職員室そこにいた。


(こちらを気にしていたようだったが、まさか盗み聞きをするとは思わなかった)


 プライドの高そうな慶。思いもよらない彼の行動に、内心舌打ちをする。


(彼は、知っているのだろうか、あの事を……)


 慶の顔を盗み見るが、その表情からは何も読み取れない。


「なんだ?」


 視線に気付いたのか、不愉快そうだ。廊下に誰もいないのを確認して、静かに尋ねた。


「どう思いますか?」


「何が?」


「犯人です」


 相手の出方をみるように、眼鏡を正しながら曖昧に尋ねる。


「そうだな、犯人は校内の者だろう。美優の靴箱を知っているのが、その証拠。赤い髪は、万一の時の為の変装でウィッグを着けていた。そんなところだろう」


「阿相先生はウィッグには、見えなかったと言っておりましたが?」


「所詮、映像を見ただけだ。カメラの性能も上がっているが、ウィッグの性能も上がっている」


 何故、こんな簡単な事が分からないんだという感じで、鼻先で笑いながら軽く答える。


(確かに如月慶の言う事は一理ある……しかし、彼はあの事を知らない)


 柊哉は確信した。十二名家でも、権力者しか知りえない情報という事だ。この先の未来は分からないが、今の彼には大した権力はない。


「そうですね」


 慶の意見に、とりあえず肯定する。

 その可能性が無いとはいえない。赤い髪のウィッグを偶然選んだだけ、そう思う方が自然だ。確かに赤という奇抜な色なら、顔より、その髪の色の方が印象に残る。

 それならば、何故美優を選んだのだろう? 偶々、美優が槍玉に上がっていたからか…?

 あの事を知らなければ、間違いなく柊哉自身も慶と同じ事を考えただろう。


「しかし、面白いですね」


 柊哉は、ふと何かに気付いたように微笑した。


「何が面白いのだ?」


「貴方と葉月さんです。二人とも美優と噂になったのに、その対応が全然違います。片や離れて、片や近づいて。紅蓮の騎士と氷の貴公子、その名の通り、正に正反対だ」


 柊哉の言葉に、眉間に皺を寄せる。


「あの人が単純なだけさ」


「僕的には、貴方に賛成ですね」


「お前に賛成されても嬉しくないがな……それより、美優はどうした?一緒じゃないのか?」


 どうやら、盗み聞きしていた最大の理由はこれだったようだ。美優の姿が見えないので気になったらしい。


 柊哉は、大きく息を吐き出して言った。


「彼女は葉月さんに先に送ってもらいました。彼が一緒にいる間は、間違いなく安全です」


「分かっているさ、一緒にいる間はな……では、失礼させていただく。俺も忙しいので」


 ヒラヒラと片手を軽く振って去って行った。彼もまた色々と裏で動いているのだろう。

 柊哉は、その後ろ姿を見送った。







「和人くん、本当にすみませんでした」


 学校から寮までの道のりで、美優は何度も謝っていた。


「如月さん、そのくらいにしてあげたら。そう何度も謝られたら、彼の負担になるよ」


 横に並んで歩く炎が、やんわりと和人に助け船を出す。


「あっ……!!」


(確かに何度も謝られたら、逆に悪い事をした気分になるだろう)


「ご、ごめんなさい」


 反射的に美優は、また頭を下げた。

 炎と和人は互いに顔を見合せ、苦笑いを浮かべる。


「あっ……」


 美優は、顔が火照るのを感じ、そっと頬に手を当てた。



「二ノ宮君、どうしますか?」


「えっ? 何がですか?」


 唐突に炎に言われ、濡れた制服の入った袋を持ちかえながら、和人がすっとんきょうな声を上げた。

 美優にも炎の言いたい事が分からない。


「犯人捜しですよ。被害を被った二ノ宮君に決める権利がある。俺的には、きちんと犯人を捜し出し、それなりの処分を与える事を進めるが。それが抑止力へと繋がる事になる」


 確かに炎が言う事は、正しい。だが、自分が口添え出来る立場ではないが、出来ればそっとして欲しい。


「いや、必要ないっすよ」


 軽い口調で迷わず即答する和人。


「騒ぎを大きくしたくないですし……」


 まるで、美優の気持ちを代弁するかのごとく答える。


「いや、しかし……」


 炎は納得出来ないのか、和人を説得しようと試みる。


「彼女達も違う相手に水かけて、絶対後悔してると思いますよ。その上、罰まで与えられたら踏んだり蹴ったりです。益々、敵意を持つんじゃないかなぁ」


(敵意!!)


 和人の思いもよらない言葉にギョッとする。


(もしかして、柊哉さんはそれを見越して内々に済まそうとしたのかしら??)


 美優は改めて柊哉の凄さに心酔していた。


「まぁ、君がそういうなら……」


 渋々といった感じで、炎が承諾する。悪い事をしたら罰する。正義感の強い彼には、それが当然の事なのだろう。


「如月さん、寮に戻っても出来るだけ部屋から出ない方がいい」


「そうだね、寮は男女別々だし、女の子だけとなると、結構大胆な事をしでかす子もいるみたいだしね」


 真剣な面持ちで、和人も炎に同意する。二人は美優の返事を待つように、じっと見つめる。


「わ、わかりました」


 美優は二人に言われては頷くより他はなかった。


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