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幸せのティアラ~186話~

「転勤・・・・・。」


「武者修行ってやつ・・・。」


「どこ?」


「福岡・・・・・。」


「遠いね……。」


「幸も店 出すんだろ?」


「うん・・・・・。」


「そっか。」 なんだかぎこちない会話。


「結局俺 何もしてあげられないな。」


「え?」


「ただ見守ってるだけで…話もろくにできなくてさ・・・・。」


「わかってるよ。睦月がいつも見守ってくれてるの

ちゃんと感じてるよ。」


そう わかってる。

睦月が心配してくれてるの。

本当はとっても嬉しいんだよ。


「おばさま 転勤のこと知ってんの?」


「うん。この間話したら 親父と芹沢さんの肩腕になれるように

一生懸命頑張ってきて 成長してきなさいってさ。

俺は中途半端だったから……結構今は努力してんだけどね。」


「おじさま 睦月は変わったって言ってたわよ。

嬉しそうに話してた。だから頑張って ちゃんと評価してくれてるわ。」


睦月も嬉しそうに笑った。


「早く一人前になりたい。かあさんがよろこんでくれるうちにさ。」


「そうね。だけど心配だね。

おばさま 病気だから…睦月 なかなか会えなくなるから。」


「それも心配事になった。」


「それも?」


睦月の目が私をジッと見つめて 私はドキドキした。


「幸を見守れなくなる…。圭くんに頼まれてるのに……。」


「もう大丈夫だよ。私なら…もうバカなことしないから。」



「俺が・・・・耐えられない・・・・。」


「バカね。もうちゃんとした可愛い人見つけなさい。

私みたいな年上のおばちゃんなんかより もっと可愛い子 睦月なら

いっぱいできるでしょ?」


「幸よりいい女はいないから。」


「福岡行ったらそっちの方の修行もしなさい。」


睦月は切なげに笑う。

私は残酷だと思った。


睦月の想いをこんなに感じてるのに……


それからお互い無口になった。

一緒にいる時間は 私にとってはなぜか心地よかった。


「睦月 男らしくなってきたね。」


「だろ?俺だっていつまでも弟扱いされちゃ困るんだぞ。」


睦月の笑顔


ひさしぶりに笑った睦月・・・・・・。




おばの容態が急変した。

入院するまでは 元気だったのに

入院してからは おばはすっかり元気をなくしてしまった。


病気のことはおばには言わなかった。

それは おじが望んだことだった。


ある日のこと


「いつまで入院するの?早く帰りたいんだけど。

睦月の出発は?」おばは 見舞に来た私と華子にそう言った。


「来週だって。部屋見つかったみたいよ。

おかあさま退院したら 睦月のとこ行ってみましょうよ。」


華子が明るく振る舞う。


「幸も行きましょうよ。」おばが言った。今日のおばは元気そうだった。


「え?私もですか?」


「幸と一緒に行ったら 睦月が喜ぶから。」



私は驚いた。


「え?どうして・・・・・。」


「睦月はずっと前から好きなのよ幸のこと。」


「え?おかあさま どうして知ってるの?」

華子もすごく驚いた声を出した。


「そんなのわかるわよ。睦月は私の息子だもの。

何を考えてるのかくらいわかるわよ。」


「あいつわかりやすいからね~~。わからないのは幸くらいじゃない?

おかあさまそれにしても よく黙ってたわね。

阻止しなかったの?」


私はその質問にドキンとした。


「睦月は言わないって知ってたもの。」美しい微笑みだった。


「あいついくじなしだからね。」


「幸・・・・・。」


「はい。」


おばの白い手が私の手をとった。


「睦月のこと お願いね。」


「え?何を・・・・・おばさま・・・・。」


「幸が睦月と一緒にいてくれたら 安心だから。」


「私がですか?おばさま 嫌じゃないんですか?」


「もう間違いは犯したくないの。圭の時は 死ぬほど後悔したから・・・・

私は愛する人の運命をもう 奪いたくない・・・・。

また過ちを犯したら 天国行ったら 地獄におとされて

圭に会えないじゃない。圭が迎にきてくれてるはずだから……。」


おばは大きく息を吐いた。


華子と私は顔を見合わせた。


「おかあさま・・・・何言ってるの?」


「時間がないんだもの……。圭に会ったらちゃんと報告しないと……。

華子も幸せになった 睦月にも幸にも 幸せになってほしいのよ。

おとうさまには少し寂しい思いさせてしまうけど その穴はきっと

華子や睦月の家族が埋めてくれるわ。」


おばは病気のことを知っている

私と華子は緊張した。


「幸は 睦月のこと嫌い?」


「いいえ・・・・。睦月にはいろいろ助けられました。

今 こうして生きているのも睦月の支えがあったからです。」


「よかった。睦月 喜ぶわね。」


「おばさま だけど一緒になるかどうかは・・・・。

私はまだ圭のこと・・・・・。」


「そうね それは急がしてはいけないわね。

だけど…幸…圭もそれを望んでいたわ。

もし 睦月が幸に気持ちを伝えたら 応援してやってくれって。

睦月の長い片想いを祝福してやってほしいって。

あの子は…圭は私の誇りだわ。

死の直前まで愛する人たちのことを考えていた。

特に幸の幸せを……望んでその道を開いて行った。

私もあの子の姉として 恥ずかしくない最期を迎えたい。

愛する人たちにできることを ちゃんと残していくの……。

だから退院させてほしい。

おとうさまのそばで…最期の時まで……。」


おばはそう言って 涙を流した。


「これが全て今まで犯してきた私への罰・・・・。

罰はちゃんと受け止める・・・・。だけど最期の時思い残すことがないように

それだけは…神様に許してもらいたい……。」


私はおばを抱きしめた。


「もう昔のことは言わないでください。

おばさまをのろったりしてません……。圭がいなくなって孤独になった私を

大切に扱ってくださいました。娘のように接していただいて 

私はそれだけで幸せです…。だからもう そんな風に責めないでください…。」


「ごめんなさい幸…。愚かだった私を許してくれて

ありがとう…ありがとう幸……。」


やせ細った体は圭を抱きしめてるような錯覚を覚えさせる。



  圭……おばさまを迎えに来てあげてね

  ちゃんと天国に行けるように……。


おばは退院した。

そして残りわずかな時間を 家族とともに過ごすことになった。

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