裏切りの代賞~七十六話~
幸と舞が入れ替わったようだった。
初めて足を踏み入れるバーで裕也があんまりにも
お洒落に振る舞うから すっかり安心していた。
口から出まかせを 裕也に話す。
「最近の女子大生はすごいな~~」
裕也は大げさに驚いて見せた。
全部 雑誌で読んでる話………。
舞は両親と三人でとても大きな家に住んでいて
わがままし放題で育ってきた。
勉強は苦手
親が大学に行きなさいっていうから仕方なく行って
将来の夢もなんもまだ見つけられていない。
初めて口をつけたお酒は とても美味しかった。
板垣の家ではそんな変わった飲み物をのむことも 私にはなかったから
甘いジュースのようでとっても飲みやすかった。
「大丈夫か?もう三杯目だぞ。」
「うん大丈夫だよ。」調子にのって飲んでいたらとうとう
目が回りだした。
裕也の顔がぼんやりと見えて……
私はそのまま気を失ってしまった。
「ん・・・・・・」目が覚めたらベットに寝ていた。
「あれ……」いつ部屋に戻ったんだろ それとも夢だったんだろうか
次の瞬間 私は飛び起きた。
「あ・・・・・・。」
隣で寝息を立てているのは 圭さんじゃなくて裕也だった。
私は慌てて立ちあがって自分が裸なのを知った。
あ・・・・・
崩れ落ちそうになる体を必死にとどまらせて私は洋服を探して
慌てて着替えた。
裕也にばれないように息を殺して……
大丈夫・・・昨日までは舞だから………。
幸じゃない………。
幸じゃないもん……。
髪を整えながら部屋を飛び出して
裕也が追って来ないかドキドキしていた
私昨日のことなんにも覚えてないの・・・・。
何をしたんだろ……。
裸だった・・・・。
裕也も……。
まさか……まさかだよね……
でも…裸って………。
途中の窓にうつった自分を見て驚いた。
朝までスナックで唄い飲んできたそんな女に見えた。
こんな顔 圭さんには見せられない。
まだ・・・真暗な朝日の登らない街でタクシーを拾って
圭さんの部屋に逃げ込んだ。
タクシーのおじさんもチラチラと私を見ていた。
きっとはたから見たらこんなバカな女乗せたくなかったんだろうな。
圭さん・・・・・私はいったい。
部屋に飛び込んでシャワーに駆け込んだ
それから隅々まで石鹸できれいに洗う。
「頭…痛いよ……。」完璧な二日酔い
裕也しか知らない私と裕也に起きたこと
でも裕也は 私を舞だと思っている。
もう二度と会う事もないだろう。
いいよ 大丈夫わかんないって……
風呂の鏡にうつった体をジッと見ていた。
大丈夫 わかんないって……。
舞が心配症な 幸を嘲笑った。
バカだ・・・・・私・・・・。
その時傷がチクンと軽く痛んだ。
傷が私をバカにしているように感じて思いっきり太ももを真っ赤になるまで
叩いた。
「ふざけるな…バカにしやがって……」
情けない・・・・・
たいした知らない男に抱かれて……いや抱かれてなくても
何も覚えてないんだから……。
シャワーを出た私は 幸に戻っていた。
あの昨日の化粧で別人になった舞はもういない……。
「帰ろう……。」
私は荷物を片づけて圭さんの部屋を出た。
本当はもうすぐ会えたのに……バカなことした自分が情けなくて笑うしかなかった。
調子にのってたからだ……。
愛されることにあたりまえになって
自分を見失っていた。
あの女の人にやきもちをやいて
私は私なのに………どんなに背伸びして求めたって
圭さんは私を愛してくれてたのに……。
雪が深々と降りだしてきた。
私は朝 まだみんなが寝ている時間に板垣家に戻ってくるしかなかった。
悔しいけどここにしか居場所がない
それが自分が置かれている現状だった。
圭さんから 逃げるようにして私は板垣家に身を隠した。