動き出す運命~四十二話~
「おかえりなさい~~」
叔父は夕飯だけは家族ととる人だった。
よっぽどのことがない限り 夕飯を食べて そしてまた仕事に戻った。
叔父は必ず一番最初に 叔母を軽く抱きしめて
それから華子と睦月の頭を優しく撫ぜる。
私には冷たい叔父だけど家族に見せる顔は 優しくて
なぜそんなに区別されるのかが悲しかった。
話しかけてくれなくても
少しでも微笑んでくれたら……父に似た叔父は微笑みすらくれない。
「幸ちゃん…圭さん起こしてきて。」
小さい声でシノさんがささやいた。
「わかりました。」
その言いつけがとってもうれしくて私は天にも
登りそうな気持ちになった。
階段を駆け上がって圭さんの部屋の前に立った時
チクン
小さく傷が痛んだ。
不安が私の中を覆って行った。
大丈夫だよ…うん…うん……
気持ちを切り替えて 私は大きく深呼吸をして
トントン とドアをノックして
静かに部屋に入った。
スースー・・・・
静かな寝息が聞こえる。
ベットに近づくと圭さんが眠っていた。
白雪姫や眠れる森の美女のベットに近づいてキスをした王子さまは
こんな気持ちだったのかな
私の胸が高鳴った。
私にはあの日 またいつか会おうと約束していた王子さまがいたけど
浮気者なのか……
今はあの約束がおとぎ話のように感じて
今 現実にここにいる圭さんに心を奪われている。
ごめんなさい…王子さま……
もっともっと寝顔を見ていたかったけど
「圭さん…圭さん……」
圭さんの体を揺すぶった。
「ん………」圭さんは体をよじる。
「食事です。みなさん集まったから……
今日は圭さんの好物のとんかつですよ。」
「とんかつ!?」圭さんが ガバッと起き上がったから
私はバランスを崩して尻もちをついた。
「あ~~ごめんごめん~~」圭さんがベットから飛び降りた。
「あ…いえ…って…いたた…」
かっこわるいけど 本当にお尻が痛かった。
その時圭さんが私を抱き上げた。
「きゃ……」
「軽いな~~ちゃんと食ってるのか?
今日はとんかつ食べられるのか?」
「う~~ん…多分大丈夫です。
あと一枚残ってたから シノさんが私に食べなさいって言ってくれたから。」
「そっか~よかった。
ちゃんと…ここで食べれてないのか心配になる軽さだな。」
「お腹一杯とか おやつとかジュースとか
そこらへんはあんまり…でも…余った野菜を炒めたりして
キッチンを使わせてもらえるから……。」
「華子や凛がニキビで苦労してるけど
幸ちゃんの肌がきれいなのは…肉食じゃないからだなきっと…」
肌がきれい・・・?
あの乳液のおかげかな…私は恥ずかしくて圭さんの胸に顔を隠した。
「なんだ?」圭さんが顔を隠した私を笑った。
「あ…恥ずかしいから……」私はそう答えるのが精一杯だった。
時間よ止まれ
恋しい男性とのわずかな共有できる時間
もっともっと…恋しい人を近くで感じたい……
圭さんが静かに私をおいた。
「大丈夫か?」
「はい…ちょっとだけ痛いけど…」
圭さんの大きな手が私の頭をくしゃっとしてくれた。
華子や凛がよくしてもらう仕草だった。
うれしい……
心臓が早く打って息苦しさを覚える。
私……圭さんが……好きなんだ……
心の中が全部 圭さんで潤って行った。