折れる心~二十四話~
食事の手伝いをしている私の向こう側で
同じ年の 華子や凛が
楽しそうに遊んでいる。
私は慣れない台所仕事で シノに注意されっぱなしだった。
その様子を楽しそうに見ている凛
「じゃあ…幸はここのお手伝いってことなんだ。」
「そうみたいね。」
関心なさそうな華子に比べて
嬉しそうな凛にイヤな予感がした。
「ちょっと幸 ジュース持ってきてよ。」
早速 言いだした。
自分で……
言いかけたけどシノが 持って行けと合図したから
私は仕方なくシノが教えてくれたグレープジュースを持って行った。
「今日は オレンジがいいの。
最初に聞いてくれる?どっちがいいのか。」
ムカつく……
シノは知らない顔して違う仕事をしていた。
私はしかたがないからオレンジジュースをまた持って行って
代わりに持ってきたグレープジュースを台所で
飲もうとしたら
「ここで飲んではダメ!!」とシノの声に驚いた。
私が茫然としてるとシノが
「ここは職場だから 幸ちゃんもここでつまみ食いをしたりしちゃダメよ。」
と叱られた。
何で……?ジュースくらい……
凛がケラケラ笑った。
「貧乏人だから人が余したものとか平気で食べるんだよね。
もったいないとか~きっと落ちてるものまで
食べちゃうんだ~~あははは~~」
華子もつられて笑いだした。
泣きそうになったけど必死にこらえる。
拳を握りしめた。
「そんなに飲みたいならほら こっちも飲む?」
わざとにお菓子のクズを入れた
オレンジジュースを私の目の前につきつけた。
「ほら 飲みたいんでしょ?」
私は怒りが頂点に達した。
今まで散々標的にされてきたけど 絶対に負けなかった。
私は凛と同じ位置にいるお互い同じ人間だ。
そのオレンジジュースを払いのけて
凛の顔めがけてぶっかけた。
「キャ~~~!!」
凛の真っ白なワンピースがオレンジ色に染まった。
「何すんのよ!!」
「あんたが悪いんでしょ!?」
凛の手が私の頬を打ったから
私はその数倍で凛の頬を殴った。
「うわ~~~~~ん!!」
凛がその場に倒れて大声で泣き出して
私は慌てて飛んできたシノに手を掴まれた。
「幸ちゃん!!」シノは私を叱りつけた。
「私 悪いことしてないから!!
凛が先に嫌がらせしたのシノさん見てたでしょ?
どうして私が凛の言う事聞かないといけないの?」
私だって声が震える。
その時だった。
「おまえは自分の立場がわかっているのか?」
後から地を這うような低い声がして
私は後を振り向いた。
「うちでおまえを預かり住むところ寝るところ
食べること全てをやってやるんだ。
ならおまえは その恩をどうやってうちに返す?」
父にソックリな顔なのに……
その顔から出る冷たい言葉に傷ついた。
「働くんだろう?みんなそうしてるだろう?
ここで働いて おまえはこれから生きていく場を提供してもらうんだ。
華子や凛は同じ年であっても
ここではおまえは二人と同等であってはいけない。
ここで生きていくのならばおまえはここで
私たちのために働いて恩を返すそうやって
一人立ちするまで生きていくんだ。
おまえが生きるためにする学業に関してはどんなことも
してやろう
そのお返しがおまえがここで
私たちのために働くということだ。
わかるか?」
お返し?
「今後一切 わがままに振る舞うな。
凛 おまえも幸に必要以上にかまうなら もうここには来るな。」
「え~~だって~~幸が先に暴力したんだもん~~」
凛が叫んだ。
叔父はそのまま部屋を出て行った。
華子が濡れた凛を見て 爆笑してる。
「何よ!?」
「それ…圭くんが選んでくれたワンピースだよね~~」
「あ~~~!!うわ~~~ん!!
シノさ~~ん~~なんとかしてよ~~~!!」
凛の白々しい泣き声よりも
私は叔父に言われた 冷たい声がこだましている。
お返し……
なんで?どうして私が自分を我慢してまで
お返ししなきゃいけないの?
心が折れそうになっていた。