引き裂かれる心~八十話~
「圭 松下さんは女性だからちゃんと送って行きなさい。」
帰り支度を始めた圭さんたちに叔父が言った。
「わかった。」圭さんはそう言った。
「付き合わせて悪かったね。」
圭さんがグラスを下げに来た。
「いえ……。」
「明日からやっと余裕が出るから…また連絡して。」
小さな声で圭さんが言った。
「はい…。」私は圭さんの顔も見れなくて
先に男性社員たちが帰って行った。
「松下さん タクシー来たよ 行こうか。」
圭さんがそう言うと 美しい微笑みで
「おじゃまいたしました。」と頭を下げた。
二人が去ってから 叔父と叔母は私にコーヒーを入れてくれるようにいった。
「どうぞ。」
「幸 今日はもういいわ。ありがとう。」
「はい。洗いものだけ片づけたらあがります。」
私はキッチンに戻って洗いものを食洗機にしまった。
「あなた 松下さんいいお嬢さんね。
圭のそばにいてくれたら理想的ね。」
「親御さんもしっかりした方だし 彼女も圭には好意を寄せているようだ。
何より似合いの二人だろう。
ああいう女性と一緒になれたら 圭はきっと幸せになるよ。」
「でも…あの子いつのまに恋人なんて……
大学だって地方だし…本当にそんな子いるのか……。
何を考えてるのかわからないわ。」
「どっちにしろ圭には松下さんと結婚させる。」
叔父はそう言い切った。
圭さんを物扱いしてる。
それもやっぱり恩という呪縛で圭さんをしばりつけている。
私と圭さんはもしかしたら 同じなのかもしれない。
「言う事聞くかしら。」
「聞くさ。あいつはきみを大切に思っている。
感謝の心を忘れていない。
彼女との結婚が 圭にとっても俺たちにとっても絶対に幸せなことなんだ。
悪い虫が動きださないうちに話を進めて行こう。」
悪い虫って私のこと・・・?
「幸。」いきなり名前を呼ばれて驚いた。
「進学しないのか?どうするんだ?
こっちにも用意というものがある突然いろんなこと言われても
対応できなくなるぞ。」
「就職します。」思わず声を大にした。
「就職?」叔父の声が驚いている。
「いつまでもお世話になるつもりはないので…
学業に関しては 充分感謝してます。
早く自分で生きていける力をつけたいので…就職希望を出しました。」
「そうか。」叔父は今度はそっけなく言った。
「おやすみなさい。」
私は頭を下げてリビングを出て とうとう
ここから出ることを言ってやったと 足元が震えていた。