プライド~二十九話~
この家で暮らすのに何度も心が折れた。
自分の置かれたこの存在を 何度も恨み涙を流して
そしてそんな夜を何度も何度もやりすごし朝がきて
そのうち私は少しづつ変わって行った。
あきらめ
孤独と絶望感と恨み
板垣家に対しての複雑な思いはやがて心を支配した。
いつか……いつか
必ず……復讐してやると……
幸いなことに小学校は 二人とは違った。
凛と華子は車で私立の小学校へ通い
私は歩いて近所の小学校に通った。
学校は天国だった。
私が唯一プライドを持てる場所だった。
勉強は嫌いじゃないし 家でもやることといえば
手伝い以外は 読書か勉強しかなかったから
華子と凛の成績がパッとしないのを尻目に
私は常に学年トップ成績だった。
だけどどんなに頑張っても
誰もほめてはくれなかった。
少し成績のあがった華子が
叔父と叔母に褒められている姿を見て悲しかった。
私の通信簿はさっと目を通して
叔父は何も言わずにシャチハタを簡単に押した。
家庭からの通信欄にはいつも白紙
どんなに成績がよくても褒めてくれる人は
一人もいないけど
私の成績が華子よりいいということは
板垣家にとっての復讐に組み入れられている。
それが私の生きる糧になった。
お菓子やジュースをのべつなく食べて過ごす
凛と華子にニキビが出初めた中学生の頃
私の肌には一つもニキビはなかった。
石鹸でしかあらわない私の顔は
石鹸のように白くて澄んでいる。
二人がニキビで悩んでいる姿を見ながら優越感に浸る。
それも復讐
二人に勝っているところを探しては
自己満足に浸った。
相変わらず二人は圭くんのことで言い争っている。
意中の圭くんは一度も帰って来ない
おまけに高校を卒業したら本州の大学に進んでしまって
知らされていなかった華子は
しばらくご飯も食べられないほど憔悴しきっていた。
「おとうさまもおかあさまも大嫌い!!」
華子の悲鳴と泣き声が家中に響き渡る。
華子の扱いに悩む二人を見ながらこう言った。
「ざまみろ」
愉快だった。
板垣家に対しての恨みで一杯の私は 叔父が悩む姿は
どんなお笑い番組より楽しくてたまらない。
そんなある日 電話が鳴った。
「板垣でございます。」いつものように電話に出る。
「あ…シノさん……じゃないよね……?」
優しい男の人の声
「シノさんは今 買いものです。」
「そっか……。ナオさんはいる?」
屋上に洗濯物を干しに行ったナオさんが
ちょうど戻ってきたから
「電話です。」と差し出した。
「はい…お電話かわりました。
………あら…圭さん!?おひさしぶりです~。
……そうなんです。幸ちゃんです…………はい…はい…
そうなんですか?……華子さん喜びますよ………
ええ……明日ですね。わかりました……
それにしても何年ぶりですか?……また素敵になられたんでしょう?
楽しみにしています。」
そう言うと電話をきった。
「大変大変」
ナオさんはそう言うとバタバタと動き始めた。
「明日 おじょうさまのお誕生日だったわ。
すっかり忘れるとこだった。」
誕生日……
早生まれの華子は三月生まれで
すっかり忘れ去られている私の誕生日は四月だった。
誕生日は命日……
私の……喜ぶことのできない日になっている。