秘密~五十六話~
「幸は進路どうするんだ?」圭さんが私を抱きしめながら聞いた。
正直すごく悩んでいた。
「周りはあたりまえに大学に進むけど……私はまだ決まらない……。
板垣家から出たいけど…出るだけの準備はできてないし…高卒で就職は
専門の学校出てるわけじゃないから難しいって……。」
私が圭さんに愛されるようになって
二人の後で季節が流れて……私は高校三年になっていた。
周りは進路を決定して それにむけて準備を始めていて
そんな中でも決まらない私に 担任が気をもんでいた。
「角谷は国立目指せばいいんじゃないか?
叔父さんの世話になりたくないなら 奨学金とかいろんな手助けは
あるんだから心配しないで進学しろ。
言いづらかったら俺が叔父さんにお願いしてやるから。」
「いえ叔父は進みたいなら進みなさいって言ってくれてます。」
「それなら話は早いだろうが
何をそんなに悩んでるんだ?」
先生がそういうのも仕方がない。
好きなところに進学しなさい 大学までは責任持つから
そう言われてはいるけど その額はあまりに大きい。
これ以上板垣の庇護を受けたくない。
「俺にもっと力があれば・・・・・・。」
圭さんがつぶやいた。
「力?たくさんあるよ。
幸をこんなに幸せな気持ちにさせてくれるんだもん。
これ以上求めたら……」
次の言葉を言いかけて 口をとじた。
罰を受ける
傷の存在を思い出してドキッとした。
圭さんとこうなっても傷は痛まない。
そのうち傷を見ないと忘れてしまいそうになった。
もしかしてあの思い出も
ママ達が言ったように私の思い違いだったのかもしれないし……
「ん?」圭さんが覗き込んだ。
「幸せすぎて怖い……。」
私は圭さんに抱きついた。
この生活でもう 圭さんを失ったら生きていけない……。
「圭さんの体に入りこんで一生一緒にいられたら
どんなに幸せなんだろう。」
「俺も全てを捨てて…幸を奪って逃げれれば……って……。
だけど受けた恩があまりに大きすぎて……
俺ってさ…姉さんとは父親が違うんだけど……
かあさんが男好きだったみたいで だから俺と姉さんは年も離れているんだ。」
圭さんが語りだしたのは小さい頃の話だった。
圭さんの父親は誰かわからないらしい。
叔母がそのことを多くは語らずに そのうち体を壊した母親が死んで
叔母はまだ赤ちゃんだった圭と二人で生きてきたらしい。
「だから姉さんには頭あがんないんだ。
恩着せがましいことはないんだけどほんと……世話になった。
それから・・・・義兄さん……そして……。」
言いかけて圭さんは 話をやめた。
「や~~めた~~昔の話だ~~~。
とにかく仕事頑張って 義兄さんに恩返しして……
それから俺は自由になる。」
「自由?」
「そう~自分のしたいことやりたいこと
ほしいもの……それに囲まれて俺らしく生きて行きたい。
そんときは幸も一緒に来てくれるか?」
「もちろん。絶対に一緒にいる。」
「約束だぞ。」
「うん。」
幸せな約束だった。
「そういえば 睦月 またなんかやらかしたのか?
姉さん 泣いてたから。」
睦月は高校生になったけど勉強もせずに遊んでばかりいるようになった。
この間は 叔母にこづかいをくれとせまっていたのを
偶然見かけたけど 見ないふりをして立ち去った。
「最近 俺のことも避けるしな。
話もできないんだよね。どうしちゃったんだか……
そういう年頃でもあるからあんまり干渉するとなお 反抗するからさ、
男ってむずかしいんだぞ。」
「圭さんもあったの?」
「めちゃめちゃあったけど…世話になった人を悲しませられないから…
だから少し離れたところで勉強したんだよ。」
「そうなんだ。」
「幸……もう少し待っててね。
そしたら二人でどこかに逃げよう。」
そう言うと圭さんはまた私を愛し始める。
私の甘い吐息が城に充満して・・・・・二人は秘密を重ねて行く。