秘密~六十一話目~
結局三日間の入院で見舞にきたのは
圭さんとシノさんナオさん以外で 板垣家からは
睦月一人で
ケガをさせた当事者も親も顔を出さなかった。
ふざけんな・・・・
まだしばらく痕が残るから日に焼かないようにと言われたけど
海にいくわけでもないからそのうち治るだろう。
太ももの傷といい 背中のやけどといい
私の体には何か所そんないわくつきの傷跡が残るんだろう。
「まだ本調子じゃないから 今週一杯はやすんでいなさいって
旦那さまから言われてるから
食事は運んであげるから ゆっくり休みなさい。
ほんとにひどい目にあったわね。」シノさんがためいきをつく。
「華子さんはかなり異常だわよね。
圭さんと結ばれないという決定的なことを認めたくないから
凛さんにも異常にからんでるしね。」
退院の荷物をつめながらナオさんがあきれた様子で言った。
「圭さんがね ものすごく怒って出て行くことになったのよ。
その方がいいわ。
華子さんの気違いっぷりと 凛さんの毎日来るのは勘弁よ。」
私は思わず笑ってしまった。
「でも圭さんのおこり方はんぱじゃなかったから
華子さんや凛さんが不審がってる気がするから 幸ちゃんも
いい迷惑だと思うけど気をつけてね。」」
「え・・・そうなんですか・・・?」
不安でぞっとした。
私たちの秘密はぜったいにばれてはいけない・・・・・。
作戦決行日まで
慎重にしなくちゃ・・・・そう思った。
板垣家に戻ってから 少ししてノックが聞こえた。
「はい・・・・」シノさんはさっき ご飯持ってきてくれたし・・・
ドアが開いて入ってきたのは叔母だった。
「ごめんなさいね。お見舞いにも行かないで……。」
「いいえ…。」胸が緊張で震えている。
「痛みは?」
「ずいぶんよくなりました。」
「うちの子供たちの争いで 幸には迷惑かけてしまって……。」
叔母は必要以外は絶対声をかけてこないけど
やっぱりどことなく圭さんに似ている。
おだやかなキレイな人だと思う。
あの冷酷な叔父がこの人の前では別人に変わってしまうんだから嘘みたい……。
「幸はこれからどうするの?もう進路考えたの?」
「あ・・・まだどうしようか……。」
「大学行きたいなら遠慮はいらないわよ。
お嫁さんに出すまでここにいてもらって構わないから……。」
お嫁さん……
「ありがとうございます……。」
「幸には夫がいい旦那さまを見つけてくれるから……安心してなさいね。」
そんな・・・遠慮するわ
「いえ…それは自分の好きな人と一緒に生きて行きたいし
別に叔父さまのお世話になるつもりはないから……」
思わず拒否していた。
「好きな人はいるの?」
ドキン・・・・
「いえ…別にまだそんな人はいないですけど……
私は自分が早くに親と別れてしまったけど 父や母のように
いつも幸せに笑っているそんな人生を送りたいんです。
二人の変わりに…それを私が叶えてあげるつもりです。」
「ご両親は幸せそうだった?」
「はい…もう記憶は遠いけど でもいつもいつも笑顔でした。
父は母と私を包み込んでくれる逞しい人でしたし 母はそんな父を
信じて生きて行くみたいなおだやかな人だったと記憶しています。」
「そうなんだ……。」
一瞬 叔母の声が低くなった気がした。
「幸は そんな二人の子供なんだものね……。」
ゆっくりと言う言葉になぜか違和感を感じた。
「とにかくゆっくり休んで また忙しくなるからお願いね。
圭も出て行くって言うし……
華子には本当に困ったものだわ。」
「華子さんはよっぽど好きなんですね圭さんのこと・・・・・・。」
「報われない恋をするのは 華子の運命かしらね…。
圭には 一日も早く家庭を持たせて 華子を納得させなきゃ…。」
一人ごとを言うように 叔母が部屋を出て行った。