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引き裂かれる心~八十六話~

「大丈夫か?痛むのか?」


圭さんが私を覗き込んだ。



「逃げる気?」叔母の容赦ない言葉の矢が突き刺さる。




私はこれみよがしに圭さんにしがみつく。



「ムカツク……」凛が叫んだ。



「ごめん…なんと罵られても俺の幸への想いは

変わらない。ねえさんや義兄さんには感謝してる……。

だけど…幸をあきらめることはできない。

守ってやりたいんだ。

ねえさんが…幸に呪いをかけたあの日から俺は 幸が忘れられなくなった。

幸への罪悪感で…俺はまだ子供だったけど

呪いを背負った幸が可哀そうで仕方がなかった。

壮介さんが…交通事故で亡くなったのを知った時は

全身の震えが止まらなかった。

幸へ…どうつぐなえばいいのか…そればかり考えていた。」




圭さんの言葉に私は衝撃を受けた。



  呪いをかけたのは……



「義兄さんが幸の身内だということもあって何度も施設にいった。

もちろん義兄さんと壮介さんの関係が最悪だったのも知ってる。

だから幸を遠くで見るだけだった。

孤独な小さい幸を抱きしめたくて仕方なかった。

壮介さんがいたらきっと…幸は壮介さんに似て

笑顔の可愛い女の子だったに違いない。

ねえさんの呪いに効力があるとは思わなかったけど

でも幸が一人ぼっちになったのは俺にとってもショックなことだった。

隠れて何度も通ううちに…俺は幸に対して

特別な感情を抱くようになって…怖かった。

幼い幸を俺が絶対に幸せにしてやりたい そんな対象で見る自分が…

義兄とねえさんを裏切ってる気がして

だから…逃げたんだ。

あの日…おこづかいをためて買った ピンクのランドセルに……

俺の変わりに幸の友達になってくれと 念をこめてプレゼントした。

ランドセルを背負って楽しそうに一人ごとを言う幸を見て……

嬉しかった。

俺の変わりに…しばらく幸を頼む

そう後姿に声をかけた。」




「ランドセル?ランドセルは圭さんが?」私は驚いた。



「そうだよ。

昔壮介さんが言ったんだ。

『俺は女の子ができたら ランドセルはピンクだな』って。

壮介さんは自分がランドセルを買ってもらえなかったから…って話てくれた。

明るくなった幸を遠くで見てるだけでよかった

そのまましばらく遠くに行けば…何かが変わると信じていたけど

旅立つ前日…もう一度だけ幸に会いに言った。

幸は泣きながらあの道を歩いてきた。

大きな・・・大きな泣き声だった。

胸が潰れそうだった。

幸の泣き声が 胸に突き刺さって…俺はとうとう

幸の前に姿を現してしまった。」




あの淡雪の降る日・・・・・・。

私は…王子さまと出会った。



王子さまはきっとまた会えるよって…そう言ってくれた……。



痛みに耐えながら私は次に圭さんが言う言葉に集中していた。




「あのピンクのランドセルは…やっぱり幸だったんだ。」


凛が声を荒げた。



「圭くんの部屋にあったランドセル……

まさか幸だとは思わなかったけど 入学して幸が背負ってるランドセルを見た時

なぜか憎しみが湧いたのは……

あのランドセルを……圭くんが幸にあげたからなのね。」




  王子さまが・・・圭さんだった……。



「圭さんが…あの時の王子さまなの?」



目が潤んで圭さんが見えなくなった。




「そうだよ。幸は俺の顔 すっかり忘れてしまってたんだね。

まだ小さかったから…仕方ないけど……

いつか話そうと思ってたんだ。

幸が俺を愛してくれるずっとずっと昔から…幸を愛してしまったんだ。

赤ちゃんだった幸をずっと見てきた。

これから先も絶対に…この想いは変わらない。

たとえお世話になった義兄さんやねえさんに……罵られても

長い年月をかけて幸に注いできた想いは

誰にも止められない……。」




圭さんの言葉に 心が洗われて行く。

私と圭さんは 結ばれる運命だったんだ。




「許さないわよ圭……。」叔母がつぶやいた。



あの日私に呪いをかけて この傷を残したのは叔母・・・・・・

恐ろしさに私は圭にしがみついた。



「こないで……悪魔……。」


私は叔母に叫んだ。




「幸…ねえさんをどうか許してほしい……。

壮介さんを愛してたんだ…深く……愛してたんだ。」



圭さんが言った。




「離れてよ…ヒック…ヒック…圭くん…やめて……。」




華子の嗚咽に振り返った。



「その女から離れて……お願い…ヒック…。」




「ごめん…華子……。

俺は……幸しか愛せない。

華子は大切な姪っ子だから…可愛くて愛しい天使だから

女とは思えないんだ。」




「死ぬから……。

圭くんが…悪い……。

圭くんが幸と一緒にいるって言うなら そんな圭くん見たくない。

死んでやるから…

そして今度は私がおかあさまの変わりに呪ってやる……。」




華子はそう言って部屋を飛び出した。



「華子!!!」




言葉通りのことを 華子は実行した……。




歩道橋から飛びおりたんだ………。

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