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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
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決心

「呼び出して、悪かったね」


 美優は、黙ってプルプルとかぶりを振る。

 昨日と同じカフェテラスの同じ席で話す二人。美優は、噂の的になっている為、他人の目を気にせずに話せる場所は、ここしか思いつかなかった。

 昨日の事を踏まえ、今日は美優もカーディガンを一枚上に羽織って来ている。


 雲一つない夜空の月が妖しく二人を照らし、張り詰めた空気が漂う。昨日と同じ夜空なのに、全然違うものに感じるのは、二人の心境の違いのせいなのだろうか?


「食堂来ていなかったけれど、食事は?」


「はい。部屋で、摂りました」


「……そうか、料理は得意だったね」


 月明かりの下、優しく微笑みかける。


「いえ……」


 昨日までだったら嬉しい言葉も、気を使われているようで、素直に喜べない。

 何となく、柊哉の顔が真直ぐに見れなくて、視線をはずす。


(明日は、休もうと思っているせいかしら……)


 そんな美優の心情に気付く事なく柊哉は話しかける。


「そーいえば、野田さんと大谷さんが鞄届けたと思うけど……」


「はい、わざわざ部屋まで届けて下さいました。何だか申し訳ないです」


 美優は、まるで捨てられた子犬のように、しょんぼりとうなだれる。


「どうして?」


「……っ……」


 反射的に美優は、顔を上げた。じっと見つめる柊哉。どうやら、返答を待っているようだ。


「……ご迷惑を掛けてしまって……」


「彼女達が迷惑だって言った?」


「まさか……」


 美優は大きく首を振り、すぐに否定する。


「そうですよね。それは、美優が勝手に状況判断したんですよね? それでは、メールや写真に躍らされている子達と一緒。野田さんも大谷さんも、美優の力になりたいって、自分から鞄を持って行くって言ったんです。もしも、美優が野田さんや大谷さんの立場だったら?」


(あっ……)


 美優は、膝の上に拳を握り締め、それを見つめる。


(迷惑だなんて、思うはずがない。力になりたい、一緒に頑張りたいって……多分、遠慮されたら、とても悲しい)


「二人とも、それと一緒なんじゃないかなぁ」


 美優の考えを見越したようにボソッと言った。


(辛い過去を話して応援してくれたエミリちゃん。私が休みを選んだ時の罪悪感を減らそうとしてくれた真生ちゃん。私は、二人の為にも頑張らないといけないのでは無いのだろうか。でも……)


 頭の中を駈け巡る思い。何を選ぶべきなのか、最初から答えは出ていた。ただ、己の弱さがその答えを遠ざけている。今、一歩踏み出せない。



「いつまで、逃げるつもりなんだ? このままでは、何も変わらない、利用されて、終わりだ。何の為に、ここに来た? 自分を変える為ではないのか?」


 怖いくらい厳しい表情で、柊哉が叱咤する。美優の迷いを振り払うごとくに…


(そうだ。私には、時間が無い。この三年間しか……のんびりしている暇は無い)


 柊哉の言葉が胸を貫く。

 キリリと表情を引き締める。その顔に既に迷いは無い。


「私、学校に行きます」


 ざわざわと木々が風に吹かれ揺れる。美優の髪を乱れさす。乱れる髪を抑えながら、再度、柊哉を見据えはっきり言い切った。


「学校に行きます」


 柊哉は、その言葉に厳しい表情を一瞬で崩し、いつも通り穏和に微笑む。


「そうと決まれば、僕も全力でサポートします」


「あぁ、そういえば……」


 ふと、思い出したように柊哉が続ける。


「Dクラスの皆も美優の事を心配してました。休むよう言われたと話したら、野田さん達と先生方に抗議に行くって……」


「抗議!!」


 美優が、青ざめた顔で両手で口元を覆う。そんな事をしたら、先生方に目を付けられてしまう。


(私のせいで……)


「大丈夫です。勿論、止めましたから……」


 美優は、ホッと胸を撫で下ろした。


「本当に良かった。美優が学校に来なかったら、野田さんを筆頭に何をしでかすか分からなかったからね」


 冗談めかして、柊哉が笑う。美優は、その冗談を笑えなかった。何故なら、クラスメイトは、ともかくエミリなら間違いなく職員室に乗り込んで行くだろう。その姿が目に浮かぶようだ。


(学校、行く事にして良かった。てか、柊哉さん、その話をしてくれたら、直ぐに行く気になったのに……)


 柊哉は、そんな美優の心を知ってか、知らずか話を進める。


「もう少し後で話そうと思ったのですが、十二名家について、少し話しておいた方がいいかもしれませんね」


 真っ暗な夜空に浮かぶ月を見上げた。美優も、それにつられるように見上げる。

 食堂の灯りも消されている為、部屋の明かりは、カフェテラス(ここ)には、届いていない。まさに月明かりだけ。多分、美優達がここにいる事は、誰も知らない。そのお陰で二人きりで話が出来るのだ。




