動き出す運命~三十八話~
圭さんがつくってくれた秘密の夜
久々に傷が疼いた。だけど幸いなことに記憶が飛んだりすることもなく
ある意味 警告 を感じた。
でもこんな生活に少しでも 楽しみを持たせるなら
またここに帰ってくるはずの圭さんとの再会を
楽しみにしているそれだけで 違う気がした。
時は流れて 私は高校生になった。
就職ということも考えたけど 将来を考えて
絶対に高校だけは行きなさいと担任が親身になって相談にのってくれて
進学校へと志望校をしぼって 難関を突破した。
叔父が冬休みには手伝いをいっさいせずに
勉強にだけ力を入れるようにと言われた。
少しだけ感謝した。
凛や華子には呼びつけられてはいたけど
「叔父さんにしなくていいって言われてる」
堂々と言いのけてやった。
二人はエスカレーター式の高校へ決まっているから
ダラダラ過ごしているのがうらやましかったけど
それを横目に私は意地でも学校に受かってやると必死だった。
圭さんがしている勉強と私の受験勉強はどこか同じなような気がして
勉強すればするほど圭さんとの距離が縮まって行くような……
それがうれしかった。
自分の勝手な思い込みだけど……
合格発表は一人で見て 一人で喜びに興じた。
叔父が帰ってきて
「合格しましたので また三年間よろしくおねがいします」
叔父の前で堂々と頭をさげて
「そうか、わかった。」言葉すくなげに叔父はそう言った。
これが両親だったら たくさんほめてくれたんだろうなと思った。
「幸 頑張ったね。」
その分自分をたくさんほめてやった。
シノさんが制服を買うのをつきあってくれた。
セーラーに袖を通す。
鏡の中にいる私は輝いている。
きっと圭さんが ほめてくれるそう想像してうれしくなった。
そんな中で睦月も中学生になった。
叔母は睦月の制服姿に目を細める。
病気がちの睦月も少しづつ男らしくなっていた。
「睦月もなんか男なんだって思うと不思議だよね。」
華子が言った。
「ほんと…素敵よ睦月。」
叔母の笑顔は美しい……優しくて暖かい……。
私にはその微笑みは封印されているけど……
叔父を見てパパを想像して
叔母を見てママを想像した。
新しい世界に踏み出そうとしている。
私だって
背は相変わらず小さいけど
それなりに大人っぽくなった。
これから・・・・何かが動き出す……そんな期待感で満ち溢れている。