裏切りの代賞~七十四話~
不安な気持ちで鏡をのぞく。
仕方ないそう思うのは あの人は私より 圭さんに年が近いから……。
私よりずっと一緒にいる時間が長いのは 一緒に仕事をしているから
そう自分を慰めるけれど でもすべてを受け入れられることもできなくて
ただ鏡にうつる幼稚な幼い顔をした自分に
なんの魅力があるのかと考えてしまう。
電話が鳴って ナンバーを確認すると圭さんからだった。
私は慌てて電話をとる。
「ごめん…今日はやっぱ帰れそうない……。
明日の始発をとるから一人で寝られるよね?」
私をまた地獄に落とした。
「え・・・・今日帰れないの?」
「ごめん……長引いちゃってさ……」そう言いかけたところに
後に女の声で
「日高さん 今夜はパッと飲みましょうよ。」と声がした。
「幸?聞いてる?」一瞬間をおいて圭さんが聞いた。
聞こえたよ…あの人も一緒なのね…
「幸?」優しい声 裏切っているなんて思ってないけど
「はい……。」
私はそう言うのがやっとだった。
「明日は幸が目が覚める頃に帰るから・・・ゆっくり寝てろ。」
涙が落ちた。
仕事なのはわかってるから・・・・
でも私がこんな気持ちなのに 圭さんは女の人と飲んでるんだって…
なんか悲しすぎる……。
私は答えずに電話をきってクッションに顔を埋めた。
初めてこんなに一緒にいられる時間をとったのに
温泉だって今頃きっと楽しんでたし
もうこんなことできない
そう考えるとこの時間が無意味に思えて仕方がなかった。
圭さんが揃えてくれた洋服に着替えて街に出た。
こんな時間に街をうろつくのは初めてだった。
雪が舞ってきて
今日の雪は嫌い
そう叫びたかった。
圭さんと一緒に見てるはずの雪……。
化粧品の店員に声をかけられた。
「学生さん?」
「大学生です。」
思わずそう答える。
「今 イベントしてるんだけど 時間ある?」
「あ…まぁ……。」
「じゃあ お願い~~試供品たくさんあげるから!!」
メークアーティストによるお化粧講座とかいう看板の隣にすわらされて
男性が私の前髪にピンをして 喋り出した。
私の顔を手本にして化粧を始めた。
「今日はどういう化粧してほしい?」
「思いっきり大人の女にしてください。」
私はそう答えていた。
「オッケ~やり甲斐のあるモデルさんだから 頑張っちゃいますか~」
ギャラリーに冗談を飛ばして笑わせたりしながら
アーティストさんは私にいろいろなものを塗ったくった。
大人の女は毎日こんな 面倒なことするんだ
なんて感心していたけど
あのプリクラにうつった女の人は 本当にキレイな人だった。
あんなキレイな人と一緒にいたら 圭さんはときめいたりしないの?
好きになったりしないの?
されるがままの時間で そんなことばっか考えていた。
もう一人男の人が現れて私の髪の毛を 華子がたまに使ってる
ヘアーアイロンで巻きだした。
「髪の毛 めっちゃ健康ですね。
この年頃の子ってほとんど痛んでるけど 普段こういうことしないんですか?」
「アイロンは初めてです。」
初めてだらけの感触が新鮮だった。
「さっきまでの幼い美しさもこうやって重ねて行くことによって」
私の前髪のピンを外した。
ギャラリーが拍手した。
「さ…どうぞ…」ギャラリーの視線が集まった。
鏡を手渡されて私はビックリした。
「これが…私ですか?」
そこにいるのは あの人にも負けてない私だった。