涙色ティアラ~180話~
みんなが腫れものに触るように私に気をつかってくれるのが
ありがたかった。
骨になって 板垣の家に戻った圭
私はひさしぶりの 板垣の家に足を踏み入れた。
お手伝いだった二人はもう退職していて
お葬式に泣きながら参列していた。
「おかえりなさいませ。」
新しい二人のお手伝いも目を潤ませて出迎えてくれた。
圭の人柄なのか お葬式にはたくさんの人が来ていて
そして誰もが泣いていた。
そんな中で 泣けない私を みなはどうとっているんだろう。
凛が距離をおいて私を見ていた。
私の心をさぐるように・・・・・。
それでも私は 泣けなかった。
「しばらくこっちに泊まりなさい。」
おじが言った。
「そうしなさい幸。向こうひきはらってうちでまた
暮らしましょう。華子も出て行くし 睦月もいないし・・・・
ここも寂しくなってしまって。」
おばがにっこりと微笑んだ。
「ここならきっと圭も安心してくれるし。」
「ありがとうございます。いろいろ考えてみます。」
私は深く頭をさげる。
「圭の部屋に・・・・泊めていただけますか?」
「圭の?いいけど・・・・・。」
「ゆっくり圭と話でもします。」
「そうしなさい。圭の出て行ったままになってるから・・・・。
戻ってくるって信じていたから 一切手をつけていなかったんだ。
掃除機と拭き掃除だけは毎日してもらっていたから 安心して休みなさい。」
「ありがとう おじさま おばさま・・・・・。」
おばが祭壇から 圭の遺骨を持ってきて 一緒に部屋に行きなさいと言った。
「感謝します。」
私は圭の遺骨を大切に抱きしめて なつかしい家の階段を登った。
二人で夜空を見上げた屋上
「圭 ここの星 よく一緒に見たよね。」
圭に恋してたころを思い出して 胸がキュンとした。
私の部屋だったところは 納戸になっていた。
それから圭の部屋の電気をつけたら 本当に圭がつかったままの部屋になっていた。
静かに机の上においた。
ベットにはきちんとカバーがかけられている。
几帳面な圭らしい
隠れ家での愛の日々を思い出した。
机の上には数冊の 本が転がっていて そこには圭の患った癌の書物も置いてあった。
不安な気持ちで過ごしたんだろう・・・・。
本棚の本
別れてからひさしぶりに見た
新しい本が増えている。その数冊を手にして
私は息をのんだ。
幸へ・・・・・・
「え?何?」
本のケースにかかれた 私の名前
圭の日記・・・・・・。
私はその日記を夢中になって読んだ。
別れたあの日の後悔や・・・・会いたくてたまらない夜のこと・・・・
隠れて私を見に 何度も遠くから店を見ていて
警備に不審がられた事・・・・・。
毎日毎日後悔して ここだけは飾らず縛られない圭がいた。
本音が 私に出てこなくなっていた涙を また流させる。
『全てを捨てて 幸だけを抱きしめられたら どんなに幸せだろう。
後悔して嘆いて・・・・一目でいいと 幸を遠くで見つめる日々。
幸はもう前を向いて歩き出してるのに 俺はどんどん後に下がっていく。
俺にとって幸がどんなに大切な存在なのかを 改めて痛感する毎日。
もう・・・・情けなくて 死にたくなる。
自分で死ぬことも選択することさえも できない情けない男』
それから圭が自分の体調の変化に気づき始める。
生きようか 死のうか 葛藤が始まる。
ある日 取引先で倒れて とうとう自分の病気を知ることになった。
死にたいから 治療は受けない
間違った選択をして 愛する女を泣かせて・・・苦労させて・・・
そんな男に逃げる道を与えてくれただけでも 病気に感謝しよう・・
圭はそう決心して治療を拒み 私と出会った土地に
勝手に病院を探して・・・・
そんな自分を義兄や姉に わびて
この日記は 白紙が続いていた。
そして一番最後のページに書かれていた言葉
もし死んで 人生がやりなおせるとしたら
また絶対幸を 見つけて 今度は絶対に 離さない。
そう書かれていた。
「圭・・・・・私のことこんなに愛してくれていたんだね。」
小さくなった遺骨を抱きしめて泣いた。
もう涙が枯れるまで 泣いた。
そして朝の光が 部屋をオレンジ色に染めた時
私はすがすがしい気持ちになった。
「圭 私もね・・・・やっと見えてきたよ。
答えが見つかった・・・・・・。」
圭の日記が見つかりやすいところに置いた。
おじやおばへの感謝の気持ちも一杯かかれていたから・・・・。
リビングに行くと おじとおば 華子と睦月が座っていた。
「おはよう 幸。」
私はニッコリ微笑んだ。
「おはようございます。」
新しい私の スタートの日だった。
見つかった答えに向かって 私はこれからの日々を精一杯生きて行こうと決めた。