秘密~五十五話~
甘い秘密は私の体も心も溢れるくらい増えて行く。
どこにもいかなくても 二人で一緒にいたら楽しかった。
板垣の家で触れあえなくても愛してるの合図だけでも充分満足だったし
それ以上に今度二人っきりになれる時間を想えば穏やかに過ごせた。
「大介 すごい評判だぞ。圭がいい仕事をするって。」
凛の父親洋一が また親ばかに娘を迎えにきていた。
「そうらしいな。大口の仕事をとって来たとか。
何人もアタックしてたのになかなか動いてくれなかったから…
たいしたものだな。
アイツの知識がものを言ったらしい。」
叔父は嬉しそうにそう言った。
「考えておいてくれ。圭をうちの凛の婿に。
華子がどんなに好きでも 圭とは結婚できるわけじゃなし……
何なら華子を留学でもさせたらいいさ。
離れたらあきらめるかもしれないぞ。
一つ屋根の下に圭をおいておいたってかえって華子が可哀そうだ。」
「凛はまずいだろ。」
叔父が苦笑いをすると
「圭にここをまかせるつもりなんだし 親族と結婚させた方が
圭もやりやすいだろうさ。」
洋一は卑屈に笑った。
私は はらわたが煮えくりかえっていた。
圭さんは私のものだし!!
そう叫んでやれたらどんなにいいだろう。
「悪い虫がつくまえに 考えておいてくれ。
静さんだって安心だろ?」
「まだ圭は……働いたばかりだし…もう少したたないと
家族を養う力なんてないわ。
その時凛ちゃんがまだ圭を好きで
圭も凛ちゃんがいいって言ったら考えたらいいでしょう?
まだまだ 圭は子供だから。」
叔母は目を細めた。
「そんなにおちついてると悪い女に持って行かれるぞ。」
一瞬偶然に私と洋一の目が合った。
私は心臓が止まりそうになった。
「それに・・・幸だって大学に入れるのか?
幸だってとりあえずは板垣の親族になるんだから……
どこかの会社の御曹司と見合いでもさせたらいいさ。
器量はいいから誰でもすぐオッケーだろ。」
いやらしく私を見る視線に鳥肌が立った。
「幸はあれ・・・男いないのか?
なんか最近怪しい魅力が出てきてるぞ。」
コソコソと叔父に言ったけど 丸聞こえだ。
怒りで頭が爆発しそうになった。
そんな目で私を見るな けがらわしい・・・・。
それを言うならおまえが 凛の婿にと思ってる圭に私は愛されているんだ。
仕事を終わらせて
「おやすみなさい。」と叔父と叔母に頭をさげた。
「その目つきがそっくりだな父親に……。
雌豹みたいで…怖い怖い…。」
洋一が大げさにソファーに倒れ込んだ。
娘がバカなら父親もかい…
「おまえら双子だけど顔は似てたけど…ほんと全然違うタイプだったよな。
番犬と狼くらい違ったけど……
あいつはホント狼すぎて 叔父さんに嫌われたんだよな。」
「いい加減にしろ。」
叔父が洋一を遮った。
「おやすみなさい……。」叔母が優しく微笑んだ。
笑い顔が圭さんに似ていた。
その笑顔に少し癒された。
今度 圭さんに会った時 言いつけてやる。
あの親子の陰謀を……
いつかきっと復讐してやる……。
板垣家に……私の心に宿る黒い心がフツフツと芽生え始めている。