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魔法使いの娘  作者: 彩華
第一章 入学
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弱き心

久しぶりの更新です。

 ボンヤリと寮までの道を美優は、歩いていた。

 誰もいない一本道は、とても長く感じる。近くの木々がザワザワと音を立て、風が美優の頬を優しく撫でる。先程の柊哉の言葉を、美優は思い出していた。


「辛い事から逃げないで立ち向かって欲しい」柊哉の言っている事は、よく分かる。


 魔法行使には、魔力、集中力、想像力、精神力が必要不可欠。魔法学校、初めての授業で習った。魔法行使の際、魔力を集め、どのような魔法を使うかイメージをのせ、それを放つ。そして魔力を放つのに必要なのが精神力なのだ。厳密にいうと、もっと細かな事も必要になるのだが、今現在、美優に欠けているのは、精神力、まさにそれである。だから、強い精神力を身に付ける為に、休まず学校へ通えと。


 でも…………


 落書きされた上靴を思い出す。そして、笑い声を……

 雲一つない晴天――なのに、美優の心は晴れない。

 先程の女生徒達の嘲笑が頭の中で鳴り止まない。

 美優は、唇を強く結んだ。


(嫌な思いをするのが分かっているのに学校へ行くなんて)


 足元に視線を落とし、八つ当たりするように小さな小石を蹴った。コロコロと数メートル転がり、大きな石にカツンと当たって止まる。あの小石がまるで自分のように、美優は感じた。


(魔法学校ここに来てから、気が滅入る事ばかり。学校とは、こういう場所なのだろうか?)


 美優は、大きなため息を吐く。

 キーンコーンカーンコーン

 後ろでチャイムが鳴り響く。美優は、ポケットからスマホを取出し、時間を確認する。一時間目が終わったようだ。美優の手の中で真っ白な雪だるまのストラップが揺れていた。




 美優と別れた後、柊哉は教室に戻っていた。1―Dの教室は、他のクラスに比べて自習のせいか騒がしく、廊下までおしゃべりの声が響いている。

 ドア前に立ち止まり、中の様子を窺う。


(教室に戻ったら、皆に色々聞かれるだろうな)


 これから起こるであろう質問攻めに、一瞬教室に戻るのを躊躇うが、すぐに思い直す。


(遅かれ早かれ、教室に戻らないわけにはいかないのだ。それなら、いつ戻っても一緒だ)


 大きく息を吐き、意を決して、ドアに掛けた手に力をこめた。

 ピタリと会話が一同に止まる。視線がドアへと集中する。おしゃべりの最中でも、美優達の帰りを気にかけていたのだ。

 柊哉の顔を見るなり、和人とエミリが飛んで来る。


「どうだった?」


「美優は?」


 二人同時に言葉を発する。


(やはり、この二人は似たタイプの人間だ)


「彼女は、今日の所は、寮に戻りました。犯人捜しというより、問題が起こる前にその芽を摘み取りたかったようですね」


 他のクラスメイト達も柊哉を取り囲むように、いつの間にか前に出て来ていた。


「問題の芽を摘み取るって?」


「如月さん、どうなるの?」


「犯人分かりそう?」


 柊哉が思った通り、疑問点を思い思いに柊哉にぶつけてくる。正に自分が思い描いていた通りになった為、心の中で、柊哉は思わず苦笑いを浮かべた。



 質問に答えると言うより、校長室であった事を順をおって、一部始終話して聞かせた。皆、黙って柊哉の言葉に耳を傾けていた。そして、全て話し終わった時、和人がボソッと呟いた。


「何で、美優ちゃんが休まないといけないんだ?」


「そうよ。美優は悪くないのに先生達、何考えているのかしら……私、抗議してくる」


 拳を握り締め、青い瞳に赤い怒りの炎を湛えエミリが言った。


「私も行く」


 控えめの真生まで、賛同し、一歩前へ歩を進める。


「俺も」


「私も」


 真生に後押しされるようにクラスメイト達が次々と続く。柊哉は、正直皆の気持ちが嬉しかった。


(まだ会って日も浅いというのに……これがAクラスだったら、こうはならないだろう。しかし……)


