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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
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迷える心

前回、初評価していただいた方ありがとうございました。そして、お気に入り登録していただいた方も遅ればせながら、ありがとうございます。

初めて、お気に入り登録していただいている方をみた時も嬉しかった。その時は、お礼も言わなくてすみませんでした。これからも、沢山の人に是非読んで頂けるよう頑張ります。

 いつもは、それなりに騒がしい寮内だが、今は物音一つしない。それもその筈、皆学校に行っている時間なのだから。人が居ない時は、こんなに静かなものかと美優は驚いた。余計な電灯が点いていないせか、昼間だというのに、薄暗く何処か寂しい。

 寮長室に立ち寄り、山上さんに早退の旨を伝え一人自室に籠もる。秒針が刻む一定のリズムまでが、美優の耳に届く。


(山上さん、私の事不審がってたなぁ)


 制服を脱ぎ、きめ細かい柔肌を露にし、ブラウスの袖に腕を通しながら思う。

 上手く説明が出来なかったのだ。自分が嫌がらせを受けている事を上手く説明出来る方がおかしいのだろうが。

 ドサリとソファーに腰を下ろしてスラリと長い足を投げ出し、背もたれにもたれ真っ白な天井を仰ぎ見る。念起の入った建物なのに、この綺麗さは異様だ。やはり、何かしらの魔法が掛けられているおかげなのだろう。

 美優の長い髪がさらりと重力に引き付けられ、形の良いオデコと耳を覗かせた。


(授業、受けられなかったなぁ……)


 魔法を使えない美優にとって、初期の授業はとても大切な物だ。このまま休むとなると基礎を学ぶ事が出来ない。


(これでは、何の為に入学したのか分からない。やはり、柊哉さんの言う通り、休まず学校に通うべきなのか?)


 美優は、小さく首を振り、大きなため息を吐く。頭では分かっているのだが、心がついていかない。


(私は、なんて弱いのだろう)






 コンコンコン――


 誰かがドアをノックする音に、ハッと我に返る。

 いつの間にか、外が賑やかになっていた。廊下を歩く足音や物音、話し声が聞こえる。


(えっ、今何時?)


 素早く身体を起こし、時計を見ると、四時近い。学校が終わり、生徒達が寮に戻って来ているようだ。

 ほんの一時間くらいかと思っていたのだが、随分長い時間考え込んでいた事に美優自身驚いた。



 ドンドンドンッ――


 コンコンというノック音が、いつの間にか荒々しい音に変わっていた。


「美優、いないのー?」


 エミリの声だ。室内まではっきりと聞こえる程の大声。

 このままでは、ドアを壊してしまいそうな勢いだ。


「あっ、はい」


 慌てたように立ち上がり鍵を開けドアを開く。

 エミリと真生が制服姿で鞄を持ったまま立っていた。どうやら、直で美優の部屋に寄ったようだ。


「良かったぁ」


 美優の顔を見てエミリが鞄を抱き抱え安堵する……が、直ぐに唇を尖らせむくれる。


「もぉ、いるんなら早く返事くらいしなさいよ」


 真生がエミリの隣で肩を竦ませてみせる。


「す、すみません」


 かなり心配していた事が分かったので、美優は素直に謝った。


「分かれば、宜しい」


 エミリが満足そうに頷いた。


「美優ちゃん、鞄」


「すみません、わざわざ」


 小脇に抱えた美優の鞄を差し出す真生に、お礼を言いながら、受け取る。真生の手から、美優の手へ鞄が移動する。そんな二人の後ろを女生徒が楽しそうにお喋りしながら、足早に通り過ぎる。同じ緑のスカートがチラリと隙間から見える。二階は、一年生の部屋になっているのだ。



「…………」


 エミリと真生は、その場に立ったまま、何か言いたそうに美優を見る。美優は、小首を傾げた。


(…………?)


