憎しみと愛~六十九話~
「その人とは仕事だけの関係なんでしょ?」
華子が不機嫌そうに言った。
「あたりまえだ。年上だしそれに彼女が相手にしてくれないって…」
圭さんは笑った。
「年上なの?それじゃあ大丈夫ね。」凛が言った。
「年上っていいんだよな~なんでも許してくれて
優しくて…頼れて…俺は好きだな~年上~」
睦月がそう言って笑った。
「そうなの?睦月?」叔母が目を白黒させた。
「いろんなこと教えてくれるよ。手取り足取り。」
「うわ~~キモいし・・・・睦月なんかそれって下ネタなの?」
華子と凛から大きなブーイング
「おまえらはさ…恋してないから不細工なんだって」
睦月の言葉は最近本当にキツイ
「睦月そんな言い方するなけんかになるぞ。」
叔父が見かねて声をかけた。
「松下女史は本当に美しい人だから…圭も惚れてしまうかもな。」
叔父が嬉しそうに言った。
「おとうさま!!」華子がヒステリックに叫んだ。
「そろそろ華子も卒業しなさい。圭だってあと二年三年中には
家族を持つんだぞ。」
華子は立ちあがって
「おとうさま今度そんなこと言ったら
二度と口きかないから……。」そう言ってフォークをハンバーグにぶッ刺した。
ハンバーグが私・・・・・
重なってぞっとした。
「華子・・・・この際だから・・・義兄さんやねえさんにも
話しておくけど…・・・俺 決めた人がいるからね。
その人と結婚するつもりでいるから・・・。」
私は心臓が高鳴って スポンジを持つ手が震えた。
「そんな話聞いてないぞ。いつからそんな人がいるんだ?
どんな女性なんだ?」
叔父もパニくってきた。
「もうずっと前から決めてるんだ。
まだ会わすことはできないけど・・・プロポーズもしたし・・・
きっと俺のところに来てくれるはずだよ。」
頬が赤くなっていないか心配だった。
それが私・・・そう知ったらこの家の人たちはどういう風になるんだろ。
華子や凛には殺されるかな・・・・・・。
「いい加減にして・・・!!
これ以上くだらないこと言わないでよ。」
華子が圭さんに抱きついた。
「絶対許さない・・・。
おとうさまもおかあさまも 許さないわよね。
そんな話。圭くんも・・・冗談やめてよ。」
華子の声は涙声だった。
「華子・・・俺はおまえを妹以外には思えない。
家族として愛してるけど・・・女としては愛せない。
それは・・・凛だって同じだよ。」
凛は唇をかみしている。
「大変なことに…なったわね・・・。」
シノがつぶやいた。
いつかは知らせなければいけない。
もしも許されないなら・・・二人でどこかに逃げればいい
圭さんはそう言っていた。
幸だけいればいい世界に・・・逃げようって・・・・・
私は圭さんの告白を そう簡単に聞いていたのかもしれない。
逃げれば・・・裏切っちゃえばいいって・・・
私にとって板垣家は敵だった。
長い年月 恩という呪縛で私を雁字搦めに縛りつけてきた。
だから知らせたいと思った。
その相手は私なのよ・・・・
そんなことを考えていたら 睦月と目が合った。
マズイ・・・
睦月は何を考えてるのかわからない・・・・。
平静を保とうとした時 睦月がニヤリと笑った。
その笑いはとてもひっかかるような・・・何か意味があるのかと
考えてしまうような・・・意味深な笑いだった。
私は平静を心がけてその視線から目をそらさずにはいられなかった。
「圭くん 大変だな~~。
ここはまともな考えなんて一つもない家だからな。
そうは簡単にはいかないんじゃね?」
睦月が視線を圭さんにうつした。
「だからさ…だから燃えるんだよ睦月。
命より大切な人を守りたいって・・・・・・
おまえもいつかわかるよ。
本気で女を愛したらさ。」
圭さんが私に言ってくれた気がして 幸せな気持ちになった。
太ももの傷がチクンとしたけど・・・
もうあんたに負けないもん
華子が手で顔を覆って 大きな声で
「絶対許さない。そんなことしたらその人殺すから。」
完全に目が座っていた。
怖い・・・・・。
華子の様子に 凍りついた・・・・・・・。