裏切りの代賞~七十二話~
「勉強するためにわざわざ泊まるなんて どんだけ勉強好きな学校なのかしら。
あんたなんてそんなに勉強して いったい何になるの?」
凛の意地悪な質問を背中でうけている。
「だいたいにして必要ないじゃん。
大学だって行くような身分じゃないし 図々しいってあんたのこと言うのね。」
言っとけ…
私はこれから愛する人と一緒に初の温泉旅行
こんなヤツにかまってなんかいられない。
「聞いてんの?」
凛が私の背中に雑誌を投げつけて まだたまに痛む傷にぶつかった。
「すげーご機嫌斜めだよな。
凛おじょうさまはさ…まるで鬼のような顔してる。」
睦月の声がした。
「何よ 虚弱ダメ男が……。んな口たたくなら重い荷物一つでも
持てるようになったら?あんたが頼りないから
叔父さまやうちのパパは苦労してんのよ。わかってんの?」
「俺の親父は社長だけど おまえのとうちゃんって
別になんか関係あんのか?おこぼれにありつこうと必死な
親戚風ふかしたバカヤローにしか見えないけど
その娘のおまえはなんでそんなにえらそうなんだ?」
睦月の口の悪さも最近は拍車がかかってる。
でも・・・・すごく面白い……。
「腹立つわ~~こいつ~~」
「圭くんに相手にされるかよ。おまえなんか。
まだ血が繋がってる姉ちゃんの方がまともだよな。」
凛の平手が睦月に飛んだけどそれを睦月がかわして
その手首をねじあげた。
「いつまでもバカにすんなよ。
おまえの一人や二人 どうにでもできるんだっておぼえとけや。」
「痛い~~ちょっと叔父さまに言いつけるから~~」
凛がヒステリックに叫んだ。
「その顔 鏡で見たら?メスに飢えてる豚だって相手にしねーや。」
「おぼえときなさいよ。」凛が退散した。
私は思わずおかしくて笑ってしまった。
「何?そんなにおかしいか?
俺はめっちゃマジに戦ってるけど?」
睦月が言った。
「だって…すごい言葉悪いんだもん。どこでそんな言葉覚えるの?
ひどすぎだからね~」
私はお腹を抱えて笑った。
「ずっとずっとたまってた言葉を最近やっと
吐けるようになったからさ~~
俺がここまですごいというなら おまえもすごいんだろうな~」
「え?何が?」
「おまえの武器は何?
口?それとも・・・・・・。」と言いかけて睦月は黙った。
「それともって何よ。」
「いや~なんか秘密兵器もってるのかなって思ってさ。」
「秘密兵器か・・・。何か用意しとくわ。」
「わかってないな すごい秘密兵器もってんのに……。」
「え?私が?教えて何?」
「気づいてないならまだ教えない。
教えてもっと力持ったらおっかねーし~~」
「失礼な。おっかない・・・・あ~おっかないかもね~~。」
睦月はどんどん逞しくなる。
「睦月 男らしくなったね。
ホント虚弱なマザコンだとばっか思ってたけど…眩しいくらいよ。
大人になった・・・。きっといい男になるよ。」
心の底からそう思っていた。
睦月の不思議な魅力は これもけっこうな武器になるんだろうなって。
「上から目線だな。気にいらいない。」
「だって年上じゃん私~上からでしょ?睦月くん~~。」
睦月がいきなり近づいてきて私の両頬をおさえた。
ドキドキ…・…
何する気?
私が動揺しているのを見透かして
いきなり額に 頭突きをくらわせた。
「キャ~~痛い~~~し~~」
私が悲鳴をあげると 睦月が子供のようにゲラゲラ笑った。
「男をからかうと痛い目にあうぜ。」
ものすごいふざけたポーズで睦月がこんな言葉を吐くから
私はお腹の皮がよじれるくらい大笑いした。
こんなに笑ったの・・・・初めてかもしれない・・・・。




