愛憎の始まり~八十九話~
「おめでとうございます。」
マサヨは病院のベットで目を開けた。
「あ…子供は?」
「少し小さいけれど元気なおぼっちゃまでしたよ
それも二人とも元気一杯泣いてました。」
お手伝いの松代が目頭を押さえた。
「夫は?」マサヨは急に起き上がった。
松代が困った顔をして
「旦那さまは まだお見えでありませんが
きっといらっしゃいますから…奥さまは体を休めて…
何もお考えにならないで……。」
「だって…あの人ったら…昨日だってその前だって
帰って来ないのよ。
きっと私が子供を産んでることすら知らないのよ。」
マサヨは泣き出した。
「可哀そうに…奥さま……。」松代はマサヨの涙をハンカチで拭いた。
見合い結婚の夫は 板垣 強 と言って
一人で親の代から受け継いだ事業を軌道に乗せた。
若いけど野心家で
マサヨの父親の事業を吸収するために マサヨと結婚したのではないかと
最近になって疑問に思うようになった。
マサヨには恋人がいたけれど
両親に会社のために…と泣かれて恋人と泣く泣く別れてきた。
結婚してしばらくは優しい夫で そして仕事のできる夫で
恋人と別れてきて正解だったのだと マサヨはとても幸せだった。
そんな中での妊娠で マサヨは有頂天になっていたが
少しづつお腹が大きくなるにつれて
いつの日からか
その夫の後に女の影を見るようになっていた。
最初はその影を見せないようにしていた夫だったが
マサヨが問い詰めて
面倒になったのか
最近では堂々と帰って来なくなっていた。
昔からいるお手伝いの松代に 少し多めの給料を握らせて
マサヨはいろいろさぐっているうちに
夫には愛人がいることを突き止めた。
その愛人はまだ若く高校を卒業したばかりの子供のような女だったが
真面目一本でやってきた夫はその女に夢中になってしまったようだった。
「こんな立派な後継ぎが二人も生れたんですから
旦那さまもきっと改心なさいますよ。」
松代の言葉になんとか立ち直った。
その次の夜 夫がやってきて息子たちに対面した。
「よくやったな。御苦労さま。」
いつもの夫が戻って来たようで マサヨは嬉し涙を流した。
これから改心してくれるなら
今までの裏切りを許してもいいと思っていた。
「だけど…二人も後継者にはいらないんだよな。
よくあるだろ血縁の争いとかになって戦国時代とかなら
殺し合いになって滅びたとか……
足元救われるわけにはいかないんだ。」
マサヨは夫が何を言いたいのかわからなかった。
「今から決めておくよ。
うちの後継者は 長男
これからは双子だからと言って平等にはしないから
区別をつけて育てて行くつもりだ。」
夫からの信じられない言葉を聞いてマサヨは落ちこんだ。
長男 大介
次男 壮介
この日から 双子は 区別をつけられて育っていく。