裏切りの代賞~七十三話~
楽しみにしていた温泉旅行を ブチ壊す出来事が起きた。
その日 いつも一緒に食事をする叔父が
めずらしく仕事優先で帰って来なかった。
「おとうさま めずらしいわね。」
華子が叔母に話しかけた。
「ほんとに それだけ大変なことになったのね。」叔母のためいき。
「どうしたの?」
「詳しくはわからないんだけど
なんだかとても大変なことになったらしいのよ。」
「圭くんも……かな…。」
「多分ね……圭も大変だと思うわよ。」
イヤな予感がした。
でも……大丈夫だよね……。
木曜日の朝 地下鉄の改札に圭さんが立っていた。
思いがけない登場にすごく嬉しくなった。
「おはようございます どうしたんですか?」
駆け寄って抱きつきたい気分
スーツ姿の圭さんは大人の男でめちゃめちゃカッコいい
圭さんの足元にスーツケースが見えた。
「あれ?」
「ごめん本当にごめん。これから東京に行くんだ。」
「え・・・・?」
「温泉はキャンセル……。」
「え・・・・・。」今一番私が マヌケな顔してるだろう。
「土曜日まで出張になっちゃって どうしても
抜けられないんだ。ほんとごめん……。」
天国から地獄ってこんな感じなのか
「俺の担当していた仕事で 大きなミスがあって……
会社にも大変な損害を与えそうなんだ
ごめん この埋め合わせは絶対にするから。」
圭さんがやつれているのは目の充血でわかったけど…
すごく悲しかった。
「わかった……仕事なら仕方ないから……。」
「ありがと…土曜は俺の部屋で待ってて
遅くなるかもしれないけど 必ず帰るし連絡もするからいい?」
「はい わかりました…。
部屋で夕飯作って待ってるから。」
泣きそうになっていた。
「夕飯食べる時間には帰れないから 先に食べて寝ていていいよ。
日曜日はなんとか時間つくれるように頑張ってくるからさ」
「いってらっしゃい……。」
スーツケースを引っ張って圭さんがエスカレーターに消えて行った。
そしてホームに放送がかかって
その地下鉄に飛び乗って私が下りた時は圭さんの姿はなかった
バカ・・・・バカ・・・・・
一気に地獄に落ちた気がしたけど
土曜は遅くでも帰ってくるって言ったから
なんとか一緒にいられる時間はできそうで安心した
仕事と私
仕事を選んだ圭さんにちょっとショックを受けた。
でも 男だもん
そう言い聞かせてテンション下がった私は土曜日 ボストンバックを持って
圭さんの部屋に行った。
めずらしく部屋が散らかっていてテーブルには置き手紙
『ごめんな幸 おまけに部屋も汚くてごめん
なるべく早く帰ってくるから待っててね。』
圭さんの手紙を握りしめてキスをした。
「大好き…圭さん…早く帰ってきてね。」
気を紛らすように 掃除を始めた。
散らかりようで圭さんの言ったように大変なことになったのが
わかった気がした。
散乱する書類を机の上にまとめておいて
投げっぱなしのスーツをハンガーにかけた。
洗濯をしたり洗いものをしたり午前中は忙しかった。
やっときれいになった部屋でココアをのんだ。
愛する人のために何かできるって幸せなことだね……。
圭さんの残り香に包まれたスーツに唇を寄せる。
その時
ポケットの膨らみに気がついて中を探ってみた。
中から出て来たのは 女性もののハンカチと一枚のプリクラだった。
「これって……。」
恐る恐るプリクラに目をやった。
幸いなことに数人写っていたからホッとしたけど
一番上にちょっとめんどくさそうに笑う圭さん
その横で圭さんの肩に頭を乗せるキレイな女の人が飛び込んだ。
営業二課 飲んだぞ~ とかかれたプリクラの文字
多分課の人たちとのプリクラ
だけどこの二人だけはなぜか異質に見えた。
美男美女 大人のカップル
何より隣の女の人は ものすごい美人だった。
もしかして・・・この人が・・・・
叔父が企んでいた人ではないんだろうか……。
そう考えると不安で一杯になった。
大人の女性は 私に向けて笑ってる気がした。
ハンカチとプリクラを、ポケットに戻して私は一気に暗くなった。