プライド~三十二話~
その日は
叔父と叔母は睦月を連れて病院に出かけていた。
睦月はよくわからないけど
病気がちでいつも熱を出していた。
華子たちと同じ小学校には通ってはいるけど 休みがちでその代わり
家庭教師が毎日来ていた。
人づきあいは全くできないみたいで
表情のない顔は 少しづつ大人っぽく変わってきたけど
冷たい顔は叔父に似てきた。
華子は映画を見に行くと出かけて行った。
シノさんとナオさんは家族が出かけて
大急ぎで片づけを始めた。
「よかったわね。みんな出かけて
やりやすいわ。
圭さんは何時頃帰ってくるのかしら。」
「夕方になるって言ってたけど。
ここが片付いたら 先に買いものに行きましょうよ。
圭さんの好きなご馳走を作らないと。」
私は二人から仕事を言いつけられて
手伝いをしていた。
「幸ちゃん これ圭さんのお部屋に置いてきて。」
ナオさんに大きなフカフカの枕を
圭の部屋に持っていくように言われて
私は初めて隣の部屋に足を踏み入れた。
「うわ……すごい……。」
広い部屋には大きな机とパソコン
クローゼット
それから天窓の下にベットがおかれていた。
「私の部屋と全然違うわ。」
多分私の部屋は物置というかそんな感じの
部屋だったんだろう。
大きなベットに枕を置いて天窓を見上げた。
きっときれいな星が広がるんだろう、
圭と言う人が
ここの家族にとって大切な存在なのがわかる。
シノさんとナオさんが出かけて行って
家の中はシーンとしていた。
私は言われたとおりに
キッチンでレタスを洗っていると物音がして
顔を向けた。
「あれ?君は?幸ちゃんかな。」
そこに立っている人は
黒ぶちの眼鏡をかけて髪の毛をツンツンと立てて
そして背のとても高い男の人だった。
「あ・・・はい・・・」
もしかしてこの人が圭さん……
「はじめまして 日高 圭 です。
よろしく。」
優しい笑顔だった。
私はドキドキして
「か…かど…角谷 幸です……。
よろしくお願いします……。」
ドキドキした。
この家に来て誰かに笑顔で話されたのは
始めてのことだった。
「華子と同じ年なんだよね?」
「はい…中学二年に…なります。」
「ご飯 食べてる?
小さいね。」と笑う。
余りものだから……
「はい……。」
「俺も中学校くらいまでは前から二番目くらい
高校に行ってから大きくなったよ。
小さくて心配してたけど……
好き嫌いしないで食べてればそのうち大きくなるよ。」
優しい声だった。
この人が……
華子や凛が騒ぐのもわかる気がする。
「みんなは?」
「今出かけてます。」
「俺の部屋ってどこ?
ここに来るのは初めてなんだよね。」
「案内します。」
エレベーターの中では近くてドキドキして
音が聞こえるんじゃないかって恥ずかしくなった。
こら…心臓落ち着いて……
「すごい家だな…さすが義兄さんだ……。」
圭さんは歓声を上げた。
たいした男じゃないわ
冷酷で弟の娘を働かせてんだから
そう言ってやりたい気持ちをおさえていた。
「うわ・・・なんだこの贅沢な部屋は……。」
部屋に入って圭さんはそういうとウロウロしている。
「天窓か~~俺ね
星見るの好きなんだよね。」
ベットに大きな体で転がった。
「うわ…めっちゃ贅沢だな。」
「あ…私は下に行ってますので……。」
思わず見とれていた自分を修正してそう言った。
「ありがとね。」
圭さんはそう言うと手を振ってくれた。
素敵な人だ……
胸がときめいてしまった。
いけない!!浮気者!!
「幸にはいるでしょう。
きっと迎えにきてくれるって王子さまと約束したのに…」
浮気心にカツを入れた。
でもひさしぶりだったあんなに優しい顔の人と
話をしたのは……
ここで笑顔をくれる人なんていなかったから……。
圭さんか
華子と凛のバトルがすごいのが納得できた。
私と圭さんの出会い………。
浮気心が育ち始めたのを私は必死におさえた。
孤独な心に圭さんの笑顔が
スーッと入りこんで……
胸がときめいたのを強烈に感じていた。