動き出す運命~四十三話~
バタバタとシノさんがあがってきた。
「あ…圭さん起きたの?」
「ごめん…今やっと起き上がったよ。」
圭さんがすかさずそう言った。
私はさっきまで抱きあげられていた幸せに頬がまだ熱かった。
圭さんは
「先に降りて行って。」
そう言うと部屋のドアを閉めた。
「ごめんね幸ちゃん…今日はとんかつあげられないわ。
凛ちゃんが来ちゃったのよ。
華子さんに雑誌を返してもらいにきたみたい。」
「あ・・・いいです。
また昨日の肉じゃがでも食べるから……」
「圭さんが来るの凛さんにはわかるのね。
感心するわ……。」
シノさんはやれやれといいたげだった。
私も やれやれ って言いたくなった。
とんかつ……食べたかった。
私はため息をついた。
「また 騒がしくなるわよ。覚悟しておいて。」
ほんと…凛が来るとろくなことがない
私が下りて行くと 凛と目が合った
すかさず凛は華子の耳元で何かを囁いた。
まただ……。
凛という人間は本当にイヤな女だ……。
「幸ちゃん 食事運んでちょうだいね。」
シノさんの声に私は慌ててダイニングテーブルに料理を運んだ。
「うわ~~とんかつだ~~
圭くん 食べたがるね~~シノさんのとんかつ美味しいから~」
睦月が言うと
「ほんと~どうしてるのかな~」華子が遠い目をしていった。
私はさっきあなたたちの圭くんに
抱きあげられてたの
そうは言ってやれないから 心の中で大声で叫んでいた。
「とんかつ~~」凛も小躍りした。
あんたのおかげで食べ損ねたし……
ほんとに凛は大嫌い……。
「ね…幸 髪型どうしたの?」凛が口火を切った。
「え…あ…別に たまにはこうやってみようかなって……」
私はしどろもどろになって答えた。
「その髪型って何で見たの?」
凛が意地悪な顔をして言うと
「シノさん この間ここに入っていた雑誌知らない?」華子が指をさした。
「この間って…いつですか?
先週のならいつものように分別してもう回収に出しましたよ。」
「先週じゃなくて今週入ってからの雑誌。
ここに入れておいたの 凛の雑誌。」
「ここに入れたっていうことは捨てていいんですよね?」
シノが困ったように言った。
私には身に覚えがあった。
月曜日 いつものように華子が新聞入れに無造作に入れた雑誌を
私は部屋に持ち込んでいた。
「そうとは限らないから。
確認してもらわないと。」
「でも以前 華子さんは捨てていいって言いましたけど?」
シノさんも黙ってはいない。
「ま…いいわ…
ってことは月曜日にここに入れたはずの雑誌はシノさんは知らないと。
ナオさんは今週は風邪で休みだし……
幸は知ってる?」 凛は待ってましたと私の顔を睨みつけた。
ドアから叔父と叔母も入ってきて
怪訝な顔をして私を見た。
「あ…いや…しらない……。」私は咄嗟に嘘をついた。
「幸って嘘つきよね。その髪型ってあの雑誌の特集に載ってたわ。
じゃないとそんな突然髪型かえるわけがないもの。
いっつも イモ縛りだったんだから!!」凛の攻撃は更に強くなってきた。
「見て来よう。」華子が立ち上がってその後を凛が追い掛けて行った。
うわ…やばい…どうしよう…
部屋には二人が捨ててあったはずの雑誌が
きれいに並べてある。
だって・・・今まで何にも言わなかった……し
私が万事休すで立ちつくしていると
階段を大声出して二人が下りてきた。
「おとうさま!!幸って泥棒なのよ!!」
華子もめずらしく興奮している。
二人で部屋にあった雑誌を抱えて私の足元に落とした。
「それから これ どうしてあんたが持ってるの?」
華子が捨てた乳液の瓶を私につきつけた。
その背後に 圭さんが立っているのを華子越しに見ていた。
穴があったら 入りたい……
圭さんの前で辱められるのが辛くて仕方がない。
「幸 どういうことなんだ。」叔父の冷たい声
私が答えを探していると
「幸!!!」厳しい声で私を叱責した。
「雑誌は……古新聞のところに捨ててあったから……
もういらないんだって思って…
それから…乳液も洗面室のゴミ箱に捨ててあって…
その乳液を使ってみたいなっておもったら少し残ってて…
捨てたものだと思ったから……。」
私は顔をあげれずにそう言った。
「捨てたものなんじゃないのか?」
叔父が凛と華子に言った。
「いや~だからって人が買ったものを勝手にもっていくって
どういうことなの?捨てたものを使うなんて考えらんない。
じゃあ安心して捨てられないじゃない
幸はゴミ箱からなんでも拾うんだよ。気持ち悪いよ。」
華子がさけんで ゴミ箱に乳液の瓶を 叩きつけた。
「勉強できたって 人としての常識がないんだから
最悪でしょう?」華子の鼻の穴が広がってるのをぼっとして見てた。
「幸・・・・もうそういうことするのはやめなさい。
欲しいものは シノさんに言いなさい。
必要ならば 買い与えるから。」叔父の言葉は私をバカにしてるような気がした。
買い与える……
プライドがまた崩れる・・・・・。
圭さんにいいとこ見せたくて こんな髪の毛にした自分が
情けなくて仕方なかった。
そして一番見られたくない姿を 圭さんに見せている。
悔しくて肩が震えた。
その時だった。
「あら?圭!!!」叔母が叫んだ。
みんなが一斉に圭さんを振り返る。
「キャ~~~!!!」突然の出現に家族はパニックになって
今まで散々私を攻撃していたことが嘘のように笑顔に変わった。
「どうしたの?」
「うん ちょっと時間できたから~」
「今日は圭くんの好きな とんかつだよ~」睦月がからまった。
「お~睦月 またでかくなったな~~」
私はすっかり蚊帳の外
華子と凛も圭さんの周りをピョンピョン飛びまわっている。
嗚咽を殺してる私を見かねてシノさんが
「部屋に戻っていなさい。」と言ってくれたから
私は みんなが圭さんを見ている隙に階段を駆け上がった。
楽しそうな笑い声
「悔しい・・・・・悔しい・・・・・」私はベットに顔を押しつけて
声を殺して泣き叫んでいた。