「十二名家、それは魔法界で強力な魔力を持つ名家。それ故に、絶大な地位を持つ。そして、その名家は全部で、十二。如月家もその一つです」


 静かな口調で、まるで昔話をするように語り始めた。美優も黙って柊哉の言葉に耳を傾ける。


「十二名家は、それぞれ得意魔法が違います。美優の如月家は氷、葉月家は火、師走家が古式魔術という具合に……そして、各名家ごとに頭主を定め、お互いがお互いを牽制しあい独裁者を出さぬようにしていた。美優のお父さんは、如月家の現頭首です」


「お父様が……」


 美優は、驚きの声を上げた。一族が集まる場には、一度も出た事がない美優には、そんな内部事情を知る余地も無かった。いつも忙しいのは社長だからと思っていたのだが、まさか、一族の長としての仕事までもこなしていたとは……


「それぞれの名家はより強い力を求めている、自分達一族が頂点に立とうとして。その為、力の強い者同志の近親婚を代々行い、より魔力の強い子を産む。また、そうする事によって、それぞれの力を外に出さないようにしている。だから、雪乃さんの言葉は、強ち、全て嘘と言う事では無いでしょう」


「それって……」


「ここからは、今回の事についての僕の推測です。現頭首の考えは分かりませんが、如月家一族は、次期頭首に如月慶を考えているのだと思います。魔力だけを考えると美優が上かもしれない……ですが、頭首には統率力も必要です。そして、その次の代、より強い魔力を持つ子をとなった時に、その婚約者に雪乃と美優の名が上がった。多分、それで如月慶は、直々、美優の元に通っていたのかもしれない。将来、結婚する事になっても困らぬようにと。もしかしたら、一族は、魔法を使えず、人前に出ない美優の魔力を量りかね、ほぼ雪乃に決めていたのかもしれない。だが、しかし突然、美優が魔法学校に行くと言い出した。そこで一族の考えも変わる。本来、現頭首の娘である美優が、次期頭首になるのが普通です。一族意識の低い美優には任せたくない、それが一族の本音でしょう。それを捻じ曲げて如月慶を頭首に据えるというのだから、それなりの代償が現頭首に必要になります。それなら、頭首の妻という座を与えれば現頭手にも敬意を払う形になる。美優が魔法学校を無事卒業し、魔法を使えるようになれば何の問題もない。まして、雪乃より、魔力が強ければ一族にとっては、万々歳の事。驚いたのは、雪乃でしょう。慶と結婚出来るはずだったのに、突如邪魔が入った。その邪魔者を消す為に、行動を起こした。美優をここから、追い出す為に……」


「では、雪乃さんの仕業って事ですか?」


「メールの件は、間違いないと思います。ただ、写真の方がどうも腑に落ちない」


「腑に落ちない?」


「あぁ、葉月炎を巻き込むとは、葉月家を敵に回すも同然。あちらにも、婚約者はいる。そんな噂が立つ事事態、面白くないだろう。如月雪乃が果たして、そこまでするか……」


 柊哉は顎に手をあて、考え込む。そんな柊哉の前で、美優は別の事を考えていた。


(近親婚……それって私と柊哉さんの結婚は、絶対にあり得ないという事なのだろうか?)


「あのぉ、絶対無理なんでしょうか? 一族以外の人との結婚?」


「えっ、どうかなぁ……男と女の関係なんて、理屈通りにはいかない。だから、皆もあんなに騒いでいるんだろうしね。まぁ、限りなくゼロには、近いだろうけど」


(ゼロに近い……私は、それを目指している。だから、こんな事位で負けていられない)


 美優は、改めて決心を固めた。


「寒くなったね。そろそろ部屋に戻ろうか?」


「はい」






 誰もいない部屋。明日に備えて早々に横になる。


「代々近親婚か」


 何も無い天井を眺めながら、ボソリと一人言を呟く。


(代々……)


 はたとある事に気付く。思わず、ガバリとベッドから半身を起こす。勢い良く起き上がり過ぎて、軽い目眩を感じる。だが、それすら気にする余裕がない。


(代々という事は……私のお母様も一族の一員)


 自分の考えに、ドキッとする。美優は、自分の母親の事を何も知らない。小さな頃は、よく母親の事を父に聞いた。だが、いつもはぐらかされて一度も教えてもらえる事は無かった。それは、お邸の誰に聞いても同じ。いつしか、母親の話はタブーとなっていた。


(同じ一族なら、お母様を捜し出せる。そして、いつか会えるのでは……)


 鼓動が早鐘のように鳴り響く。自分の考えに自然と興奮する。


(そうだ、慶君に聞いてみよう。次期頭首なら、もしかして、何か知っているかも……)


 そう思うと、いてもたってもいられなくなり、ベッドサイドのスマホを手に取った。電話を掛けようとディスプレイを見たとき、既に十二時近い事に気付く。


(えっ、もうこんな時間……)


 流石に電話して良い時間ではない。


(仕方ない。明日にしましょう)


 流行る気持ちを押さえ、スマホを置き、ベッドに潜り込み灯りを消す。何だか、今夜は眠れそうになかった。


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