悲しい再会~174話~
泣きつかれた圭が眠った。
今日の圭は少しおかしいなって思った。
泣くなんて…
いつも元気なふりをしているのがきっと苦しくなったんだろうか
私の心はざわめき始めていた。
人の気配に振り返ると そこにいたのは板垣のおじとおばだった。
私は驚いて立ち上がった。
「おひさしぶりです。おじさまには就職の時は
お世話になりました。」
もう何を言われても覚悟しよう
まっすぐおじの目を見る。
私の父もきっと 同じ顔をしているんだろうか そんなことをふと考えた。
「仕事を辞めたと聞いた。
圭の看護のためなんだろ。」
「看護とかじゃなくて ただ一緒にいたくて……。
ご報告もしなくて勝手なことしてすみません。」
おばはかなり老いていて驚いた。
あの美しかった人が こんなに変わってしまうんだろうか。
おじの支えがないと おばは今にも崩れ落ちそうに見えた。
「今 主治医と話してきた。
幸が来てから 圭は積極的に治療を受ける様になったと。
少なくても寿命が延びているとも言っていた。」
「もっと早く知っていればと 後悔しています。」
「圭が・・・圭があんな風に泣くなんて・・・・・。
辛いのよ…痛いのよ…先生も言ってた…。
もう…いつ力尽きるかわからない状態だって!!」
おばが取り乱し始める。
「圭が死んだら・・・・私・・・どうしたら・・・
私のせいよ…圭が罰を受けてしまった……。こんなにまだ
若くて有能で将来にたくさんの可能性があったのに・・・・・
何で死んでしまうの……。」
おばがおじにすがりついたから
「やめて下さい!!!そんなこと 圭の前で言うなら
もう二度と来ないで!!!」
私はおばを怒鳴りつけていた。
「圭は生きようって必死なんです。
本当はしんどいのに 心で必死に元気になろうって頑張ってる。
そんな圭に やめてください。
死にませんから まだまだ圭は私と一緒に過ごすんです!!
私や両親のことで圭に不幸がふりかかったって
おっしゃってるようですけど 私は圭をのろったりしてません。
呪うならあなたです。」
おばはひきつったように私を見た。
「でも・・・・もうやめました。
あなたは圭の大切な人ですから・・・・。
圭の愛してるものを 私も愛したいと思いました。
もう恨んだり憎んだり後悔したりすることは無意味です。
圭が体をはって教えてくれたんです。
あなたにはその想いが伝わらないんですか?」
その時だった。
「ねえさん・・・・。」
消えそうな声に おばは圭に走り寄った。
「圭 どうした?大丈夫?どこか痛いの?」
「ねえさん…俺は幸がいてくれるから幸せだよ。
自分を責めること一つもないよ。
俺にとってねえさんは 親以上の人……どれだけ俺を愛してくれたか
俺が一番よくわかってるんだよ。
だから…もうそんなに自分を責めないで…。
俺を心配してくれるなら 幸を…幸を愛してあげて……。」
「圭・・・ごめんね・・・・。
私の執念深さが…圭の人生を摘み取ってしまった。
幸を愛してるって言ったあなたを…送り出せなかった私を
許してほしいの…。」
「許すも許さないも…俺が決めたことだから…
ねえさんやにいさんのせいじゃない。
お願いがあるんだ…聞いてくれるかい?」
「何?圭・・・・。」
「もうやめよう 恨んだり憎んだり嘆いたりすること・・・・
俺が安心して逝けるようにしてほしい。
そして俺が死んだら…幸を支えてやって。
義兄さんは幸の血のつながった人なんだよ。
幸のお父さんと同じ顔をしてる…幸はいつも義兄さんのこと
そんな目で見ていたの知っていた?
恋しがってるの…わかっていたはずだよ。
ねえさんは…俺の愛した人を…大切にして……
幸を愛してあげて……可哀そうな子だった……
俺はあの時の幸を忘れられない…なのに俺が幸せにするって
誓ったのに…できなかったから……。」
「幸が許してくれるなら…私は……
圭の宝物を大切に……させてもらいたい……。」
圭はゆっくりとおじに視線を移した。
「幸は・・・・母に似てるんだ。
俺は母に愛されなかった……恋しくてだけど母は壮介ばかり見て…
そんな恨みを幸にぶつけていたのかもしれない…。
そしていつまでも愛する人を呪縛し続ける壮介が憎かった。」
「あなた・・・・・。」
そして涙の一杯たまった目を私に向けた圭は
「幸も・・・許してくれるかい?」
そう囁いた。
何十年も私を縛りつけてきた呪縛が静かにほどかれた気がして
涙が溢れて止まらなくなった。
「幸・・・許して・・・・。」
おばが 恐る恐るハンカチを差し出した。
今度は私の方が子供のように 泣きじゃくった。
「幸・・・すまなかった・・・・。」
おじの声もかすれていた。
私は圭を振り返る。
圭はニッコリほほ笑んで うなづいた。
おばのハンカチを受け取とって 涙をふいた。
「幸・・・・おいで・・・・。」
おじの声に
私は父にそっくりであるだろうおじの胸に飛び込んだ。
そして泣いた。
人生の呪いを振り払うように
「ごめんね・・・・幸・・・・。」おばの今にも消えそうな声
私は首を振った。
「圭を・・・圭を育ててくれて…こんな素敵な人に
育ててくれてありがとう…ありがとうございました……。」
今度はおばの胸の中で泣いた。
呪いが私たちを 解放した瞬間 窓から優しい風が入って来た。