プライド~三十五話~
インターフォンが乱暴になって私は慌てて
モニターに近づいた。
そこにはイライラした様子の凛がいて
「早く開けてよ!!」と言った。
私はシノさんに凛が来たことを言うと
シノさんが
「これは大変な騒ぎになるわね。」とつぶやいた。
「凛おじょうさまがお見えですけど……。」
シノさんがそう言うと
みんなの顔が止まった。
その間もインターフォンは鳴り続けてる。
「開けなさい。」叔父が言ったので
私は慌てて玄関に向かった。
「遅いじゃないの。」
そう言うと私をバックで殴って
ずかずかと入っていった。
「痛……」飾りの金具がひっかかって
自分の頬から血が出たのがわかった。
「ちょ…ちょっと待ってよ!!!」
手のひらについた血に私は頭に血がのぼった。
凛がリビングに入ろうとした瞬間
凛の肩を捕まえた。
「何よ!!」
振り返った凛がギョッとした顔をした。
「あら!!幸ちゃん!?」ナオさんが私の様子に気づいて声をあげた。
「謝ってよ!」
「何がよ!!」凛が怒りをぶつけたいところへ行けずにいて
いらついている。
でも私だっていきなりこんなことされて
たまったもんじゃない。
「あんたにこんな暴力される筋合いないから!!」
「あんたが早く開けないからでしょ。
お手伝いのくせにとろくさいのよ。」
「くせに…って……。
どんだけ自分がエライと思ってんの?
たまたま親が金持ちだからってあんたまで調子こかないでよ。」
普段から凛にやられてきた
不条理さが私を爆発させた。
「凛 幸に何をしたんだ?」叔父が冷たい声で言った。
凛がふてくされて違う方を向いたから
「開けるのが遅いってバックで顔を殴られました。」
私はそう言った。
「え~~信じらんない
凛ってすぐそういうことするから…ね?圭くん~」
華子が圭の肩に頭を乗せた瞬間
凛は私のところから 華子に向かって走り出した。
「始まった・・・・」ナオさんがつぶやいた瞬間だった。
圭さんが立ち上がって凛の前に立ちはだかった。
「圭・・・・」凛の声は少し穏やかになった。
「明日朝一で顔を出して 驚かせるつもりだった。」と言った。
「嘘……今日だって前田さんが…駅で圭くんを見たって
教えてくれなかったら……私は何にも知らなかったもん……。
私に内緒でここの家の人は…圭くんを隠してしまうから……
ずっとずっと…会いたくて…
華子だけじゃないよ……圭くんが向こうに行っちゃうの
ショックなの……。だから…だから会いたかったの……。」
凛はまるで違う生き物のように
圭さんの胸の中にいた。
ナオさんがタオルで私の血を拭いてくれて
消毒してくれた。
「…まったく気違いなんだから…」耳元でそう言った。
「幸ちゃん…ごめんな。
よく言って聞かせて 謝らせるから。」圭が言った。
甘やかせるな!!
私はそんな気持ちと半分嫉妬の目で圭さんを睨みつけた。
「もう いいでしょ!!」いつまでも離れない凛を華子が押しのけた。
「痛~~い!!」凛がひっくり返った。
華子はそのすきに圭の胸に飛び込んだ。
「圭くんについた乱暴な女の消毒するから。」
「何……この~~~!!」
凛が飛びかかってきて 圭さんの前は大騒ぎになった。
すごい・・・・
いつも冷静でクールな華子の豹変はある意味
凛より怖いものがあった。
「いい加減にしろ!!!喧嘩ばっかりするなら
帰るからな!!!」
圭さんのドスの利いた声にも驚いた。
二人は喧嘩をぱたっとやめて離れた。
「まったく・・・いっつもいっつも……だから帰ってくんのイヤになるんだ。
一人一人会ってるといい子たちなのに
顔を突き合わせるとホントにおまえたちはダメだ。
それ以上やるなら 俺は帰るぞいいのか?」
「ダメ…ダメ……帰っちゃやだ……」
二人は一斉に圭さんにしがみつく。
「凛 明日の朝十時までにはそっちに行くから
今日は帰れ いいな?」ピシッとした声に凛の背中が伸びた。
「はい…。」
「シノさん タクシー呼んで。」
シノさんは 電話をかけた。
「それから いい迷惑を受けた幸ちゃんに謝りなさい。
それからさっき言ったお手伝いのくせにという 感謝しないと
いけない人たちをバカにしたような言葉を謝りなさい。」
「やだ…謝んない。」凛は私を睨みつけた。
「幸ちゃんが言った通りだろ?
たまたま親がそういう力もをってるだけで 普通の子はこんな生活
送っちゃいない。同じ人間だ。
身の回りのことをしてくれるって感謝を持って接するって
おじさんに教わってないのか?」
「シノさんとナオさんには謝る。ごめんなさい。」
「凛は幸にケガをさせたんだよ。謝りなさい。
この傷が一生残ったらおまえ 刑務所だぞ。」
すごくドスの利いた声だった。
圭さんは優しい時と怖い時の ギャップが激しい……。
「ごめん…幸……」すごく悔しげに私に頭をさげた。
うれしかった。
凛が一番頭を下げたくない私に頭を下げたから……
私は思いっきりバカにした顔で
「うん。」とうなづいた。
凛の悔しそうな顔が めっちゃ快感だった。
「タクシーきました~」
窓を見ていたナオさんが叫んだ。
「じゃあ 行こうか~
タクシーに乗せてきます。」
叔父を振り返ってそう言った。
慌てて華子が走り寄ってきたけど 圭が
「待ってろ。」と言ったからあきらめて二人の背中を見送った。
凛がふり向いて私なのか華子なのか
あかんべーをして圭さんの腕にしがみついた。
閉まるドアに 華子が
新聞を投げつけて
「死ね!!凛!!」と声を荒げた。