「それは、駄目です」


 はっきりとした口調で言い切った。


「どうしてよ?」


 ポニーテールに結った金髪を振り乱し、エミリは唇を尖らせる。周りのクラスメイト達も不満そうな顔を柊哉に向ける。


「駄目です。益々、美優の歩が悪くなる。先生方は、こういった事も危惧して休みを勧めたのだから」


  「…………」


 柊哉の言っている事は正論。エミリは、悔しそうに下唇を噛んで黙り込んだ。

 誰も口を開く事が出来ない。

 重苦しい雰囲気が漂う。皆、どうして良いか分からないようだ。

 そんな雰囲気を破るように


「有難うございます。美優には、皆さんの気持ち伝えておきます。それに謹慎ではない。休むか休まないかは彼女の意志で決められますから」


 そう言って、ニッコリ微笑んだ。




 午前中の授業は何事もなく終了。昨日同様、四人は食堂にいた。美優が居ないという事を除いては……

 食堂内は、美優と炎、そして、慶の噂で持ちきりだ。

 否、噂と言うか、殆ど、美優への悪口だったが。

 やれ、浮気者だの、男たらしだの、辛辣な言葉が耳に届く。中でも、ウェーブをかけたケバい少女は高音響かせ堂々と悪口を言っている。

 この場に美優がいない事に、少なからず四人は安堵していた。


「もぉ〜、頭にくるなぁ〜」


 エミリは、不機嫌極まりない様子でハンバーグの真ん中にグサリとフォークを突き立てる。フォークの隙間から、肉汁がジュワッと染み出る。食堂の雰囲気が悪いせいか、それすらも美味しそうに感じない。まるで砂を噛むような味気なさだ。


「美優ちゃん、ここに居なくて良かったぜ」


「そうですね。先生方の言う事、強ち正解かも。その方が美優ちゃんも傷付かなくてすむんじゃないのかなぁ……」


 真生が食事をしやすいように、髪を耳に掛けながら言った。確かにここでの食事は針のむしろだ。


 ワナワナと唇を振るわせエミリが反論する。


「駄目よ、そんなの……何も悪い事してないのに、そんなの美優に非があるみたいじゃない……こんな事に負けてたら……この先……」


 最後は、消え入りそうな擦れ声で呟き、俯いてしまう。


「そうだな……」


 和人もボソッと洩らす。

 その顔は、珍しく陰りを帯ていた。

 暗い空気が四人を包み込み、沈黙する。



 パンパンと渇いた音が響く。見るとエミリが、自分の両頬を両手で挟み気合を入れるように平手で叩いている。

 隣に座っていた男子生徒二人がトンカツを口にくわえたまま、呆けた顔でエミリを見ている。


「らしくないわね、こんなの」


 余程力をいれたらしく、叩いた頬をりんごのように真っ赤にして、明るい声で言った。


「ねぇ、せめて美優が少しでも、学校に来やすいように対策練らない?」


 驚きで固まっていた和人だが、その声で我に返る。


「あっ、あぁ、そうだな……俺達で出来る限りの事してやろうぜぇ!!」


「じゃあ、まずは、ランチからですね。ここじゃあ、食事どころじゃないもんね」


 真生が、ニッコリ微笑んだ。

 柊哉は目を細め、そんな三人を優しく見守っていた。





「先生。少し宜しいですか?」


 放課後、職員室から出て来た担任の阿相を捕まえる。和人達は、先に寮に帰し、柊哉は、職員室前で待ち伏せをしていたのだ。職員室前に生徒はいない。既に大半の生徒は、部活や帰宅をしている。もし、残っている者がいても、職員室に近づく物好きなど、そうそういるわけもない。何処の学校でも、生徒にとって職員室は近寄り難い物だ。