 二人が何を言いたいのか、わからない。


 不思議顔の美優にエミリが、先に口を開いた。


「もしかして、ここで門前払いじゃないわよね? わざわざ鞄を届けに来た私達を」


 そして、わざとらしく左手をマッサージしながら「あぁ、重かった」と美優をチラリと見た。どうやら、美優の部屋で休みたいようだ。


「エミリちゃん。鞄持ってたの私なんですけど……」


 真生がすかさず突っ込みを入れながら、自分を指差した。


「あらぁ、そうだったかしらぁ?」


 エミリは、頭に左手を添え大袈裟にトボけて見せる。三人は、顔を見合わせて吹き出した。

 何だか、少しだけ心が軽くなったように美優は感じた。

 ひとしきり笑った後、エミリと真生を部屋へ招き入れた。


「へぇー、部屋の広さ一緒なんだね」


 一歩中に足を踏み入れ、キョロキョロと首をせわしなく左右に動かしながら、少し驚いたようにエミリが言う。

 あんなに早く動かして目が回らないのか?と思う位のスピードだ。


「どうしてですか?」


 エミリの言葉の意味が理解出来なくて、美優は尋ねた。


「十二名家のお嬢様だから、特別扱いかと……」


 エミリの言葉が終わらぬうちに、真生が慌てたようにエミリの制服の袖をチョンチョンと小尽く。


「えっ、何?」


 今度はエミリが真生の行動の意味を理解出来なくて、不思議そうに真生の顔を見る。普通、本人に特別扱いとか言わないものなのだが、気付いていないようだ。。

 真生は、コホンと咳払いを一つして、口を開く。


「十二名家だから特別に部屋を広くするなんて無理です。空間魔法は、この建物を作った時にかけられています。何処に誰が住むかなんて、その時に分からないでしょ? それに一学年に十二名家が一人じゃないかも知れないし……第一、一部屋だけ広くするのは魔力量が違う為、バランスが取れない。不可能に近いわ」


「そういえばそうね。元から二部屋を一部屋にして魔法をかけて建てられていれば可能だと思ったんだけど、そうね一学年に一人とは限らないわね……二人いた場合は、どちらかを特別扱いにすると問題になるわね。それなら、同じ方が納得いくわ」


 真生の説明に、腕を組み頷いている。


「あの〜、ソファーにかけて下さい」


 何時までも立ち話をする二人に、ソファーに腰掛けるように促した。


「じゃあ、失礼します」


 さっきまでの図々しさは、どこへやら恐縮するように、二人はフカフカのソファーに座り、腰を沈めた。

「高そうなソファーね」と二人がコソコソ話している間に、ソファー前のセンターテーブルに珈琲を出し、自分は向かい側の床に置いたクッションの上に座る。

 二人を見上げるような形になってしまうが、仕方ない。友達が部屋に来る事を予測していなかった。


(こんなすぐに友達が出来ると思わなかったしなぁ)


 自分の予想を反する事を、嬉しく思った。

 真っ白なコーヒーカップからは、湯気が立ち昇る。


「もっと、お嬢様ぽい部屋かと思ってた」


「そうそう、ピンクに花柄、レースに……ぬいぐるみとかぁ。美優に似合いそう」


 場を和まそうと、エミリが真生の言葉に冗談めかして続ける。


「そうですか?」


 気もそぞろで返答する。しばらく、二人は他愛もないお喋りをする。美優は、そんな二人に適当に相づちを返していた。正直、殆ど会話が耳に入って来ない。何を話していたのか、よく覚えていなかった。


(二人がここに来た理由は……)


 そんな事ばかり考えていた。

 そんな美優の様子に気が付いたエミリが、ようやく本題に入るべく口を開く。


「美優、話は柊哉さんから全部聞いたよ」


 その言葉は、はっきりと美優の耳に届く。

 美優は息を呑んだ。

 真生も神妙な面持ちで、エミリの隣で頷いた。

 何を言おうとしているのか、美優には分かっていた。二人が美優の部屋に入った瞬間から……

 静寂が広がったその時、バタバタと廊下を駆け抜ける足音が響き、そして遠ざかる。その足音を聞きながら、エミリが問う。


「明日から、どうするの?」


 エミリにしては、珍しく真面目な顔だ。


「…………」


 美優は黙って、下を向く。答えは、まだ出ていない。


「ねぇ、聞いて美優。この前話したと思うけど、私もクラスから浮いてたって……友達も居なくて、いつも独り。おまけに、有る事無い事陰口叩かれて……」


(そうだ!! エミリちゃんも)


 美優は、ハッと顔を上げる。思い出すのも辛そうだ。


「それ迄、私もおとなしい子で、何も言えなくて……そして、いつしか学校にすら行かなくなった」


 今のエミリの姿から、全然想像も出来ない。


「その時に、元彼が家まで来てくれて言ったの。「何も悪い事をしていないのに、どうして逃げる? 戦わずして、何故負けを認める? 一人で戦うのが辛いなら、僕も一緒に戦う」って。一人でも味方がいるのなら、そう思って、次の日から学校に行った。彼は言葉通り力を貸してくれ、イジメの原因突き止めてくれた。私自身が他人との違いを気にし、嫌われないように、他人に合わせていたせいだった……自分で壁作っていた。それが分かってからは、自分を出しながら、彼の力を借りて、打ち解けられるようになった。まぁ、結局彼にも騙されてた訳なんだけど……」


 カラカラと渇いた声で笑う。


(エミリちゃんも辛い思いして来たんだ……それにしても、エミリちゃんの初恋の相手、本当にエミリちゃんの事騙したのかしら……?)


