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愛憎の始まり~九十三話~

母の体調が悪くなって 働くことも厳しそうに思えてきたのを

壮介は感じていた。

おじょうさま育ちの母親には この環境が辛いのだろうと哀れになった。



自分の存在が母を追い詰めていると 壮介は辛くなっていた。



「かあさん 休んだらいいだろ?」




「大丈夫よ。仕事も行くと楽しいのよ。お友達もできるし。」



母は力なく笑った。

でも壮介は知っていた。



母もイジメにあっていると……。

洋一が


「おまえの母親 仕事がグズだから叱られてるの見たぞ。」と

得意そうになって言っていたから


勤めてるスーパーまで行って 母の様子を隠れて見ていた。



母はスーパーのパン屋で働いていた。

案の定 同僚らしき女から


「何回言ったらできるんですか?」と怒鳴られていた。

壮介は自分が言われているようで 胸が押しつぶされた。



「すみません。すぐにやりなおします。」



母は背を丸くして働いている。


トレイを持ってきた母から 女が乱暴にトレイを奪った。



「あ・・・」



「のろのろしてないで!!」



「すみません……。」



母の謝る声がいつまでも離れなかった。



高校進学が近づいてきた。

壮介は担任に就職したいと 進路を提出した。




「就職?無理だぞ。絶対に進められない。

おとうさんの会社にでも入れてもらえるならそれも可能だけど……

民間では中卒は難しいぞ。」



洋一が 壮介の身の上話を振れ回っているおかげで

家の事情は先生も知ることになっていた。



「父親には絶対…助けてもらいたくない。」




先生にそう伝えた。




学校が終わって校門を出たところで黒い車が停まっていた。



後部座席の窓が開いて顔を出したのは 憎い父親だった。



「ひさしぶりだな。少し話がしたい。乗りなさい。」



「俺は話はないです。」



「いいから乗りなさい。おかあさんのことだ。」



父の言葉に仕方なく乗り込んだ。




「大きくなったな。おまえたちは双子で顔はよく似てるけど

体つきが違う。おまえは大介よりずいぶんでかい

いい暮らししてるのか。 ははは~」能天気に笑った。



ムカついて殴ってやりたかった。

拳を握りしめた。




「今日担任にあってきた。おまえ就職したいと言ったらしいな。

母親に遠慮してだろう?」



「関係ないだろう。

俺はあんたに捨てられたんだし…もう気にするな。」



言葉使いに多分ムカついているとは思うけど

それが本音だったから俺は もうこの恨みをぶつけたくて仕方がなかった。



「かあさん楽させてやりたいんだろ?」



「そりゃそうだ。俺にとって大切な一人っきりの親だ。」



「おまえが俺の望む高校に入れれば 生活費をもう少し工面してやってもいい。

どうだ?俺を利用すればいいだろう?

そしたらかあさんを働かすことはない。

おまえも別れたとはいえ 俺の息子だからな。

学歴だけはしっかりさせておきたい。

あと後面倒にならないように……。悪い話ではないよな?

担任の話によれば

もう一息頑張ってくれれば奇跡を可能にかえられるって言ってたぞ。」




正直 もう母には働いてほしくなかった。

疲れ果ててそれでも必死に出かける母が 楽しい仕事をしてるわけでもなくて

あんな風に罵られながら耐えている姿を知れば



もう大切な母親に苦労はかけたくなかった。



「俺を利用しなさい。」父親がまた言った。




「わかった。俺がその結果を掴み取れば母さんは楽になるんだな。」




「今より何倍も楽だろうさ。」




壮介は意地になっていた。

金を見せびらかして 笑うこの男をいつかきっと蹴落としてやるんだ。



その誓いをまた悔しくて悔しくて……胸にやきつける。

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