「あれっ?! 湊君、どうしました?」


 思いがけない人物に声を掛けられ、阿相が驚きの声を上げる。授業が終わったのが、三時。既に夕方の六時を過ぎ、陽も傾き懸けている。まだ、部活に加入していない一年生が残っている事が不思議だったのだ。ちなみに体験入部も来週からとなっている。


「確認したい事がありまして」


 部活に参加している生徒の掛け声を遠くに聞きながら、柊哉は言った。


「何でしょうか?」


「玄関にあった防犯カメラの事です」


「えっ!」


 阿相が目を大きく見開いた。

 入学してまだ三日、その一日は入学式の為、登校したのは、実質二日。壊れたカメラの形跡すら残されていない。それなのに、防犯カメラの存在を認知していたとは、驚くべき観察力と記憶力である。


「よく、分かりましたね」


 阿相が感嘆の言葉を洩らした。


「ライトが壊されていたので……」


 大分、日も落ちて廊下が薄暗くなり、相手の表情が読み取りずらくなって来る。どんな些細な事も見逃さないように、相手の反応を柊哉は注意深く窺う。

 少し間を置いて、阿相は話しだす。本来、生徒に話すような事ではないのだが、新米の阿相には、今回の件荷が重過ぎる。クラス委員の件で数日相談にのってもらい的確なアドバイスをうけていた為、柊哉なら何とかしてくれる、そんな思いが心の片隅にあったのかもしれない。

 今現在は、今回の事件でクラス委員を選出は後回しになっているのだが……


「ライトと防犯カメラが、壊されていました。多分、ビラを撒いた者と同一犯でしょう。ライトは、後日交換する予定です。もしかしたら、犯人が映っているかもしれないので、カメラは業者に確認を頼んでいる所です。明日にでも結果が届くと思うのですが」


 チカチカと頭上の蛍光灯が二、三度点滅し、辺りを照らしだす。人気のない、廊下に一人のたくましい男性の姿が、浮かび上がる。

 どうやら、職員室から出て来て、廊下の電灯を灯したようだ。


「阿相先生、こんな薄暗い所で何してらっしゃるんですか?あれっ、確か君は……」


 阿相の後ろに立つ柊哉に目ざとく気が付く。


「君は確か如月さんといた……」


「湊です、下村先生」


 すかさず、柊哉が名を名乗る。


「あぁ、そうだ。悪いね、度忘れしてしまって」


 悪気が無いそぶりで謝る。

 最初はなからDクラスの生徒の名など覚える気がなかった事を柊哉は瞬時に読み取っていた。まぁ、十二名家は別なのだろうが。


「いえ」


「で、どうかしました?」


 下村がにこやかな笑顔の裏に、警戒の色を湛え尋ねる。


(先程の話を聞いていたのだろうか? だとしたら、彼は僕を疑っている)


 そんな事を容易に推測する。



「大丈夫です。もう用事は済みましたから」


 柊哉も平然と偽物の笑顔を返した。


「では、阿相先生、下村先生、失礼致します」


 礼儀正しく一礼し、その場を立ち去る。


 阿相と下村の視線を背中に感じつつ、今朝の校長室の事を思い出した。

 思い出すだけで、チクリと胸が傷む。柊哉は、胸を押さえ顔をしかめた。嫌な感覚に、戸惑いを覚える。


(そういえば、あの教頭何処かで会った事があるような気がしたのだが……)


 記憶力が良い、柊哉にとって滅多に無い事。


(覚えていないという事は……)


 ある一つの考えが頭を持たげる。柊哉は、それを否定するように二、三度頭を振る。

 頭を振った為に、ずれた眼鏡を直しながら考え直す。


(僕も、完璧ではないという事さ)


 クスリと鼻で笑った。


サブタイトル後で変更するかもしれません

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