呪い~ニ話
私の名前は さち
角谷 幸
両親が「幸にたくさんの幸せが舞い降りるように」
そう祈りを込めてつけてくれた名前
それを知ったのは…もう少し後のことだけど……
昔ラグビーをしていた父を
ずっと片想いしていた母
実は二人は両思いだったのに お互い素直になれなくて
地方の大学に進んで就職した父と
地元の大学に進んだ母は お互いの想いを伝えることもできずに
別れてしまったんだって……。
時が過ぎて 運命はまた二人を再会させると
一気に愛の炎が燃え上がり いろんな障害を乗り越えて
二人は一緒になったから お互いの両親にも一切歓迎されずに
縁を切られたようになって
二人だけでここで生きていくことを決意したとか……。
私はまだ幼くてあたり前のように仲のいい両親を見て
育ってきたから何も知らなかったけど……
いろんな状況を二人で乗り切ってきて私が生まれたらしい……。
記憶が定かなのは
あの日の呪いの記憶とただただ今思い出せば
両親の愛情を一身に受けて育ってきた私が どんなに幸せだったのか・・・
今……わかるんだ。
あたりまえに愛されて過ごした記憶は私の中に少ししかないけど……
それでも全くないよりはマシ……。
自分が望まれて生れてきた子だって…前を向けるから。
呪いの傷が 4歳の誕生日の朝 めちゃくちゃに痛んだ。
痛い痛いと泣く私に 母が困った顔をしながら薬を塗って
呪文をかけた「痛いの 痛いの 飛んで行け~~」と柔らかい手のひらで
すりこんでくれた。
それだけでも不思議に傷の痛みは少しだけ引いた。
「ママ…あのおばちゃん…怖かったよ……」
両親は私が話せるようになって呪いの話を
聞いた時 青ざめた。
「どうしてそんなこと知ってるんだ?」父の顔が険しくなった。
「あのね…おばちゃん真っ赤な爪でね…
幸のここギューーーってしたんだよ……。
してね幸なんて幸せになれないって言ったんだ。」
「…だってまだあの時…幸は6カ月くらいだったわ。
きっと何かとごっちゃになってるのよ。
赤ちゃんの時の記憶があるなんて聞いたことないわ。」
母がそう言って笑った。
「この傷はね…庭のバラのとげにひっかけたのよ。」
と嘘をついた。
母は知ってるはずなのに……
どうして嘘をついたんんだろう。
私にはよくわからなかった。
だからそれ以上は言わなかった。
思い出すと怖かったし
傷が痛むのはもっと怖かったし……。
幼稚園に行く時間にはよくなった。
私は幼稚園が大好きだったからその日は誕生日だったけど
母に大好物の料理を頼んで 幼稚園バスが迎えに来るバス停へ歩いた。
「今年はどんなケーキかな。」
ゲンちゃんのケーキは 父の大学時代の友達がやっているお店で
郊外にあるお店だったけど毎年誕生日とクリスマスは
ゲンちゃんのお店にお願いしてあった。
写真に残るケーキの写真はいつも私のために作ってくれる
オリジナルのデコレーションケーキ
一緒にうつってる私はめっちゃうれしそうだった。
「今日はパパが休みだから 起きたら一緒に買いに行ってくるね。
それから幸の好きな鳥の足とウインナーとオレンジジュース……
忙しいわ~~。」
母は大きなつばの帽子をあの日みたいに かぶっていた。
さっちゃんのママ キレイね
友達に言われるとうれしかった。
四歳の誕生日もその後の五歳の誕生日もずっとずっと
幸せな誕生日が続くと思っていたのに……
その日 幼稚園バスに乗ろうとした時
園長先生がやってきて
「幸ちゃんは…バスに今日は乗れないから……。」と暗い表情で呼びに来た。
その代わりに迎えに来た父親の仕事先の人と病院に行った。
そこにいたのは…白い布をかけられて横たわる両親の姿だった。
「パパ?ママ?」
両親は私のケーキーを取りに行った帰り道…大型車と正面衝突して即死した。
呪い決行日は私の四歳の誕生日だった。
幸せだった毎日が いきなり絶望の日々と変わってしまった。