引き裂かれる心~八十五話~
絶体絶命の姿を見られてしまった私たちを
板垣家の人たちが鬼の形相で見ている。
どこかで私は
他人事のようにそれを見てる。
今まで虐げられてきた 私の復讐心が
こういう形で遂げられるとはあまりに突然のことで 自分でも
どうしていいのか戸惑って入る。
リビングは重苦しい緊張感
その後帰ってきた シノさんが何があったのかと
心配そうに見ていた。
そして睦月も帰ってきて
それから華子が呼んだ 凛も駆け付けた。
凛はものすごい足音を立てて私の前に立ちはだかって
頭を思いっきり叩かれた。
「だから…だからあんたが大嫌いだったんだわ。
可哀そうな子のふりして 圭くんに近づいたんでしょ?」
凛の目からは涙が流れだした。
「圭くん…ひどいよ。
こんな裏切り方ってある?
ここは私と華子の城なのに……こんなことしてるなんて……ひどいよ…。」
圭さんの表情が苦しそうだった。
「大丈夫か?」私の頭を優しく撫ぜてくれて
「暴力はやめろ。
俺の大切なものに傷をつけるヤツは
おまえたちでも 許さない。おぼておけ。」ときっぱりと言った。
「圭・・・・。この場に及んでおまえってやつは……。」
叔父も声が震えていた。
「こんな形で俺たちに…返すっていうのがおまえは何とも思わないのか圭?」
「すみません。裏切っているとはわかっています。
だけど…大切な人を自分のものにしたいって気持ちは義兄さんだって
わかりますよね。ねえさんを自分のものにした幸せな気持ち
俺だって幸を自分のものにしたいって思ったから。」
「それがなんで幸なんだ?」
「幸と結婚するつもりです。
卒業したら二人で遠くで暮らすともりです。
義兄さんやねえさんの目につかないところで。」
「何を言ってるのかわかってるのか?
今まで俺たちがおまえのために注いできた愛情を
おまえは踏みにじるのか?
こんな結末のために 俺はおまえを大切に育てて来たのか?」
「俺にとって幸は運命の人です。
いろんな偶然の中で 幸は俺の心にすみついて
俺はやっとこうして幸を手に入れた。
だから絶対幸と離れません。
たとえ二人から縁を切られたとしても。」
うれしかった。
こんなに正々堂々と私を愛してくれることを
この場で言ってくれて……
さっきまで松下さんのことで不安で一杯だった雲が晴れて行く……。
「なんで・・・なんで幸なの?
うちらこうして同じ年で…どうしてうちらを見てくれないのに
幸を女として見たの?
うちらと何が違うの?
同情は愛じゃないよ圭くん。
可哀そうで哀れな幸にただ同情しただけだよ圭くん
目を覚ましてよ。
圭くん 優しいkら 惑わされたんだよ。」
華子の声が消えてしまいそうだった。
「違うよ華子……。
俺が一番先に好きになったんだよ。
俺は…幸がまだ赤ちゃんのころ一度あってるんだ。
その時俺の目をじーっと見ていた幸の瞳のきれいさを
忘れられなかった。
俺の心を一瞬で…洗ってくれたんだ。」
圭さんの言葉に私も驚いた。
「え?私と会ったことあるの?」
圭さんは優しい微笑みをくれた。
「あの頃から…俺はずっといつか幸を手に入れたい
そればかりを考えてきた。」
その時
叔母が私たちに向かって テーブルの上にあった林檎を投げつけた。
「この…泥棒猫……。
おまえは…母親と同じことするのね……。」
いつも穏やかで麗しい叔母が鬼のような形相に変わっていた。
母親と同じ?
「圭まで奪う事は絶対に許さない……。」
叔母の声に家族中が 冷え切った。
「殺すわよ。幸・・・・・・。」
叔母が静かに近づいてきて 私は恐ろしさで圭さんにしがみついた。
「ねえさん…やめろよ。
もう幸には関係ないだろ。」
「痛……!!!」
呪いの傷跡が 激しく痛みだした。
今までかつて経験のない痛みが私を襲う。
「死ね……。幸……。
あの女の面影を持っているおまえは一生幸せになれないんだ。」
痛みの中で 立ちはだかる叔母の姿に 昔…会ったことがあると思った。