幸せのティアラ~185話~
夏の終わりくらいから おばが体調を崩しだした。
「病院行こうよ おかあさま。」華子が何度か言ったけど
「大丈夫よ。」とおばは微笑むだけ。
しびれを切らした 睦月と華子が 無理やりおばを病院に連れて行くと
診断結果は 癌だった。
それも末期・・・・。
おじと一緒に受けていた人間ドッグも
おばの隠れた癌を早期発見することはできなかった。
おばがそのまま入院した夜 おじが出張から戻ってくるのを待って
重苦しい中で家族会議が行われた。
私は華子の子供たちを連れて
部屋で遊んでいた。
遊び疲れて 二人とも私のベットで眠ってしまった。
「幸 ありがとね。いい?」華子が呼びに来て 私はリビングに行った。
おじは頭を抱えて 肩を震わせていた。
「圭だけじゃ……足りないのか……なんで…静まで俺から……奪うんだ…。」
「おとうさま…しっかりしてよ。
これからおかあさま 支えていくのよ。」
「今日だけ…今日だけは悪いけど……。」
おじは部屋に戻って行った。
そうだろう。
愛する人を失うという辛さは……全ての光を遮断されると同じことだから…。
「睦月 おとうさま頼むわね。
私たち 帰るから・・・・・。」
「え・・・・俺も・・・・・。」
「いいから ね。睦月。」華子は睦月に目くばせをして
「パパ 子供たち寝てるから・・・・。」
華子一家は帰って行った。
「自分勝手だよな アイツ。言いたいこと言って楽して帰ってくし…
幸も子供の面倒なんて見てやるなよ。」
睦月が ソファーに腰かけた。
二人っきりで話すの すごくひさしぶりな気がする。
「私けっこう子供好きなのよ。癒されて楽しいわ。」
「そっか。ならいいけどさ。」
静かな時間。
「おじさま 大丈夫かしらね。」
「ショックだったんだろ。顔色めっちゃ悪くなったから。
親父はかあさんのことよっぽど愛してんだな。」
「うらやましいわね。」
父とおじ 同じ人を愛してしまった・・・・。
そして父が母に心うつりしてから おじはずっと心に闇を持った
おばを支え続けていた。
「一人の人を愛し続けるって…すごいことだって最近
親父を見てそう思うよ。結局 かあさんは 全部親父のものになったのかな。
幸の父さんをまだ愛したままなのかな……。」
どうなんだろう・・・・・。
おばは 父を忘れられたんだろうか……。
「幸は・・・・。」言いかけて睦月が言葉を止めた。
「何?」わざとにとぼける。
睦月の腕の中に 飛び込んでしまいそうになる自分がいる。
誰かに頼りたいって思いは少なからずある。
だけど そんな安易な気持ちは 睦月を傷つけるだけだから・・・・・
睦月とおじ・・・・・二人はおかれた境遇が少し似ているのかもしれない。
「いや・・・・なんでもない・・・・。」
睦月は窓の方を見た。
ごめんね睦月・・・・・。
睦月の気持ちは痛いほどわかるけど…まだ圭がいる・・・・。
だからその後の言葉を 聞かない・・・・・。
ぎこちない時間が二人の間に流れて行く。
「俺 転勤になるんだ。
多分 しばらくは 戻れないと思う。」
睦月の言葉に心臓が少しキュンとした。
転勤・・・・・。
「幸を 守ってやるって言ったのに……なんか遠くにやられるんだ。」
私の心に 風が吹いた。