プライド~二十八話~
下に降りて行くと華子と凛がテレビの前で爆笑していて
もう一人男の人が座っていた。
「私のいとこで 板垣 洋一
凛の父親だ。
壮介の娘の 幸だ。
挨拶しなさい。」
叔父が私を指差して言った。
「角谷 幸 です。
よろしくお願いします。」
凛の父親 洋一が立ち上がった。
「壮介の……。」じろじろと見る目が凛に似ていて不快だった。
「壮介に…っていい方もおかしいが
って言えば大介にも……よく似てるな。」
ニヤニヤして叔父と私を見比べた。
「ね?静さん。似てるよな?」
今度は叔母を振り返った。
「おかあさまも幸のおとうさんを知ってるの?
同じ顔してるんでしょ?
華子はおかあさま似だけど…幸はおとうさまに
似てるってこと……?」
華子は叔母に抱きついた。
叔母は優しい笑顔で華子の頭を撫ぜていた。
うらやましかった。
強烈に母親が恋しくなった。
「静さんだって 壮介知ってるだろ?
どうさ?」
聞き直す顔がとても下品に見えた。
「そうかしら……。私にはよくわからないけど……
それは親なんだし面影はあるでしょうよ。」
洋一がその言葉にやらしく笑っている気がした。
「おお…その強い目力は…壮介にそっくりだな。
なんだかアイツに睨まれてる気がするよ。あはは・・・」
その言葉に思わず反応した。
「おとうさんは優しい目をしていました。
いつも笑っていてここにたくさんしわがあって……
だから今の私には全然似ていません。」
思わずそうきっぱりと言った。
洋一は目を丸くして私を見ていたが
まだ爆笑しだした。
「家庭を持って優しくなったのか?
俺の知ってる壮介は 狼みたいなやつだったからな。」
凛が
「狼?どういう意味?」と口を出した。
「一匹狼で周りとは一切協調性がなくて
大介が明るい太陽だとしたら 壮介は稲光を発してる雷みたいなものか?」
「よくわかんないけど
同じ双子でも叔父さまはいい子で 幸のおとうさんは悪い子だった
そういうことなんでしょ?」
「ま そんなとこかな。
アイツがそんなに笑ってる生活送っていたんだから
めちゃめちゃ幸せだったってことか・・・?静さんそう言う事か?」
いちいち叔母にいやらしく質問を返す
洋一はやっぱり凛の遺伝だと思った。
なんで叔母さんにいちいち聞くのかな
「お幸せで何よりだわ。」叔母は動じず笑顔で対応している。
「いいよ 幸
お風呂まで自由にしてなさい。
華子 凛 風呂に入ってしまいなさい。」
叔父が言ったので
私は頭を下げて 背中に感じるたくさんの視線から
逃げるように階段を登った。
「やな感じ……。パパを悪って言ったし
悪な感じなら叔父さんの方が 絶対悪でしょ?
パパはいつも優しくて ママとラブラブしてて……
うちはいっつもみんな笑ってたもん!!」
悔しくて部屋に入るとそう叫んだ。
「どうして死んじゃったの?
幸だけおいて……
これから幸はどうなるの?」
不安で胸が押しつぶされそうになる。
「王子さま……早く幸を見つけてね。
そしてこんなところから早く連れ出して……。
ああ…早く大きくなりたい。
中学校出たら 学校行かなくていいから仕事しよう。
そしてここから出て自由になる。
恩返しなんてひとつもない自由なところ……。」
休憩室に戻って テレビをつけたけど
おもしろそうなのはもう終わっていた。
インターフォンが鳴って風呂に呼ばれたのは十時を過ぎていて
私はウトウトとうたた寝をしてしまっていた。
大きな浴室だった。
一番最後の風呂には長い髪の毛が何本も浮いていて
湯船に入る気にはならなかった。
シノに言われたように浴室の掃除を終えて リビングに出ると
叔母がワインをのんでいた。
「おやすみなさい。」私が言うと
叔母はふり向いて
「疲れたでしょ?悪く思わないでね。
ここで辛い思いすることが多いかもしれないけれど
我慢して将来何になりたいか考えて
準備しなさい。学業に関してはしっかりあなたを支えていくつもりらしいから。
ここでつけられる区別に負けないでね。
あなたには関係ないことなんだけど……いろいろあってね…
夫が冷たいことは……先に謝っておくね。」
叔母の優しい言葉に救われた気がした。
「はい……。」私はそう言って頭を下げてリビングを出た時
「壮介……」叔母がそう言った気がした。




