表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/190

愛憎の始まり~九十一話~

「おかあさん 俺負けないからね。」



悔しくて泣いていると 壮介がそう語りかけた。



「ごめんね。どうしてこんなことになるのか……

同じ双子で…二人とも大事な子供なのに…私までもが大介を愛せなくなっている。

あまりに壮介が可哀そうで……。」



「いいよ。俺にはおかあさんがいるから。

だから絶対に負けない。おかあさんも俺のこと可哀そうとか言わないで。」



壮介はそう言うと笑顔で微笑んだ。



「たくましくなったわね。

おかあさんの宝物よ……。壮介は……。」



壮介を抱き寄せて頭を撫ぜた。



ふと視線に気づいて目をやると大介が部屋から出て行く後姿




  大介……ごめんね……。



愛せなくなった息子に語りかけたかった。



中学の制服を購入しに行く時


「大介はいいから 壮介だけつれていきなさい。」



強がそう言ったから


「帰り美味しいもの食べて帰りましょうね。」壮介に耳打ちした。



「やった~~!!」無邪気に喜ぶ壮介が愛しい。



制服を合わせる壮介がすっかり男らしくなったことに気がついて

胸が熱くなる。



「おかあさん こんなとこで泣かないでよ。」



「だって…なんか大きくなって…感激してるの。」



「泣き虫だな おかあさんは……。」

ちょっと照れたように壮介はカーテンを閉じる。



いろんなことがあった。

強と別れたくて…でも子供がいるからと必死でしがみついていた。


壮介がもう少し大人になったら……

別れてもいいだろうか


マサヨはそう思っていた。



「今日は奮発して ステーキにでもしようか。」



「マジに?うわ~~最高~~~。」



昔 強がよく連れて行ってくれた老舗のステーキ屋

子供が生まれてからは一度も連れて行ってくれていない。



店の中は変わっていなかった。

いつも特別ルームをとって 強と食事を楽しんでいたけど

今日は奥のカウンターでお肉を焼くのを見ながら座ることにした。



壮介が

「美味い~~美味い~~すごい柔らかい~~」

絶賛しながらかぶりついているのを見て 幸せな気持ちになる。

壮介のためにも頑張らないとと……。




すると入り口が 騒がしい。


強が入ってきた。

その後を 大介……そしてその後をキレイな女がついてきた。



「いらっしゃいませ板垣様……。」



黒服の従業員が丁寧に挨拶をした。



「今日はおぼっちゃまもご一緒ですか?

利発なお顔立ちで…いらっしゃいませ。」



大介は落ち着いた様子で軽く会釈した。



「奥さまも お変わりなく。」



  奥さま・・・・・?



女はきれいに巻いた髪の毛をかきあげて 

「息子がもうすぐ中学にあがるので 今日はお祝いなの。

ね~~大くん~~。」



そういうと大介の頭を優しく撫ぜて微笑んだ。



マサヨの心臓は壊れそうだった。

奥さまと呼ばれているのは ずっと裏切り続けていた若い女……。



まだ続いていたんだ。



大介も笑顔で女を見た。



  母親にさえ見せたことない笑顔……


マサヨの心は粉々に割れた。



「おかあさん……。」心配そうに壮介が見上げる。




「大丈夫……食べよう……今日はおかあさんがお祝いしてあげるんだから。」



特別室から高らかに女の笑う声。



「大くん~制服すごく似合ったよね。

パパに似て本当に素敵だわ~~。」



「素敵だっておとうさん。」



「ママはそうやって俺を有頂天にして また何か買ってもらおうとしてるんだぞ。

大介 女には気をつけろ~~。」



笑い声



マサヨはその声を聞きながら 理想としていた家族の会話を聞いた気がした。



  私だってあんなふうに四人で笑いあいたかったのに……



若くて華やかで美しい女に敗北感で一杯になった。



「おかあさん 俺はおとうさんなんかいらないよ。

兄弟もいらないし…おかあさんだけがいればいい……。」




壮介はそう言うとマサヨの皿に肉を入れた。



[これ食べて 元気だそうね。」



「壮介……。」



マサヨは離婚する決意をした。

これ以上 虐げられる人生を送りたくはない。




「おかあさんも壮介がいればいいわ。

ありがとう。」



くれた肉にもう一枚肉をさして 壮介の口の中に入れた。




「せっかくあげたのに~~」壮介は嬉しそうにモグモグ食べた。




「早く大きくなれ 壮介~~。

おかあさんの宝物~~~。」


マサヨは涙で見えなくなった壮介にそう語りかけた。



「俺がおかあさんを守ってやるからね。」



中学一年に上がる春  壮介は 母の旧姓を名乗り 角谷 壮介 になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