折れる心~二十一話~
シノに起こされたのは七時半のことだった。
眠い目をこすって私が起きると
「今日から一日の流れを覚えますよ。
春休みだから休日からね。」
朝からテンション高い
私はあなたの高イビキで大変だったのに……
「私たちは交代で平日は 朝は六時から来て七時には朝食
休日は八時に来て 八時半から九時の間から朝食になるの。
幸ちゃんの仕事は 朝の時点で前の晩といでおいた
炊飯器にスイッチを入れておいてちょうだいね。
それから下に行く時は パジャマとかでうろつかないこと
朝起きたら休憩室の 洗面所でちゃんと顔や歯をみがいて
それから着替えて下に行くのよ。」
「はい………。」
さすがに私も話しが見えてきた。
「食事の支度は私たちがするから その間幸ちゃんは
自分の部屋を片付けたりしていて。
インターフォンで呼ばれるまで自分のことしていていいから
それから用意が整ったら 食事を運んだり・・・・・」
シノは私の部屋に大きな紙をはった。
私の一日の流れが書いてあった。
私は完全にここで仕事をするために来ていることを理解した。
「まだ幸ちゃんは小さいけど
今からしっかりやっていればいいお嫁さんになれるわよ。」
シノはそう言って笑った。
何かが…違う
想像していた新しい生活とは全く違う現実がここにはあった。
「今日はお休みだけど 明日は直塚さんという人が
出番で私は休み ナオさんでいいわ。」
シノさんナオさん……私はつぶやいた。
何が何だかわからないままにシノさんに言われるままに
過ごしていた時だった。
白いピカピカなワンボックスが停まった。
「おかえりだわ。
幸ちゃんしっかり挨拶するのよ。
旦那様はそういうところとても厳しい方だから……。」
心臓がドキドキしてきた。
シノと一緒に玄関に向かった。
「おかえりなさいませ~」さっきまでとは違うシノの声
「ただいま。」
私はその声に反応した。
パパ・・・・・
たくさんの袋をかかえて その人が荷物をホールに置いた時だった
「パパ!!!」思わず私は叫んでいた。
そしてその人の胸に飛び込んだ。
「パパ!!パパ!!」涙が出てきた。
そこにいるのは 四歳の時突然別れた父と同じ顔をした人だった。
「幸ちゃん!!」シノが慌てて私をその人から離した。
「ちゃんとごあいさつしなさい。」ピシャリと言われて空気を読んだ。
「か…角谷…幸です…。」泣き声で名前を言った。
「そうか。ここでの自分の立場を早く理解して
しっかりやってくれ。おまえが成長するために必要な最低限のことは
私が手を貸すから おまえは勉学と日々の生活を真面目にやるように。
あとはシノさんとナオさんに任せてあるから
困ったことがあったら二人に言いなさい。」
つめたい顔をしている。
父とこんなによく似てるのに
幼い記憶の父は 笑うと目の横にたくさんのしわがあった。
私がそのしわを撫ぜると母が
「パパはいつも笑ってるから~これは笑いじわだよ。」
そう言って一緒に撫ぜた。
涙が乾いてしまった時 私は驚くべき人と再会した。
「おとうさま~~」そう言って玄関からはいってきたのは 華子だった。
「あ・・・・・」
私が驚いて声をあげると
その声に気づいた華子が
「あ・・・来たのね。
おとうさまから聞いていたわ。いとこなのね私たち よろしくね。」
それだけいうと 「おとうさま~~聞いてよ~~~」そう言って
玄関の外に出ていった 叔父の後を追い掛けていった。
「あ・・・・どうして・・・・・」
私を引き取ったのは 華子の父親で……
華子は私のいとこなんだと知った。
とんでもないところへきてしまった気がした。
華子のところに来てしまったということは………
外が騒がしくなった。
シノが
「来た 来た……台風が……」
そう言うと顔をしかめた。
台風・・・・・
「ずるい!!私だってつれていってくれればいいじゃない!!」
そう叫んだ甲高い声
「圭くんは 凛には会いたくないって~」
「うそつき!!!」
甲高い声は泣き声になって外は大騒ぎになった。
「家の中に台風が来るわよ。覚悟しておいて。」シノが荷物を
持ち上げた瞬間
華子の頭を叩きながら 凛が入ってきた。
やっぱり……
私 凛 華子
再会の日………私はこの先が真っ暗なような気がした。