 エミリの話から、どうもそんな人には思えない。


「でも、感謝はしている。私が変われたのは彼のおかげだしね」


 懐かしそうに遠くを見るような瞳で、そう語る。


(彼の事、まだ好きなんじゃ……)


 エミリの表情で、美優は何となく、そう感じたが言葉には出さなかった。


「おっと、話が逸れたわね……だから、美優の気持ち、よく分かるの。でも、だからこそ、言わせて欲しい。美優には、きちんと学校に来て欲しい。その辛さを乗り越えた時に、きっと何かを得られるはず」


 そう断言し、カップを手に取り一気に飲み干す。


 真生がポケットから赤いスマホを取り出し時間を確認し、テーブルの上にを置く。もう六時になる所だ。


「エミリちゃん、そろそろ戻ろうか?美優ちゃんも一人でゆっくり考えたいだろうし……」


「そうね……」


 短く呟いて、立ち上がる。真生もそれに続く。

 皺になったスカートの裾を気にする二人に、美優も立ち上がってお礼を述べる。


「エミリちゃん、真生ちゃん、わざわざありがとう」


 そして、深々と頭を下げる。美優の長い髪が顔を覆う。


「いいのよ、そんな事……」


 ニッコリとエミリは微笑んだが、その笑顔はどこか淋しそうだ。辛い事を思い出したせいだろう。

 美優はエミリに申し訳なく思った。玄関の所迄、二人を見送る。


「美優ちゃん、今度は、私の部屋に遊びに来てね」


「じゃあ、明日、待ってるから」


 手を振って、並ぶように玄関を出る。ドアが閉まると同時に、美優は大きなため息を吐いた。


(明日、どうしよう……)


 二人がいなくなって、静かになった部屋に戻る。まだ、心が決まらない。

 ドサリと崩れるように、ソファーに座り込む。

 ぼんやりと明日の事を考える。今日中に答えを出さなくてはならない。

 ふとテーブルの上に視線が行くと白いコーヒーカップに隠れるように、スマホが置き忘れられている事に気付いた。


(スマホ……そーいえば、さっき……真生ちゃんのだ!)


 弾ける様に、ソファーから立ち上がった。





 コンコン――


 その時、誰かがドアをノックする音を耳にする。先程とは、顕らかに違う控えめなノック音。


「美優ちゃん、真生です」


 息を切らした感じで声をかけてくる。忘れ物に気付いて慌て戻って来たようだ。今時の若者にとってスマホは無いと、かなり不安を感じさせるものなのだ。

 美優は、直ぐに玄関へ向かう。勿論、携帯を左手に掴んで。

 ドアを開けると、少し恥ずかしそうに真生が佇んでいた。


「ごめんね。スマホ忘れちゃったみたいで」


「はい、これですよね」


 そう言って、真生にそっと携帯を差し出す。先程に比べると廊下は大分静かだ。夕食までの一時ひとときを部屋で休む、そんな感じだ。部活動が始まれば、それもまた変わるのだろうが。


「ありがとう」


「いえ」


 美優の手から、真生の手へ今度は携帯が渡される。真生は、その携帯をギュッと握りながら、躊躇いがちに口を開く。


「あのね、美優ちゃん……さっきは、エミリちゃんがいたから言えなかったんだけど……私は、無理しなくてもいいと思うの……」


「えっ!」


 驚いたように真生を見る。


「無理に辛い思いする必要ないと思う……辛い事から、逃げるのは、普通の事だよ。多分、殆どの人が逃げると思う。私が、思うにエミリちゃんの方が特別じゃないのかなぁ。それに、皆がエミリちゃんのように強くなれる訳ではないし、逃げた方が良い時だってある。」


「…………」


「あっ、勿論学校に来てくれた方が嬉しいよ。でも、美優ちゃんが、無理してまで来て欲しいとは、思わない」


 真っ直ぐに美優の瞳を見つめ、優しく微笑む。


「私は、美優ちゃんの味方だから…………じゃあ、携帯ありがとう」


 右手に持った赤いスマホを見せ、自分の考えを告げた真生は早々に立ち去って行った。






(どうしよう……)


 美優は、益々混乱していた。

 エミリと真生、どちらも美優の事を思って言ってくれたのだろうが、まるで正反対の意見だ。

 エミリの強い眼差しと真生の優しい笑顔を思い出す。


(そうよね……無理する事ないわよね)


 やはり、人という生き物は楽な方へ流される。勿論、美優も同様だ。


(それに、私が学校に行ったら皆に迷惑かけるだろうし、先生方も、それを見越して休むようおっしゃった訳だし……)


 まだ、迷いがあるのか、自分の考えを正当化させ自分自身に納得させようとしていた。


少々、スランプ気味だったので、評価頂いた時、頑張ろうという気持ちになれました。本当にありがとうございました。

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