幸せのティアラ~187話~
おばはものすごく穏やかな顔をして 毎日を過ごしている。
おじは少しでも一緒にいる時間を作ろうと 早く帰ってきたり
休日には おばをつれて キレイな風景を見せに出かけていた。
私はおばに 睦月をお願い と言われた言葉をずっと考えていた。
弟としてずっと見てきた睦月
やんちゃで卑屈で…だけど恥ずかしそうに私に話かけてくれた。
そんな睦月がずっと昔から私を想ってくれていたことには
気がつきもしなかった。
睦月の出発をあさってに控えて 家族が集まって出発のお祝いをすることになった。
おじや芹沢さんと仕事の話に熱中する睦月は
逞しく見えた。
おばがそんな睦月を見て にこやかに微笑む。
母の顔・・・・・
なんておだやかな温かい表情なんだろう・・・・。
私は父も母も知らないけど
もし生きていたらこんな顔をして私を見てくれただろうか。
「幸 睦月少し大人になったわね。」おばに話しかけられた。
「少しじゃないですよ。すごく大人になりました。」
「あの子も圭が死んだ時 これから俺が圭くんの変わりになるって言ったの。
睦月は睦月でいいのよって言ったんだけどね。
それだけが少し心配……。疲れなければいいけど……。」
睦月は小さい頃からずっと 圭にあこがれていたって言ってた……。
「睦月は睦月ですよね。」
「うん。睦月でいいのよ。」おばはニッコリ微笑む。
子供たちのにぎやかな様子が心を癒してくれた。
夢ちゃんが私に
「夢 幸ちゃんみたいになりたいの。」と言って驚かせた。
「え?幸みたく?ダメだよ幸は全然だめよ。」慌てる。
「幸 夢の憧れの人なんだからね 幸せになってもらわないと困るわ。」
華子が笑った。
「大好き 幸ちゃん。」
私は夢ちゃんを抱きしめて
「ありがとう。」って言った。
睦月が優しい顔で笑ってる。
「幸 幸せにならないとダメね。」
こんな私を大好きだっていってくれる純真無垢な笑顔。
「そうよ 幸の名前は幸せになるようにって…幸なんでしょ?」
そうだった
幸せにって願いを込めて つけられた名前だった。
おばが幸せそうに微笑んでいる。
そんなおばにおじがストールをかけてあげている。
愛に満ち溢れたおじの表情・・・・・
おばはその手に頬ずりした。
「私も幸せだったわ。」おばが話だした。
「生まれたことを呪って生きてきて…孤独の中 同じ境遇の圭が生まれて・・・
私には味方ができたようで嬉しかった。圭を守るためにならどんなこともできるって…。
それから女として壮介に愛されて・・・愛して・・・・
そしていつしか壮介と同じ顔をした少し暗い顔をした大介のことが気になって…
壮介と別れて恨んで悔しくて・・・幸にひどいことをしてきて・・・・
ずっとずっとそれからそんな私を神様が許して下さらなくなって…いろんなことがあったわ。
だけどそんな中で変わらないものが一つあった。
大介の愛・・・・・どんな私も大介は受け入れて愛してくれようと努力してくれた。
幸せだったわ。私は大介に何か残してあげられた?」
「たくさんあるよ。宝物をくれた。笑顔をくれた。
人を一生愛することなんかできないと思っていた俺に 愛をくれた・・・・。
静がいたから生きてこられた。
俺も幸せだったよ・・・・・。」
「そう よかった・・・・・。
また生まれ変わっても私を奥さんにしてくれる?」
「もちろんだよ。君以外は考えられない・・・・。」
おばは静かに目を閉じて涙を流した。
「圭に報告しなくちゃ・・・・。
最期まで私は幸せだったって・・・・・。」
「頼むぞ。心配してるだろうからさ・・・・。」
「華子も芹沢さんという素晴らしい伴侶と家族を作った
睦月もここに戻ってきて あなたの肩腕になることを選んでくれて・・・・
それからとても成長してくれている。
後は・・・睦月の長い片想いが叶う日が来るのを待っていたいけど
そんな時間はもうないみたいだから…あとは睦月の頑張りに期待して・・・
それから圭が一番心残している 幸が幸せになってほしい……
みんな家族だから 幸をこれからも支えてあげてね。」
おばはそう言うとおじの体に コトンと体を預けた。
みんな泣いている・・・・・。
ここに来た時 板垣家はどこか冷たい家だと思った。
一人一人が・・・・家族になりきっていない 暗い家族だと感じていた。
でも今は…温かい・・・・春の陽気のように
ポカポカと心が穏やかになる。
もうすぐ おばの命は散ってしまうけれど・・・・・
あの時と同じ
圭と同じ穏やかで優しい表情をしていた。
睦月が私の横に進んできた。
「俺と・・・結婚してください。」睦月がそう言った。
突然のことに 言葉を失っていると
「俺が幸を幸せにしたい・・・・。」私の手を握った。