悲しい再会~176話~
圭の苦しみを間近で見ることになり 激痛に顔が歪む圭の背中や腰を
撫ぜまくるしかできることはなかった。
看護師が打ってくれる注射も少しづつ効果がなくなっている。
これがもし きかなかったら 何時間圭はこの辛さを耐え抜くのだろう。
一緒にいる時間が長くなるにつれ
圭を早く楽にしてあげたい・・・・・。
私はそう願う自分に気がついていた。
もう顔はあの精悍で爽やかな圭はどこにもいない。
骸骨のようになった圭が苦しみで顔をゆがめていた。
「先生 他には薬ないんですか?苦しそうなんです。助けてください。」
やっと眠った圭
私も緊迫感から解放される。
圭が目覚めてまた苦しむ前に 何かいい薬や注射を用意してもらわないと・・・。
「これが強い薬なんです。後は 命尽きるまで 戦う日高さんを
幸さんが支えてあげてください。
残酷ですが・・・・。」
主治医の顔も苦しそうだった。
次の日 圭のところに家族がやってきた。
今日の圭は少し痛みから解放されているのかいい顔をしていた。
おじと睦月と仕事の話をして談笑している。
よかった・・・・。
「幸・・・・いい?」華子に声をかけられて振り返った。
「あのね 私来月式をあげることにしたの。 簡単にね。圭くんがこんな時だし
身内だけで……。」
いいづらそうにしてる華子に
「おめでとう!!よかったね。幸せになるんだよ。」
そう笑顔で言えた。
「それで おかあさまとも話をしたんだけど・・・・。」
おばがまた昔のような美しさで微笑んでいる。
「え・・・・!?」
「私の花嫁衣装なの。それを 幸に着てほしい。」
「何言ってるの?華子のでしょ?
私が着るなんて 何を言ってるのよ。」
「圭くんのお嫁さんになりたかった 小さい頃からずっと・・・・。
だからこれが最後 私の衣装で圭くんの隣に立ってほしいの。
想像するわ・・・・それが幸じゃなくて自分だって。
そして全部忘れて 彼のところに嫁ぐ・・・・。」
「いいの?私が最初に着ても。彼もいいって言った?」
「もちろん 彼は心の広い人だから・・・・。」
幸せそうに華子が微笑んだ、
私はおばを見た。
「おばさま・・・・いいんですか?」
「幸にはいろいろイヤなことばかりしたのに・・・こんなこと
お願いして…申し訳ないって思ってるわ。
もっと早く祝福するべきだったのにね・・・。
かえってこんなことお願いしてごめんなさいね。
圭を喜ばせたいの。」
おばの目に涙が浮かぶ。
「ありがとうございます。
花嫁衣装 着てみたかった・・・・。圭の目に映るなんて・・・・
うれしい これで少し元気になってくれたら・・・・。」
看護師の休憩室を借りて 私は華子の衣装を着させてもらった。
「あ~ちょっと大きかったわ。
幸は痩せているのね。胸が大きいから気がつかなかったわ。」
真っ白いドレスは 看病疲れの私に魔法をかけてくれた。
おばが髪の毛を高くアップして ティアラを乗せてくれた。
真っ先に思い出されたのは 淡雪が頭の上に乗っているのを
圭がお姫様みたいだねって言ってくれたことだった。
真っ白なベール
私のことを聞きつけた看護師さんが 出入りして
キャーキャーと興奮状態
「きれいだわ~~~幸さん。」
病棟の看護師さんが大騒ぎしている。
「日高さん ビックリするね。」
廊下を出ると 入院患者たちが振り返って 手を叩いてくれた。
主治医もニッコリほほ笑んで
「日高さん 今日は状態が落ち着いているから きっと
幸さんの美しさを堪能できると思いますよ。
何かあったら声かけてくださいね。」
「ありがとうございます。」
そう不思議だった・・・・あんなに苦しんでいた圭は今日は
落ち着いている。
朝 うたた寝をしてる私を痛い体を起こして毛布までかけてくれた。
「おはよう ごめんな。心配かけて。」
「圭 ・・・・今日はなんだか顔色がいいわ。」
「きのう先生違う薬入れてくれたんだ。
よかったよ。幸ともろくに会話できなかったからね。
今日はゆっくり話せそうな気がするよ。」
優しく髪の毛を撫ぜてくれた。
圭の病室の前に立って 華子とおばと笑い合った。
「花嫁が入場しま~~す。」華子が大きな声で裂きに入って行って
結婚行進曲を口ずさむと おじと睦月もくわわった。
おばの白い手が差し出されて 私はそのキレイな手に
自分の手を乗せた。
「きれいよ。ほんとにきれい・・・・。壮介もきっと
幸の美しさに 目を細めているわ。」
「ありがとう おばさま・・・・。」
お互い見つめ合って 私は圭の待つ病室に足を踏み入れる。
愛する人の元へ・・・・・
長い長い年月を経て いつかいつか
夢みていた瞬間をこうして 憎しみ合ってきた人達と和解し
祝福を受け 生涯かけて愛したただ一人の人の元へ・・・・・・・。
そこにいるのは あの頃の圭
私を見て 驚いた顔をしたけど すぐに顔をくしゃくしゃにして泣き笑い・・・・。
愛してる圭・・・・あなただけをこれからもずっと愛し続けるわ。