憎しみと愛~六十六話~
私と圭さん以外の時が止まってしまえばいい。
愛する人に愛されながら私はそう叫んでいた。
もっともっと一緒にいたい……
離れている時間が不安で…そして愛が圭さんを求めて
バランスが崩れてしまう。
「幸・・・・?」圭さんの甘い声
「愛してる…圭さん……。」
「俺もだよ……このまま二人で溶けてなくなってしまいたい…。」
めずらしく圭さんが苦しそうに囁いた。
「圭さん?なんだか辛そう……。」
「辛いよ…幸を愛しすぎて一緒にいられない時間が苦しすぎて……
俺がもっともっと頑張んなきゃ…頑張る……。」
「無理……しないで……
圭さんが辛いのは…幸はもっと辛いの……。」
圭さんが…私を愛してくれる気持ちを嬉しいと思った。
なぜ人間は 離れていると不安になってしまうんだろう。
信じていても…不安が覆うのはどうしてなの?
「幸の不安を取り除いてあげられなくて…ごめんな……。」
「そんな……。」
「姉さんや義兄さんには 本当に感謝してるんだ。
だから…少しでも…恩に報いたい。
幸とこんなことしてるのわかったら…それだけでも裏切りだと…わかってても…
俺 よくばりなのかな……。」
「幸は圭さんが愛してくれてるってわかるだけで安心するよ。
離れていると不安が大きくなってわがままになっちゃうね。
幸が…悪い……圭さんを追い詰めてるんなら…あやまるよ……。」
圭さんが優しく微笑んだ。
「幸を愛してる。
愛おしくて愛おしくて…俺の世界に幸だけが女だから……。」
圭さんの言葉は 魔法……
かくさず話してくれるその言葉は私を幸せにしてくれるの……。
「幸せだよ圭さん……。」
「卒業したら……結婚しよ……。」
信じられない言葉だった。
「え?卒業・・・・もうすぐだよ・・・・。」
圭さんの素敵な言葉にも
驚いてしまう私……。
「進路に困ってるんだろ?」
確かにそうだった。
これ以上板垣に恩という呪縛をかけられるのがイヤだった。
「就職したいって先生に言ったら本気で怒鳴られたの…。」
「そりゃ怒るだろ。
幸はH大も狙えるっていう成績なんだろ?
そういう生徒を国立に入れる学校の評判も上がるだろ?
就職って言ったら怒るだろ。」
「でも…もうあそこにいたくないの…。
恩という縛りはもうたくさん……だから…民間就職探すことにした。」
「かわいそうに……幸……。
あんな事故にならなきゃ……今頃いつも元気で笑顔で
普通の女子高生だったんだろうな…。」
「いつだって両親を恨んで生きてきたけど…
でもこうなったから圭さんと会えたんだと思うだから感謝してる。」
「あはは・・・・そうか・・・・。」
圭さんが私の背中の傷を丹念にキスをした。
「幸の体は……傷も美しくみえるよ。」
恥ずかしくて身をよじる。
その時だった。
「いたっ・・・」太ももの傷が激しく痛みだした。
「幸・・・?」
「圭さん・・・・お願い強く・・・強く抱きしめて・・・。」
圭さんは私をしっかり抱きしめてくれた。
「幸?どうした?やけどの傷が痛むのか?」
脂汗が私の額を覆った。
「足が・・・足の傷が・・・痛いの・・・・。
でも絶対に負けたくない。
この痛みだけにはもう絶対に泣かない……泣いたら…
全部夢になりそうで……。」
必死だった。
圭さんんが折れそうな力で私を抱きしめる。
「愛してるよ幸……。俺を信じろ……。」
圭さんが 太ももの傷に唇を這わす。
痛みでのけぞっていた私は・・・・圭さんの愛撫で
いつしか甘い感覚に変わって行く痛みを遠くで感じていた。
そして遠くなっていく呪いの傷に
勝った……
そう思った瞬間 私はまた愛される悦びに声をあげていた。