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プライド~三十七話~

休憩室で帰り支度を始めたシノさんとナオさんも

今日のことでは凛に憤慨していた。



「まったくあのガキは何さまだと思ってんだか。

あんなんだからみんなあそこやめるのよね。」



「今日はいい気味だったわね。

幸ちゃんが気の毒だったけど。大丈夫?」




「はい・・・。」


私は正直また傷が残らないか心配だった。




「顔だからね。でも大丈夫よ。

そんなに深くないからよかったわね。」





「それにしても凛さんも華子さんもちょっとね。

あれなら圭さんも帰りたくなるわよね。

圭さんが結婚するなんて言ったら…相手の人殺されるかもよ。

なんだかほんと奥さまじゃないけど

ひどくなる一方だもんね。」




「じゃあ後はよろしくね。

明日は 私たちも休みいただいたし

幸ちゃん大変だろうけど頼むわね。」



二人ともとても嬉しそうだった。



いいよね・・・

ここから一歩出たらお手伝いなんてしなくていいんだから

私はここに住んでいる限り

やっぱり……そうはいかないから……。



お風呂掃除を終わらせて 部屋に戻ってきたのは

いつもより少し遅い時間になった。

圭さんが睦月と一緒にお風呂に入るとか言って

けっこう長い時間かかったから……。



部屋のドアを開けるまえに

屋上に出てみた。



「う~~寒い~~~」

今年は冬が早く終わった気がするけど 刺すような

冷たさはまだまだ春には遠い。



ベンチに腰かけていつものようにあおむけに

寝転んだ。




星が降ってくるようで……

この時期まだ虫がいないからオススメなんだよね。




「今日もめっちゃムカついた……。

バカにして…どうして私だって同じ中学生なのに…どうして

蔑まれて生きていかなくちゃダメなの。

みんな…あの呪いのせいだ……。」




太ももの傷をジーンズのうえからなぞった。




「早くここから出て行きたい。

そしてこんな生活もう…絶対にイヤ……。

凛だって華子だって対等に生きてやりたい……。」



情けなくて涙が出てきた。




物音が聞こえて

「今日はごめんね。」圭が現れて私は驚いて

ベンチから飛び起きた。



「いいよいいよ…星見てたんだろ?

俺も向こう側で見てたけど寒くてえそうだったら

幸ちゃんの声が聞こえた。」



心の中を見られたようで慌ててる私。




「傷痛むかい?」


圭さんが近づいてきて 傷の絆創膏に顔を近づけた。



  ドキドキドキ………



心臓が口から飛び出てしまいそうで私は息を殺した。



圭さんの指が 絆創膏に触れた時思わず体がまっすぐになった。



「ごめんな……」




「は…はい……。」




「今日君のこと見てたけど 働くね。

感心したよ。華子や凛とは大違いで…そして何より

丁寧な仕事をするから…幸ちゃんは賢い子だね。

それに自分っていうプライドを大切にしている…それが伝わってくるよ。」




「そ…そんなことないです。」声が震えた。

ここで人と話すことはほとんどないから……

それもこんな素敵な人と話しをしている。



澄んだ夜空が輝いて見える。




「辛いけど…自分の人生は恨まない。無駄なことなんか一つもないから……

だってさ幸ちゃんは 包丁をうまく使って人参を花の形にしたり お風呂を

ピカピカに磨いてくれたり…そして傷ついても立ち直って

また強く慣なって前を向く……悲しくて泣いても…そのプライドが

幸ちゃんっていう子を輝かせてくれるはずだよ。」



「そうでしょうか……。ここにいると嫌いな自分にも会います。

嫉妬したり憎んだり そして自分がどうしてこんな毎日を送っているのか

そうしたら過去に戻って一人私を置いて言った両親や……あ…そう

いろんなことが憎くて仕方なくなります……。」


さすがに呪いの事は言えなかった。



「幸せになるようにって…きっとさ

ご両親はそう願って名前をつけたんだよね。」



目がねをかけてない圭はまた 別人に見えた。



「名前まけです……。」


  どんなに頑張ったって幸せにはなれないって呪われたから……



「きっと幸せになるよ。

今 そのためにちょっと人より苦労してるけど……

幸ちゃんはきっと 誰より輝くから…今度会う時が楽しみだな。」



恥ずかしくて私は下を向いた。



「今度はいつ…会えますか?」思わず大胆な事を言ってしまった。



「うん…四年後…いやもしかしたらまたこうやって

戻ってくるかもしれないし…わかんないな……。」



凛や華子が悲しむのもわかる気がする。



「そうですか……。」



「幸ちゃんに会う楽しみも増えたよ。

どれだけ輝いているんだろう…って。

俺はさ…両親に捨てられて姉貴に育てられてきたんだ……。

愛された記憶一つもない……。

年の離れた姉貴の困惑した顔が忘れられない……。

それでも自分の青春をなげうって俺を育ててくれた。

だから俺は 姉貴のために勉強してきた必死でね。

姉貴が喜んでくれるのを確認するのは 勉強だったり運動だったり…

その時は自分はどうしてこんなにムリして生きて行くんだろって

恨んだ時もあったけど いまこうしていると

全部俺にとっての栄養になってたんだって……

感謝してるんだよ。」




圭さんにそんな過去があるなんて正直驚いた。



「俺と幸ちゃんは…同じだよ。

お互い頑張ろう。これからは俺は幸ちゃんに頑張ってもらうためにも

勉強してくるよ。あはは…もう勉強もしたくないんだけどね。」


そう言うと圭さんは笑った。



「これからはいままで努力してきたことを実らせるために

頑張って生きていく第二段階っていうとこかな。」




  クシュン…


思わずくしゃみ



「お~まだ髪の毛ちゃんと乾かしてないだろ?

凍ってるよ。」



圭さんが頭を撫ぜてくれた。

夢を見ているようで 人生で一番の幸せを感じた。



「俺とこうやって話たことは誰にも言っちゃダメだよ。」



「はい…」声が震えた。



圭さんはそう言うと家に戻っていった。


まだ夢の中にいるようだった。

私の心の中に……輝くためのプライドと…王子さまとの約束に…

圭さんとの秘密が加わって……


王子さまと圭さんに会う日のために頑張ろうと力が湧いてきた。

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